「あれ、歯の色が違う...?」 入れ歯修理で起きた、まさかの"色問題"と、入れ歯修理できる歯医者ならではの解決策
「あれ、ちょっと歯の色が違いますよね~」
とおっしゃるのは50代女性のNさん。
歯が抜けたので、抜けた部分にプラスチック製人工歯を入れ歯に継ぎ足す増歯修理を行ないました。
すぐにNさんが気づいたのが人工歯の色です。
元々の入れ歯に使われている歯の色と修理した部分の歯の色に違いがある。
入れ歯の人工歯の色はいくつかパターンがあります。
一般的に技工所で入れ歯を作製するときは、もう歯の形になっている既製の人工歯を使います。
いっぽう修理するときに既製の人工歯を使おうとすると大きさや形がピタリとは合わず結局は大幅に削って修正することになります。
また人工歯はある程度の大きさがあるので咬み合わせが高くなりがちです。
すると顎関節や残っている歯、入れ歯の適合などに悪影響を及ぼします。
ですから既製の人工歯を使うとキレイな形にできると思えますが実際には大してキレイな仕上がりにはなりません。
たとえば最初から新しく入れ歯を作るなら、模型上でワックス製仮入れ歯に人工歯を埋め込みます。
咬合器という口の中を模した機械に石こう模型を取り付けて作業しやすい状況を作って、しかも日数かけて作業できます。
そのように作業もしやすく時間もたっぷりあるなら既製の人工歯が活かせますが、新しく作るのに比べたら簡易な模型で時間もうんと限られる修理の現場では難しいのが実情です。
そのような理由から当院では、粉と液を混ぜると硬化する簡易なプラスチック(即時重合レジン、即重レジンと呼ばれます)で修理部分の歯の形を作ることがほとんどです。
こうすれば形も咬み合わせも自由自在。
仕上げ研磨することでピカピカに光らせることも、ある程度は可能です。
しかし今回のNさんの場合は隣りあった前歯の色が修理部分が違ってしまいました。
奥歯で見えない場所なら誰も気にしないのですが前歯だとやはり違和感あります。
既製の人工歯も、即重レジンも、色見本の型番でいうと「A3」という型番を使うのが一般的です。
A2になるとより明るくなります。A3.5とかA4だと暗くなります。
Bという系統の色を使うと黄色くなります。
Cという系統の色を使うと青くなります。
とはいえ既製人工歯と即重レジンでは同じA3でも色が違うんです。
即重レジンの方が赤っぽさが強いです。
日本人の歯はシェードAよりも赤色が強い人が多いとされていて、赤みが強いシェードR(レッドプラス)というものがあるくらいです。
参考文献:YAMAKIN株式会社https://www.yamakin-gold.co.jp/yn/qa053_twiny/
根本的な色が違うということで、これはもう即重レジンでは解決しません。
保険治療でも、入れ歯はここまで治る
運のいいことにNさんは比較的歯が大きくて咬み合わせに余裕があります。
そこで今回は一度増歯修理した部分を大幅に削って既製の人工歯を埋め込むことにしました。
他院で作製された入れ歯でしたが既製の人工歯の色はだいたい同じです。
人工歯を作る会社は数多くあるのですが同じ基準で作っているのだと思われます。
もっとも咬み合わせが低くて余裕ない入れ歯だと人工歯も低く薄く小さくなります。
歯グキから2ミリくらいしか高さがない入れ歯なども当院ではよくあります。
すると歯の色もハッキリしないので色の違いなどあまりよく分からず、こういった話にはならないものです。
どのような入れ歯にも、それぞれに違った難しさがあるということです。
そのようなことで当院にストックしている既製の人工歯は隣の歯と色が見事に一致!
「わ~、これなら違和感ないですね~」
鏡を見たNさんは笑顔で答えてくださいました。
保険治療で入れ歯の金属バネが折れたのを修理
普段はやらないことでも必要に応じては臨機応変に対処する。
「いや、ガマンしてください」
などと言うことはありません。
気になることは遠慮なくおっしゃっていただければと思います。
今回行なったNさんの入れ歯を増歯修理する治療は、通院回数1回、保険治療3割負担で費用は総額約4,000円でした(症状により金額は変わります)。
歯の色(シェード)とは?
歯の色を表現する際に歯科医療では「シェード」という専門的な言葉が使われます。
これは、単に「白い」とか「黄色い」といった抽象的な表現ではなく、歯の色を客観的に評価するための指標です。
つめものや被せもの、ホワイトニングなどの審美歯科治療において、天然歯の色調に調和させるために不可欠なものです。
このシェードの基準となるのが「シェードガイド」と呼ばれる色見本です。
これは歯の形をしたセラミック製のピースが多数並べられたものになっています。
世界的に広く使われているのが
「VITA Classical Shade Guide」
シェードガイドの中でも世界中の歯科医療機関で最も広く使われているのが、ドイツのVITA社が製造する「VITA Classical Shade Guide」です。
このシェードガイドは、歯の色調を以下の4つのグループと、それぞれの明度(明るさ)で分類しています。
A系統:赤茶色系
A1、A2、A3、A3.5、A4
B系統:赤黄色系
B1、B2、B3、B4
C系統:灰色系
C1、C2、C3、C4
D系統:赤灰色系
D2、D3、D4
アルファベットの後の数字は明度を表しています。
数字が小さくなるほど明るく、大きくなるほど暗くなります。
たとえば、A1はA4よりも明るい色になります。
このガイドは全部で16色で構成されており、多くの日本人はA系統の色を持つ傾向にあります。
とくにA3からA3.5が平均的な色とされています。
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シェードの3つの要素:Hue(色相)、Chroma(彩度)、Value(明度)
歯の色は、実は単一の色ではなく、複数の要素で成り立っています。
シェードの専門的な評価においては、以下の3つの要素を総合的に考慮します。
Hue(色相):色の種類そのものを指します。VITA Classical Shade Guideでいうところの「A」「B」「C」「D」といった、赤茶色、赤黄色、灰色、赤灰色といった色味のベースです。
Chroma(彩度):色の濃さや鮮やかさを指します。彩度が高いほど色が濃く、低いほど淡くなります。
Value(明度):色の明るさを指します。明度が高いほど白く明るく、低いほど暗くなります。
この3つの要素の中で、歯の審美性を決定する上で最も重要視されるのが「明度(Value)」です。明度が低い(暗い)歯は、たとえ色相が理想的であっても、くすんで見えがちです。
当院は行なっていませんが、最近流行のホワイトニングは、主にこの明度を上げて歯を明るくする治療と言えます。
シェードの選択方法:シェードテイキング
詰め物や被せ物、入れ歯の目標色を決定する作業は「シェードテイキング」と呼ばれます。これは歯科医療において非常に重要な工程であり、以下の点に注意して行われます。
自然光での確認:
歯医者の蛍光灯の照明は、歯の色を実際と異なって見せる可能性があります。
ですから自然光の下でシェードガイドを歯にあてて色を確認することが基本です。
短時間での判断:
長時間シェードガイドを見続けていると、目の錯覚で色の判断が鈍ってしまうため、5秒以内に最も近い色を判断することが推奨されています。
歯の位置による色の違い:
同じ人の歯でも、歯の上部(切縁)と歯茎に近い部分(歯頸部)では色が異なることがあります。
また、犬歯は他の歯に比べて黄色みが強い傾向があるため、それぞれの部位の色調を個別に確認することも重要です。
患者との意思疎通:
歯医者は、患者の希望を尊重しながら、専門的な知識に基づいて、より自然で美しい仕上がりになる色を提案します。
まとめ
歯の色、すなわちシェードは、歯の健康と美しさを測る重要な指標です。
シェードガイドは、歯医者、歯科技工士、そして患者の間で共通の認識を持つための「色のものさし」として機能し、詰め物、被せ物、入れ歯など歯科治療の成功に不可欠な存在です。
単に白い歯を目指すのではなく、その人に合った自然な色調を選ぶことが、健康的で魅力的な笑顔に繋がります。
https://www.ireba-ito.com/→いとう歯科医院