小出一富『戦争論』を受講...人と集団についての示唆があり過ぎ
小出一富先生による「小出の『戦争論』全5回 ~外交から見直す戦争への轍」8月6日からの5回に渡る講義を受けた。広島原爆投下の日からの夏の教養講座は、贅沢であり目から鱗もあり考えさせられることが多かった。
小生が発足時から応援しているTEDxTokyoのヤングバージョンでもあるTEDxTokyo yzの今年3月の回に小出先生がスピーカー登壇されたのが出会いだ。そのプロフィールには次のように記されているが、実はもっと教養が深い方。
小出 一富 武術家・歴史学者
1981年、剣術・柔術などを伝える兵法家の家に生まれる。
小中学校と約6年間不登校児のあと漢籍、古典籍に没頭。
祖父と親交のあった数人の師の下を遊行して家伝の武術の復元と発展を目指してきた。
現在、明治時代から続く歴史研究所で監事(役員)・研究員を務め、歴史や宗教文化をテーマにしたトークイベントなども行っている。著書に『人生が変わる古事記』(海竜社)などがある。
外務省に残された資料をベースにfact=事実ベースでの講義。なぜ戦争に向かったのか、どうしてそこに至る様々な事象・行動が起こったのか、簡潔かつテンポよく紐解いていただいた。かつて学校で教わったことや、これまで見聞きしたことが誤っていたり偏っていることは色々あったが、それはよくある話でもあり、ここでは割愛するが、集団としての心理や行動、リーダー個人の大切さなど、あらためて刺さる教訓があった。昨日終えたばかりで咀嚼しきれていないが、思いついた点をいくつか。
■マクロの視点の大切さ 日露戦争以降の日本の行動の基本ドライバーは、日露戦争に起因する二つの課題でみることができる。一つは、(ロシアからの賠償金ナシゆえ)戦費のために欧米からの膨大な借金が積み上がった、もう一つは、労働人口の多くを失って得た満州はどうしても失えない守る地となった、ということ。ゆえに、中国という一大市場で稼いで借金を返すということになり、中国にやっきになったのである。・・・市場や事業をとらえるときも、こういう視点は大切。そう言えば、米国のベンチャー関係で冴えた人は歴史的マクロの話をよくしますよね。
■リーダー個人の大切さ 総理大臣はじめキーパーソンが歴史を動かします。実力が伴わないトップだと他ががんばっても悲しい結果に。事業は人なりと言うが、本当に大切です。
■人材登用の大切さ 冴えた人材を活かさねば宝の持ち腐れ、活かせば決定的な差になる。日本でも人材を活かしたこともあるが、活かさなかった例がいくつもある。概して日本は人材活用が下手なようだ。聴力が抜きんでた人を潜水艦(騒音大)に配備したり、あべこべも。日本はこいつはダメだと思うと遠ざけたり切るが、米国は例えば日本ゆかりの人材を活用して日本研究や情報収集を徹底した。感情に左右され過ぎ。
■大勢の声は影響大だが誤りが多い 日本政府を動かした大きな力が世論の圧だ。これが政府の意思決定に強く影響し、大きな制約となった。人気取りに走った近衛文麿総理もダメだが、動かしたのは世論なのだ。最近も、民主主義の限界を言う人が少なくないが、多くの民衆の声が適切さを欠いた論に向かうことが多いのは事実である。いまも、消費税率や社会保障の受益者負担率の大幅アップなど、避けられないことを言うと選挙に落ちるからと、先送りし続ける状況がみられる。
■正しい認識は意外と持たれていない 日本では政府・軍も一撃論が強かった。資源が乏しく戦争体力が限られる日本は、長期に渡る大きな戦は避けたかった、というか負けにつながると分かっていた。だから一撃でぎゃふんと言わせて講和に持って行く論に傾いた。しかし、それは希望的観測でしかない。また、戦線拡大を控えてソ連の南下に備えるべしと軍が言っても世論に甘んじて増兵したり、国際対話の路線をつくっても破棄したり、リスク大の論がまかり通った。最近の一部の大企業でも似たようなことはまま見られる。
■全体観を持つ大切さ 一部分やその場だけをみた判断・行動が、後に悪しき結果を招くことが多い。言うは易しで、これに符合することがとても多く出てくる。これは、各時点での判断だけでなく、その前から大局的にものごとをとらえているかで、大きな差が生じる。
■格好をつけると自分の首が締まる 下手に格好をつけて宣言などしたおかげで、その後に打つ手がなくなったり、ひどい展開になった例も多い。あるいは、格好よりも実利をとった方がよかったのに、と思われる例もある。交渉でも見栄やメンツを押し過ぎると、望んだ結果から離れてしまう。
■よい機会も悪い機会もある 結果として大戦に進んだが、全く違った展開になったかもしれないという局面はあった。しかし、そうの好機を逃したのは、不運という見方もあるが、チャンスをつかむ備えができていなかったのではなかろうか。これは企業経営でも同様。逆に悪しき機会をわざわざつかむこともある。当時の日本はそれもやってしまった。
■暗黙の前提の違い 世界は多様な国・民族そして宗教が混在している。と、頭では知ってるつもりでも、腹の底ではそうでもない。日本と異なる中国の行動、理念国家たる米国の行動、など、日本的な発想では想定できないことを他は当たり前にやる。これは、ビジネスでも同様なことが言える。特にグローバルにやるなら、不可避なことだ。
■対話の大切さ どうも日本はコミュニケーションが下手というか、努力が足りないのではなかろうか。これは日頃感じていることだが、本講義でもそれを感じた。暗黙の前提もねらいも異なる人達とは、懸命に対話することが求められる。
■もっと相手を知り考える大切さ ひとりよがりな提案やコミュニケーションが多かった日本。相手を見下して理解しようとしないのでなく、戦略的にちゃんと理解し、適切な手を打つべきだった。こう言えば、ああ出てくると考えながら取り組むことが、とても薄かった印象。これはビジネスでも大切なことですね、うまくできてないことが多いですが。
■変わらない日本 もちろん大戦後に大きく日本は変化したが、まだ変わらないなと感じる点もある。例えば、対戦前は聴衆に講演をして金を稼ぐ弁士がいたそうだが、政府は腰抜けだもっと戦えとか、当時の大衆受けする内容。マスメディアも一部を除いて、同様。これは、いまも相似形かと。こうしたメディアや弁士を好む国民のあり方も続いている気がする。
まだ色々と考えてみたいです。かけがえのない学びの機会をくださいった小出先生ありがとうございます。
そう言えばライフネット生命創業者の出口治明さんもビジネスマンはもっと歴史に学べと『仕事に効く 教養としての「世界史」』『世界史の10人』などの本を出されてます。 確かに歴史には大きく学べますね。
<こんな内容でした・・・予定表ゆえ実際と少々異なる>
8月6日 (土)15:10-16:40
【第1回】:日露戦争と「満州」の獲得 ~日本の運命が決まった瞬間~
・日清・日露戦争とはなんであったのか
・満州の地政学
・対華21箇条要求
・日本の誤算
8月13日(土)15:10-16:40
【第2回】:中国の騒乱と日本の外交
・辛亥革命
・日本政府の痛恨のミスリード(現代の国連と同じ痛恨のミス)
・日本が初めて挑む「国際外交」
・原敬の描いた未来
8月20日(土)15:10-16:40
【第3回】:英米関係
・日英同盟廃棄
・ワシントン体制
・極東の人格者「日本」
・幣原喜重郎
・田中義一
8月27日(土)15:10-16:40
【第4回】:日中関係悪化への道
・田中外交
・満州事変と満州国
・日中戦争への道程
・華北分離工作
9月3日 (土)15:10-16:40
【最終回】:帰らざる河
・戦争を望む日本世論
・二極化する対中政策
・盧溝橋事件1937.7.7
・日中戦争勃発
・日中戦争をめぐる日米関係
・日米開戦