ビデオマーケティング最新活用事例:F1ドライバーのルイス・ハミルトンとラップタイムを競い合 うタグ・ホイヤーの"Ultimate Lap"
スイスの高級時計ブランドとして世界中のファンから愛されているタグ・ホイヤーは、積極的にビデオマーケティングを活用するブランドの1つとして知 られている。1月5日の記事でも紹介したように、わざわざHappy New Yearビデオを用意するほどビデオマーケティ ングには力を入れている。
そのタグ・ホイヤーが、2012年の新年早々"The Ultimate Lap"と名付けられた非常に興味深いビデ オマーケティングキャンペーンをローンチした。正確には、プロジェクトの目玉であるメインとな るコンテンツ自体はローンチしていないのだが、そこに向けてのマーケティングキャンペーンはす でに始まっており、それがかなりユニークで参考になりそうな内容になっている。
■ F1ドライバーのルイス・ハミルトンとラップタイムを競い合う?
今回の"The Ultimate Lap"と名付けられたビデオマーケティングプロジェクトの概要だが、タイト ルにもある"Ultimate Lap(最速のラップ)"からもわかるように、モータースポーツをテーマにし たものである。しかも、YouTubeやフェイスブックに公開されている情報から推察する限り、どうや ら初の黒人F1ドライバーとして人気の高いルイス・ハミルトンとラップタイムを競い合うといった 内容のものらいしい。
どんな方法でラップタイムを競い合うのかまでの詳細はわかっていないが、恐らく最終的にはゲー ムを使ったコンテンツになるはずである。YouTubeとフェイスブックに公開されているビデオを見て も、何となくゲームがローンチされそうな感じが伝わってくる。
25年以上にも渡り、ボーダフォン・マクラーレン・メルセデスとF1パートナーとして成功を収めて きたタグ・ホイヤーのことだ、きっと面白いゲームを提供してくれるだろう。それを期待させるよ うに、タグ・ホイヤーのスポークスマンも、「重要なのはインタラクティブであること。ただキレ イなだけのウェブサイトを用意しようとは思っていない。本当のドライビング体験が伝わるような コンテンツにしたい」と語っている。
では、次にタグ・ホイヤーが"The Ultimate Lap"プロジェクトのために展開しているビデオマーケ ティングの手法を紹介したい。
■ YouTube、フェイスブックファンページ、ウェブサイトに35秒の印象的な予告編ビデオを公開
タグ・ホイヤーは、まず今年の1月5日に「TAG Heuer - Ultimate Lap - Trailer 」というタイトル が付けられた予告編ビデオをYouTubeに公開する。
この赤と黒がフューチャーされた35秒のビデオは、激しいエンジン音のサウンド効果とスピード感 溢れるルイス・ハミルトンのドライビング映像の効果もあって、次に何が起こるのかを十分期待さ せる内容になっている。特に、“Tag Heuer, you against Hamilton in an Ultimate Lap.”のメッ セージがそれを予感させる。
そして、この予告編ビデオはファイスブックファンページにも使われている。タグ・ホイヤーのフ ェイスブックファンページにアクセスして、タブの"Ultimate Lap"をクリックすればコンテンツが 表示される。イメージの中央にある"Ultimate Lap"のアイコンをクリックすると、YouTubeと同じ予 告編ビデが再生されるしくみになっている。
タグ・ホイヤーは、ビデオマーケティングを行う際、消費者とのエンゲージを目的に、ソーシャル メディアの活用と一緒にそのプロジェクトのためだけの特集ウェブサイトを用意することがあるの だが、今回はウェブサイト上に予告編ビデオを公開している。ウェブサイトでは、YouTubeやフェイ スブックファンページとは違って、迫力のあるルイス・ハミルトンを起用したビデオをフルスクリ ーンで視聴することができる。
また、ビデオの再生画面の上部右に表示される"Skip Video"ボタンをクリックすると、ルイス・ハ ミルトンの写真がダウンロードできるようになっている。そして、"GET READY!"のメッセージが、 ゲームが近日公開であることを匂わせている。
■ ビデオマーケティングの成功パターンはウェブ、ソーシャル、モバイルのミックス
タグ・ホイヤーの今回のプロジェクト"Ultimate Lap"は、ビデオマーケティングの成功パターンを 定石通りに展開していると言っていい。
① ウェブサイト
まず、ウェブサイトを全ての中心に置いてある点。時々、YouTubeやフェイスブックなどのソーシャ ルメディアだけにビデオを公開しているケースを見かけるが、この展開方法は間違っている。ビデ オマーケティングの中心にあるのはあくまでもウェブサイトでなければならない。
ウェブサイトは、ブランドのファンが必ず知っている場所であり、真っ先に訪れるメディアである 。ビデオマーケティングを展開するブランドは、ファンの中にソーシャルメディアのアカウントを 持っていないユーザがいることも考量しておく必要がある。どんなファンでも簡単にアクセスする ことができる場所、それがウェブサイトだ。よって、ビデオマーケティングの中心はウェブサイト でなければならないということになる。
ビデオマーケティングの中心がウェブサイトでなければならないもう1つの大きな理由がある。それ は、ウェブサイトだけが、何の制約も受けずに自由なアイディアとクリエイティブを発揮できる場 所だからだ。ソーシャルメディアは無料で利用できる非常に強力なツールではあるが、そのソーシ ャルメディアが定めた制約がある。タグ・ホイヤーが今回展開しているような、フルスクリーンで ビデオを再生させたり、ビデオをスキップさせて写真のダウンロードページに移動させるなどの機 能は、自分たちの思いのままに扱えるウェブサイトでなければ実現できない仕掛けである。
ビデオマーケティングの中心は、あくまでもウェブサイトでなければならない。
② ソーシャルメディア
今回のタグ・ホイヤーが、予告編ビデオをYouTubeとフェイスブックに公開しているように、最近の ビデオマーケティングにとってソーシャルメディアへの展開は必須である。この場合、YouTubeだけ ではなく、フェイスブックやグーグル+も利用することが重要になってくる。参考まに、"Ultimate Lap"の予告編ビデオは、ちゃんとグーグル+ページにも公開されていた。
ビデオマーケティングを展開する上でソーシャルメディアが有用なのは、ブランドがファンと簡単 にコミュニケーションができるからだ。「いいね!」「シェア」「コメント」などのアクションに よって、ビデオに対する反応を知ることができる点が、ソーシャルメディアのメリットだと言って いいだろう。
日本の企業やブランドは、フェイスブックファンページやグーグル+ページにビデオを公開してい る例がまだ少ない。ビデオマーケティングを成功させるためにはYouTubeだけでは不十分だ。フェイ スブックとグーグル+ページの利用が必要不可欠になってくる。
③ モバイル
モバイルは、ビデオマーケティングにとって、今後ソーシャルメディア以上に重要になってくる可 能性がある。ここ最近のスマートフォンとタブレットのユーザの伸びと、モバイルコマース(特に タブレット)の勢いを見ているとそう感じてしまう。
★ ビデオマーケティングにモバイルが重要な理由
・ スマートフォン&タブレットユーザが急増している
・ モバイル&タブレットコマース市場が急速に拡大している
・ スマートフォンとタブレットはコンバージョンレートがPCよりも高い
・ モバイルビデオは最後まで視聴される割合がPCよりも高い
・ モバイルビデオはアプリと簡単に連携できる
今回のタグ・ホイヤーは、モバイルビデオは用意していないが、もうすぐローンチされるはずのゲ ームは、間違いなくiPhoneやiPadから(あるいはAndroid)ダウンロードできるアプリで提供される はずである。よって、モバイルにもしっかり対応しているということになる。今回のタグ・ホイヤ ーのビデオマーケティング戦略に死角は見つからない。
■ 今回のまとめ:ビデオマーケティングにとってウェブサイトはマストである
今回のタグ・ホイヤーのビデオマーケティング戦略を見ても明らかな通り、ウェブサイトの重要性 はどんな新しいメディアが登場してきたとしても不変である。ビデオをディストリビューションす る時の中心は、あくまでもウェブサイトでなければならないということだ。
そういう意味では、PC以外のスマートデバイスからアクセスしてくるユーザのために、ウェブサイ トのスマートフォンとタブレット対応が必要になってくる。YouTube、フェイスブック、グーグル+ のスマートフォンアプリのユーザインターフェースは、お世辞にも使いやすいとは言えない。自分 たちのウェブサイトを、スマートフォンやタブレットからアクセスしてもPCと変わらないユーザイ ンターフェースで扱えるようにしておくことが重要になってくる。
ビデオのディストリビューション先は多いにこしたことはない。よって、ソーシャルメディアを活 用するのであれば、中途半端なことはやめて全てのツールを活用するべきである。特に今後お薦め したいのはグーグル+ページだ。グーグル+ページの無駄のないシンプルなユーザインターフェー スは、フェイスブックよりも企業ニーズに合っている気がしてならない。ビデオマーケティングを 展開する際は、是非グーグル+ページも検討してみてほしい。
2012年になって、海外の企業は様々なビデオマーケティングキャンペーンを展開している。そして 、このトレンドはここ当分続きそうな勢いである。