「クラウドは使えない!」という都市伝説
「クラウドは未だ使えない」と懸念をいだく人も少なからずいる。その理由を尋ねると、「セキュリティ」「ネットワークパフォーマンス」「既存システムからの移行」に懸念があるという声があがる。
本当にそうだろうか?AWSを例に、みてゆくことにしよう。
まず「セキュリティ」だが、ミッションクリティカルを標榜するクラウドプロバイダーにとっては、最も優先順位の高い取り組みだ。データセンターやネットワークなど物理インフラに関しては24時間365日、セキュリティの専門部隊がきっちりと対応している。また、SOC2、FIPS 140-2、ISO27001、ITAR、PCIDSSなど信頼できる第三者機関による認証を通し、積極的に情報を開示している。
たとえば、厳格なセキュリティ対策を求められている金融機関において情報セキュリティ対策の指針となっているのが、公益財団法人金融情報システムセンター(FISC))が作成した「金融機関等コンピュータシステムの安全対策基準・解説書」、通称「FISC 安全対策基準」と言われるものだが、その対応が示されている。一般の企業で、自社の物理インフラをここまで徹底して管理している企業はどのくらいあるだろうか。
「ネットワークパフォーマンス」については、インターネットで接続する以外に、専用線で接続できる。セキュリティとともに、安定したパフォーマンスを担保することも可能となった。さらにVPC(Virtual Private Cloud)を使えば、L2での接続が可能であり自社のデータセンターをAWSのデータセンターに拡張するように利用できる。
「既存システムからの移行」についても、主要なオペレーティングシステム、ミドルウェア、ビジネスアプリケーションをクラウドで利用できるようになり、移行に支障をきたすことはなくなりつつある。また、VMWare、Hyper-V、KVMなど、多くの仮想化基盤もサポートされ、自社内の仮想化基盤をそのまま移し替えて稼働させることもできる。
どこでもきることではないが、AWS以外にも、このよう取り組みを進めるクラウドプロバイダーも増えつつある。その結果、基幹業務をクラウドへ移行しようと考える企業も増え始めているようだ。
「クラウドは、まだ使えない」は、もはや都市伝説といえるだろう。むしろ「セキュリティを強化するために」、「災害対策のために」、「安定稼働を維持するために」クラウドを利用する時代になりつつある。
しかし、このような常識が広がることに抵抗をしめすふたつの勢力がある。ひとつはSI事業者、もうひとつは情報システム部門だ。共に、この現実に目を閉ざし、知ろうとしない。あるいは、常識の変化を脇目に見つつも、未だ大丈夫、何とかなると、行動を起こしていないのかもしれない。
SI事業者にすれば、クラウドは、案件規模の縮小で有り、工数を稼げなくなる。さらに、新しいスキルを求められる。また、情報システム部門も「システムを所有すること」を前提に自分達のスキルや仕事のやり方を作り上げてきた。クラウドによりテクノロジーの隠蔽かがすすめば、そのような仕事は少なくなり、業務やビジネス・プロセスに自らのスキルをシフトしなければならない。言うなれば、自分達のレゾンデートルの喪失である。
そういう人たちにとって、組織や自分を守ろうとすれば、クラウドは脅威であり、お互いに暗黙の利害の一致を見出しているのかもしれない。そういう心理が「クラウドは未だ使えない」という都市伝説を広めているのかもしれない。
もちろん、この現実に目を向け、真摯に向き合うSI事業者や情報システム部門も少なくはない。組織を変え、収益構造を変え、積極的に人材の育成を図っているところもいくらでもある。ただ、「クラウドは未だ使えない」が、いまだ聞こえてくることを思えば、クラウドの普及もまだまだなのだなぁ、と考えてしまう。
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「システムインテグレーション崩壊」
〜これからSIerはどう生き残ればいいか?
- 国内の需要は先行き不透明。
- 案件の規模は縮小の一途。
- 単価が下落するばかり。
- クラウドの登場で迫られるビジネスモデルの変革。
工数で見積もりする一方で,納期と完成の責任を負わされるシステムインテグレーションの限界がかつてないほど叫ばれる今,システムインテグレーターはこれからどのように変わっていくべきか?そんなテーマで考えてみました。
ITビジネス・プレゼンテーション・ライブラリー/ LiBRA
「ITトレンドとクラウド・コンピューティング」を改訂しました。
あわせて、本プレゼンテーションの解説書も掲載致しました。
目次 ---
- クラウド・コンピューティングで変わるITの常識
- 「自家発電モデル」から「発電所モデル」へ
- クラウド・コンピューティングの価値
- クラウドが出現した歴史的背景
- 所有から使用へ
- TCOの削減の理由
- クラウドはシステム資源のECサイト
- クラウドのもたらすパラダイムシフト
- クラウドがもたらすイノベーション
- クラウド・コンピューティングとは
- クラウド・コンピューティングとITトレンドの関係
- クラウド・コンビューティングの起源とGoogleの定義
- クラウドの定義・NISTの定義
- サービス・モデル
- 配置モデル
- ハイブリッド・クラウド
- IaaS基盤
- オープン・クラウドの動向
- 5つの必須の特徴
- 仮想化基盤とIaaSの違い
- データセンター・サービスとクラウドの関係
- パブリック・クラウドとオンプレミス
- クラウドのふたつの視点
- クラウドで変わるITの常識
- Infrastructure as a Code
- クラウドの価値
- クラウド・コンピューティングの現実
- 「クラウドは使えない」という都市伝説
- クラウドに期待される価値・日米の違い
- クラウドの可能性と戦略的価値の新たなポジショニング