3年後に今を振り返り、苦々しく思うか、苦労を懐かしむか
「お客様はシステムなんか欲しくはありません。欲しいのは、そのシステムで提供されるサービスです。」
私が主宰するITソリューション塾で、昨日講師を務めていだいた戦略スタッフサービス社長・戸田孝一郎氏が冒頭に語られた言葉だ。
「ビジネスに不可欠で、お客様が本当に使うものだけを開発して提供する。将来使うかどうか分からない、どんな機能や仕様にすれば良いのか、いまは分からない。そんなものは、本当に使う時に作ればいい。つまり、ジャストインタイムでシステムを開発する。それがアジャイル開発ですよ。」
戸田氏は、アジャイル開発の本質をこのように語られた。
「実際に開発されたコードの6割りが使われないままになっているという統計もあります。開発者は、そんな使われないシステムのために時間をかけてコードを書き、テストする。お客様も使わないもののためにお金を払う。おかしくありませんか?」
「半年後にどのように使われるかを、いま自信を持って確定できるでしょうか。一年先はどうです?ビジネスの現場は、凄い勢いで変化していますよ。そんな未来ことをいま決めろなんて、無茶な話ではありませんか?」
「プログラムを書かない人、いや、書けない人が、システム開発の工程や日程を作り、それを管理することができるのでしょうか?」
などなど、当たり前の話ばかりだ。この「当たり前」を実現しようというのが、アジャイル開発だという。
突き詰めれば、つぎのようなことになるのだろう。
- ユーザーが本当に使うシステムだけを作ることで、ムダな開発投資をさせない。
- ユーザーとのコミュニケーションを繰り返し、変更要求にも柔軟に対応し、ユーザーが納得して使えるシステムを実現する。
- ユーザーが納得できる予算の中で最善の機能を実装し、約束した期間の中で最高の品質を実現する。
この講義に参加されているのはSIerの営業やSEの方が大半だが、実践体験に裏打ちされた迫力あるお話に引き込まれているようだった。
彼がSIerに指導している「アジャイル型請負開発」については、以前のブログで紹介しているので、詳細はこちらをご覧頂きたい。
「お客様の価値」が優先されないビジネスなど、いずれは成り立たなくなるだろう。幸いにも、過去の価値観を変えたくないお客様もまだまだ多く、いまはなんとかなっているが、そんなものが長続きするはずはない。
そんな当たり前を見ない振りをすることもできる。脇目で見ながら、「変わらなければ」と口にすることもできる。しかし、行動を起こす人は少ない。
アジャイル開発が唯一の解決策だなと申し上げるつもりはないが、「お客様の価値」や「お客様の幸せ」に真摯に向き合うひとつの方法であることは間違えない。
新しいことをモノにするには時間かがかかる。何度も失敗をして、経験を重ねなければ、成功を手にすることはできない。それには、お金もかかる。
数年先に需要が急減するであろうことは、多くの人が語るところだが、そのときになったら、試行錯誤などしている余裕はないだろう。直ちに成果を求められ、失敗は致命傷になる。
今という時期がどれほど貴重な時期であったかを3年後に振り返り、苦々しく思うか、苦労を懐かしむか、そんな判断が、いま求められているのではないだろうか。
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