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「危機感」を口にする「危機感」のない人

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「お話聞いて、やっぱりまずいなぁ、と思いました。なんとかしなければいけないですね。」

講演の後の懇親会で、中堅SIerの社長から、こんなコメントを頂いた。しかし、この方は、去年も同じようなコメントをされていたように思う。

「うちには、どうも危機感がない。いくら話しても、それが伝わらないんですよ。どうすれば危機感を持たせることができるんですかねぇ。」

別の会社の経営幹部の方から、こんな話もあった。まるで、危機感を持っているのは自分だけで、部下は危機感を感じていないと言いたげだった。たぶん、彼の部下は、こんな経営幹部に危機感を持っているのではないだろうか。

「人のふり見て我がふり直せ」である。

ここに感じた違和感。きっと、「危機感」というものの本当の意味を体感されていない方の言葉だったからかもしれない。

2008年に始まったリーマンショックの煽りを受けて、収益に直接結びつかない経費は、ことごとくカットされた。コンサル、講演、研修などは、真っ先に切られる対象だった。

当時、私は、本当に暇な時期を過ごしていた。日々の生活もままならないほどに、厳しい時期だった。預金残高と財布の中身は一円の単位で頭の中に入っていた。そしてまた、こういうときに限って、避けようのないお金のかかる話が押しかけてくる。

今思えば、それが自分の仕事のスタイルを変えたきっかけだった。

どうせ暇なので、ブログを書き始めた。とにかく発信しなければ、きっかけは生まれない。漠然とした焦りがそうさせた。

勉強会も立ち上げた。これまで、研修やコンサルで培ったノウハウを全て無償で公開することにした。そんなものを抱え込んでいても、一銭にもならないからだ。

ITソリューション塾という新しい研修も立ち上げた。とにかく思いつくことを何でもやってみなければ、喰ってゆくきっかけはつかめない。そんな切羽詰まった危機感が、自分のケツを蹴っ飛ばしたのだ。

「危機感」とはそんなのではないのだろうか。「なんとかしなければいけないと思っている」、「いくら言っても危機感が伝わらない」と言える余裕こそ、危機感がないことの証拠だ。本当に危機感があれば、そんなことを口にできる余裕はなく、焦りと困惑と不安、そんな自分をさらけ出すことが恥ずかしくて、言葉にできない。まさに、自分はそんな状況に置かれていた。

「まずいなぁ」と思うのであれば、行動を起こして本当にまずいかどうかを確かめてみるのが一番だ。簡単にはうまくいかない状況に自らを追い込んでこそ、危機感は生まれる。

クレイトン・クリスチャンセンは、自著「イノベーション・オブ・ライフ」の中で、新規事業が成功している企業について、次のように語っている。

「成功した企業は、最初から正しい戦略を持っていたから成功したわけではない。むしろ成功できたのは、当初の戦略が失敗した後もまだ資金が残っていたために、方向転換して別の手法を試すことができたからだ。」

つまり、成功するまで何度も試し、成功するまで資金が続いた企業が成功したのだと説いているのだ。

うまくいかないことを繰り返すことの焦り、そして、不安。それが、自分の進退や経営に直結する。失敗すれば、家族を養うことさえできなくなってしまう。そういう境遇こそ、「危機感」ではないのか。それはなかなか言葉だけでは伝わらない。

経営者や経営幹部は、「危機感」を言葉ではなく、行動で部下に伝えることが必要なのだろう。例えば、一番稼げる優秀なエンジニアを現場から引っこ抜いて、新規事業の責任を持たせる。稼ぎ頭の事業部門を本体から切り離して、別会社にする。社長自らが退任して、だれもが意外と思うであろう後継者に次を託す。いろいろとできることはある。

何らかの行動を起こさなければ、危機感が生まれることはない。

自分は「ゆでガエル」になろうとしているのではないか。そんな意識を持ち続けていなければいけないと、改めて思う。

今週のブログ ---

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