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さらけ出す、シリコンバレー式マーケティング 多様な分野に広がるリーンスタートアップ

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これは、日本マーケティング協会の月刊HORIZONの2017年第6号(特集「さらけ出す」)に寄稿したものです。

さらけ出す、シリコンバレー式マーケティング

さらけ出すリーンスタートアップ

イノベーションの方法論は進化を続けているが、シリコンバレーをはじめ、「さらけ出す」はその中でもキーワードの一つとなっている。

かつては、ステルス(stealth)とも言われる極力さらけ出さない開発アプローチをとる企業が多かった。しかし、それでは開発したプロダクトが市場に受け入れられないリスクは高くなり、かつ独力に限られて開発スピードは加速しない。そこでリーンスタートアップ(lean startup)が注目されるようになっている。これは、仮説・検証のサイクルを高速で回すものだ。

シリコンバレーのあるネットマーケティングのベンチャー企業CEO(経験豊富で知性あふれる人物)は、「これはユーザーのためになり、きっとユーザーが欲している確信したものが、現実にはユーザーに拒否される。こちらの思い込みでなく、早い段階でユーザーにぶつけてフィードバックを得るしかない。」と、しみじみ語る。

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「さらけ出す」がマーケティングを進化させる

こうしたアプローチは一般のマーケティングにも取り入れられ、適用範囲は拡大している。かなり前から欧州のダイレクトマーケティング・ハウスは、送付先リストのメンテナンスとともにキャンペーンへの反応から改善する、キャンペーン・マネジメントを行っていた。これも今ではITの進歩と活用により、ソフトウェアなどツールとともに普及している。

さらに、インターネット時代となり、オンライン・マーケティングでのリーンスタートアップ的な手法はすでに一般化している。ABテストとも言われるが、複数のパターンをウェブ上で展開し、ユーザーの反応でどれが最も有効か検証し、改善をする。劇的な効果を上げた例は数多い。

例えば、KAIZEN Platformというグロースハック(Webサービスなどの成長を加速する)のベンチャー企業は、こうした手法で顧客企業のウェブサイトを改善し、ゴールドカード会員獲得コストを10分の1以下にしたり、コンバージョンレートを75%アップしている。

もう一つは、実験。ウォートンスクールのジェリー・ウインド教授は、これからのマーケティングに必要なものとして「実験だ、実験だ、実験だ」と唱えている。つまり、確証が得られた段階ではすでに後塵を拝すことになるだけであり、リーダーになる(である)ためには率先して仮説を立てて検証をするしかないと指摘している。

様々な分野で威力を発揮するリーンスタートアップ

ちなみに、日本発で成功した数少ない大企業向けソフトウェアの代表例であるワークスアプリケーションズは、その初期に大企業の人事担当者との勉強会を開き、その中でユーザーインプットを獲得し、サポーターとの関係を築いていった。これも、さらけ出すリーンスタートアップによる成果だ。

リーンスタートアップはウェブやソフトだけでなく、ハードウェア製品にも適用されている。例えば、全く新しいクルマ(ジャイロスコープ搭載で自立し横転しない電動二輪車)。実際にクルマを試作しなければ顧客フィードバックは得られないとお思いだろうが、生産ラインをつくって売れなかったら悲惨だ。MVP(実用最小限の製品)として試作モデル(運転はできない)と簡易ショールームを設けて、ターゲット顧客層に来てもらい調査を行った。

すると、15.7%もの人が購買意欲があると分かり、前に進めることに。これから7ヵ月で84台の事前注文を受けることになる。そこで、手作りでクルマの製造を始めた。始めからクルマの完成度が高いことはないという前提で、改良を加えられるよう、下手な投資はしなかった。搭乗できるクルマができると、さらにメディアに取り上げられ、3ヵ月で435台の事前注文が入ったのだ。重たいテーマについても、リーンスタートアップを応用して、事業化のプロセスを効率化し、リスクを低減することができることを、この例は示している。

なお、リーンスタートアップは、きのこ事業や引っ越し、病院など広範に、そしてGEのような巨大企業にも取り入れられている。

さらけ出すが勝ち。それも工夫して早期に。それがプロダクトを改善し、同時にファンやコミュニティを育む。米国に比べ日本ではあまり採用されていないが、一つの勝ちパターン化していることは事実であり、他のアジア諸国でも学ぼうという機運は高まっているようだ。

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