モデルの個性を活かしたシンプルな演出が光るバーニーズニューヨークのショッパブルビデオ
ニューヨークに拠点を置く米国のデパートメントストアとして日本(※日本では新宿、銀座、横浜に3店舗を展開している)にもファンが多いバーニーズニューヨークが、若い裕福層をターゲットとしたコープライン用のショッパブルビデオをローンチした。このバーニーズニューヨークが新たにローンチしたショッパブルビデオ、今までのブランドが展開してきたショッパブルビデオとちょっと違った特長を持っている。
そこで今回は、バーニーズニューヨークがローンチしたばかりのコープライン用のショッパブルビデオが、今までブランドが展開してきたショッパブルビデオとどこか違っているのかを見てみたいと思う。
【1】 ショッパブルビデオの特長とメリット
バーニーズニューヨークがローンチしたショッパブルビデオを見る前に、ショッパブルビデオについて復習しておきたい。
■ インタラクティブビデオとショッパブルビデオの違い
ショッパブルビデオ最大の特長は、クリックエイブルだということ。ビデオのある部分をクリックすると、次のアクションが作動する仕組みになっている。この点については、インタラクティブビデオも同様の特長を持っている。インタラクティブビデオも、クリックエイブルになっていて、ビデオの決められた部分をクリックすると次のアクションが作動するようになっている。
では、インタラクティブビデオとショッパブルビデオの違いは一体どこにあるのだろうか。そもそも活用方法と目的が違っている。インタラクティブビデオは、どちらかといえばエンターテインメント性が高く、ゲームを始めとしたコンテンツとして提供されるものがほとんどである。目的は、消費者を楽しませることにある。
一方、ショッパブルビデオは、小売事業者やブランドが運営するオンラインショッピングサイトのコンバージョンをアップが目的の、極めてビジネス色の強いビデオである。内容は商品の機能や特長を伝えるものが多く、ビデオの種類としてはプロダクトビデオ(商品動画)に分類される。そして、クリックした次のアクションは、商品の購入ページにリンクされるのが一般的である。目的は、コンバージョンレートのアップである。
つまり、クリックエイブルなプロダクトビデオ、それがショッパブルビデオだ。では、プロダクトビデオをクリックエイブルにする意味とは何だろう。ショッパブルビデオには、販売する小売事業者側と購入する消費者側それぞれにメリットがある。
■ 小売事業者から見たショッパブルビデオのメリット
小売事業者から見たショッパブルビデオのメリットは、複数の商品を1つのビデオで見せられる点だ。たとえば、今回のバーニーズニューヨークのように、アパレルだったら商品を単品ではなくトータルコーディネイトで見せることができる。アパレルは、単品ではなくトータルコーディネイトで見せて始めて商品の魅力が伝わる。よって、頭からつま先まで、全ての商品をトータルコーディネイトで見せられるショッパブルビデオは非常に利用価値が高い。
小売事業者から見た2つ目のメリットは、コンバージョンレートのアップが期待できる点だ。米国の小売事業者では、プロダクトビデオを導入してコンバージョンレートが5~25%アップしたという成功事例がいくつも報告されている。しかし、プロダクトビデオはビデオから直接商品を購入させることができない。ビデオと商品購入の間にどうしてもワンクッション入ってしまう。しかし、ショッパブルビデオは、ビデオから直接商品の購入ができるようになっている。
ビデオを見て高ぶった購買意欲を抑えることなく、その購買意欲を保ったまま商品が購入ができるのである。これによって、プロダクトビデオ以上のコンバージョンレートが期待される。
■ 消費者から見たショッパブルビデオのメリット
消費者から見たショッパブルビデオのメリットは、使っていて楽しいと感じられる点にある。バーニーズニューヨークのショッパブルビデオもそうだが、やはり実際にアクセスしてみると楽しくなってくる。用意されているビデオ全てが見たくなるので、ウェブサイトに滞在する時間もついつい長くなってしまう。
⇒ 過去に紹介したショッパブルビデオ
【2】 バーニーズニューヨークのショッパブルビデオ
では、バーニーズニューヨークがコープライン用にローンチしたショッパブルビデオは、一体どんな特長を持っているのだろうか。
① ウェブサイトのベストポジションに配置されている
最も特長的なのは、ショッパブルビデオがウェブサイト最上部の一番目立つベストポジションに配置されている点だろう。バーニーズニューヨークのウェブサイトにアクセスすれば、すぐにコープラインのショッパブルビデオが見つかる。現在は、コープラインの春物商品のショッパブルビデオがメンズとウイメンズ別に左右に分かれて用意されている。
⇒ バーニーズニューヨークのウェブサイト http://www.barneys.com/
● バーニーズニューヨークのウェブサイトTOP画面
※ トップページの一番目立つ場所に配置されている。左側がメンズで右側がウイメンズ。
② iPadに最適化されている
次に目を引くのが、iPadに最適化されている点だろう。メンズとウイメンズどちらでもいいので、画面に表示されている再生ボタンをクリックしてみてほしい。すぐに画面いっぱいに再生プレイヤーが表示され、ショッパブルビデオの再生が始まる。
iPadを持っていれば、是非iPadでもアクセスしてみてほしい。QuickTimeが起動し、iPadでもちゃんと再生できるようになっている。今までのショッパブルビデオの中には、iOS端末に対応していないものが多かったので、iOS端末でもちゃんとビデオが再生できるのは消費者からすれば嬉しい。
● ビデオ再生プレイヤー画面
※ 画面いっぱいに表示される再生プレイヤー。iPadでもキレイに再生できる。
③ モデルの個性を活かしたシンプルな演出
実際にビデオを見ればわかるのだが、内容も今までのショッパブルビデオと随分違っている。今までのショッパブルビデオは、ストリー性のあるどちらかと言えば凝った演出のものが多かった。ところが、今回のバーニーズニューヨークのショッパブルビデオは、モデルがインタービューに答えるというだけの、モデルの個性を活かしたシンプルな演出が特長だ。
④ 購入できる商品が一目でわかるサイドバー
今回のバーニーズニューヨークのショッパブルビデオで感心させられたのが、再生されているビデオの左側に表示されているサイドバーだ。今までのショッパブルビデオは、ビデオの中でモデルが着ている洋服が欲しい場合、モデルを直接クリックするインタフェースが一般的だった。
しかし、このインタフェースだと、モデルの着ているどの商品が実際に購入できるかがわかりにくい上、モデルの動きが激しいと上手くクリックできないという問題点があった。しかし、購入できる商品を左サイドバーに表示することで、今までの課題を見事に解決している。購入できる商品が一目でわかる上に、動きがないのでクリックも簡単だ。
● ビデオ再生プレイヤーの左に表示されるサイドバー
※ サイドバーで商品を選ぶと、購入ページに移動してチェックアウトができる。
⑤ 別の商品購入ページにすぐに移動できるスクロールバー
ショッパブルビデオを黙って見ていれば自動的にモデルが切り替わる仕組みになっているが、好みの商品の購入ページに直接移動したい場合がある。そんな時は、ビデオ再生プレイヤーの下部に用意されているスクロールバーが便利だ。矢印ボタンをクリックして、お気に入りの商品を簡単に見つけられる。
● お気に入りの商品に移動できるスクロールバー
【3】 今回のまとめ
■ ターゲットが明確なバーニーズニューヨークのショッパブルビデオ
今回バーニーズニューヨークがコープライン用にローンチしたショッパブルビデオは、若い世代に完全にターゲットを絞っている点が特長だ。それは、シンプルな演出を見てもわかる。
新たにショッパブルビデオをローンチするに当たり、バーニーズニューヨークは事前調査をかなり重ねたらしい。そして、過去のキャンペーンの売上などの情報を詳細に分析した結果、今回のターゲットである若い世代には、従来までのメールや紙のカタログを使ったマーケティング戦略では効果がないと判断し、最終的にショッパブルビデオの導入を決定したという。
バーニーズニューヨークは、今回のショッパブルビデオがあくまでもコープラインがターゲットとする若い世代だけに向けたものであると割り切っている。よって、その他の層には、従来までのメールやカタログによるアプローチを継続している。
このバーニーズニューヨークのアプローチは正しい。今までのブランドが、どちらかと言えば、全方位的にショッパブルビデオを展開してきたのに対し、バーニーズニューヨークはターゲットを明確に定めている。そこが今までのブランドが展開してきたショッパブルビデオと大きく違う点だ。
そのこだわりはキャスティングにも現れている。今回のショッパブルビデオで起用したモデルは、ほとんどが地元ニューヨーク出身だという。
■ ショッパブルビデオの可能性
ショッパブルビデオを導入する企業は、果たして今後も増えてくるのだろうか?私は、ブランド、アパレル、小売事業を中心に、ショッパブルビデオを導入する企業は今後も増えてくると予想している。
理由は、オンラインショッピングサイトと非常に相性がよいことと、プロダクトビデオ以上のコンバージョンが期待できるからだ。また、アパレルに限って言えば、商品を単品ではなくトータルコーディネイトで見せられるのも魅力の1つである。また、消費者に楽しいと思ってもらえるショッピング・エクスペリエンスを提供できるのも、ショッパブルビデオならではの導入効果だと言えるだろう。
また、今回のバーニーズニューヨークのショッパブルビデオを実際に再生してみてわかったのだが、ショッパブルビデオはタブレットとの相性が非常に良い。ショッパブルビデオは、タブレットコマースにとってキラーコンテンツになりうる可能性を秘めていると言っても決して過言ではない。
今回のバーニーズニューヨークのショッパブルビデオがどんな効果をもたらしたか、結果がわかり次第報告したいと思う。