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たった6週間でガラクタになったと言われたEVスポーツ、テスラロードスター。メーカーは、業界は、どうするのか?

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アメリカの電気自動車(EV)ベンチャー、テスラモータースの欠陥問題が話題になっています。

日本でもWIRED日本語版が伝えた「テスラのEVにバッテリー切れ問題:修理費3万2000ドル」 というニュースがかなり注目を集めているようです。

トラブルは概ね次のような状態とのこと。

テスラロードスターを充電しないまま6週間ほどガレージに停めておいた後、エンジンを始動しようとしたところ、まったく動かなくなっていた。再び充電することもできず、Tesla側からは「バッテリー自体を交換する必要があり、それには3万2000ドルかかる(さらに作業代、税金が別途必要)」との連絡があった。

これに対し、テスラ側はホームページのブログで反論。

趣旨をざっくり要約すると、

MODEL SやXでは充分対策されている。(満タンから50%まで放電するのに12カ月、その後でも保護モードがある)

Roadsterでも2.0以後はそれなり。(放っておくと満タンから50%からになるまで2ヶ月)

どんなクルマでもちゃんとメンテナンスすれば大丈夫なはず。


発端のユーザのロードスターは390台目ということなので、この2.0以前のものであるかもしれないという点はちょっと気になります。

だとすれば、テスラ側の回答は答えになっていない。


それはさておいて、もっと気になるのは、これほど物議を醸している問題についてテスラ側の声明がプレスリリースやホームページのわかりやすいところからのお知らせではなくて、ブログの一エントリーだというところ。


実はここ数カ月、テスラに限らずGMやフィスカーの電気自動車のバッテリーにまつわるトラブル(火災やリコール)がニュースになっており、電気自動車の信頼性についてネガティブな状況が続いています。

大容量のバッテリーを、温度変化、振動、空間的な制約などの大きい自動車という比較的過酷な状況に置き、また定格運転ではなく入出力変動も大きい駆動用モーターと接続する電気自動車では、同時に技術革新中のリチウムイオンバッテリーの取り扱いについて、まだまだ何が技術的な制約なのか、メーカーの不手際なのか見極めにくい部分も多くあります。

例えば、3Dグラフィックを快適に表示させるためにCPUパワーなのか、グラフィックカードをどうにかしないといけないのか、メモリが足りないのか、そもそもプログラムが未熟なのか、という感じの15年くらい前のPCを想像してもらえば近いかもしれません。

今回の問題については、原因がメーカー側にあるのか、ユーザ側なのかは今のところなんとも言えない状況です。


そんな中でも、トラブルが記事になっていると、普通の感覚だと、やっぱり電気自動車はまだまだ未完成な製品でガソリン車やトヨタのプリウス(HV)に較べると出来そこないばかりなんだろうな、という印象が広がる可能性があるでしょう。

国内では、三菱(i-MiEV)や日産(LEAF)がピュアEVとしてがんばっています。

そんな中で、メーカーは広報として、誤解(誤解ならば)を解く努力をもっと積極的に行うべきではないかと思うのです。
テスラの場合は、日本サイドでは少なくともWebには何も出していません。

日経新聞でも採りあげられていますが、ソースは元記事(ユーザの投稿)とテスラのブログによるもの。

2月21日に元記事が発表

2月22日にWIRED英語版にニュース(日本語は2月25日)

テスラのブログは2月24日

日経の記事は2月25日(日本時間)

そして、今日は2月28日

と既に一週間が経過しています。


市場や顧客の不安を一掃するためにも、テスラはもっと主張を明らかにすべきだと思います。
また、連想から電気自動車のバッテリーの信頼性に疑問を持つ人に対して、他のEVメーカーも積極的に情報発信すべきタイミングのはずです。

WIREDや日経のニュースに気がついていない人もたくさんいるのだから、大声を出して変に事を荒げてもややこしい、という考え方もできるのかもしれません。

しかし、EVといった初期のテクノロジーではビジョナリーたちが熱心に注目しています。
そして、マジョリティはビジョナリーの意見を参考にしてそのテクノロジーの成熟度を理解、判断するでしょう。

ビジョナリーはみんなこの問題を知っている、と思ってかかったほうがいいはずです。


だからこそ、カウンターパンチが有効なのです。
本当に潔白ならばそれを堂々と、まだ弱い点があるのだとしてもそれを正直に正確に伝える。


都合のいい話だけを発信するのが広報ではなく、誠実に正しい情報をきちんと伝える努力を積み重ね、顧客や市場との関係を築いていくのが広報活動です。


電気自動車の未来に期待をしている一人として、業界にはこのピンチをチャンスにしてもらえればと思います。


(おまけの補足)
本稿では、テスラをはじめEVメーカーの広報部門を非難する意図はありません。テスラの日本法人などでは本社から何も喋るなと命ぜられている可能性もありますし、まだ不明な点も多いので他のメーカーも不用意なことは言えない段階なのかもしれません。
ただ、このまま放置すれば、なんとなく信頼性が低い技術だというイメージだけがじわじわと広がってしまうかもしれない、それを防ぎむしろいいほうに流れをつくるのに、広報という役割はきっと大きいだろうと考えて書いたものです。

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