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記事「幸せサイクルを生む自己肯定とレジリエンス」書きました

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日本マーケティング協会発行の機関月刊誌「マーケティングホライズン」5号に、「幸せサイクルを生む自己肯定とレジリエンス」という記事を書きました。特集テーマ「スーパー・ポジティブ」の記事の一つです。(なお、同誌は各号やバックナンバーが購入でき、定期購読もできます→協会まで)

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幸せサイクルを生む自己肯定とレジリエンス

 本号お題のスーパーポジティブに触れる前に、まず「ポジティブ」について議論したい。よくポジティブ志向で行けと言われるが、本当にそれでよいのか?

 ポジティブに前向きでというアドバイスは一般的だが、これは人生の一面に当てはまるに過ぎない。常にポジティブでいられるほど、現実は平坦ではない。そして、ポジティブ志向も度を過ぎる、または一辺倒では本質を見誤る。

 ヒューストン大学Brené Brown教授は、幸福を得るために犯しやすい間違いとして次のような点
・幸せになろうと頑張り過ぎ
・内面に押し込める
・色々やり切ろうとし過ぎ
を指摘し、疲れるほどポジティブであるより我慢せず泣け、自らにプレッシャーをかけ過ぎるな、とアドバイスする。

 あるコメディアンは、ギャグがすべると腰痛が悪化するそうだ。この場合、ポジティブ志向で行けと助言しても事態は改善しないだろう。

 では、どうすればよいのか、「ポジティブ」の問題とともに考えてみたい。

レジリエンス=逆境力
 
 ポジティブ志向は、物事のポジティブな面を強調する、必ずしも現実に基礎をおいていない認知と言うこともできよう。ずっとポジティブであれと言ってポジティブ志向を強いると、望ましくない二つのパターンに陥りかねない。一つは、無理をさせてその人がポキっと折れること。まじめに頑張り過ぎて、うつ病や適応障害になってしまうこともある。もう一つは、ポジティブでいられるように、安全志向でチャレンジをせず無難な道を選ぶようになること。また副作用として、ポジティブ志向を他人に押し付けがちになる人も見られるが、これは迷惑だ。

 近年、レジリエンス(resilience=再起力、復活力、逆境力)が各所でキーワードとして取り上げられている。人は誰しも、逆境や試練にぶつかり、苦難や挫折、そして失敗を経験する。そこから立ち上がるのが肝心なのだ。

 例えば、米国トップ・スクールのウォートンMBAの二人がウォール街で同時期に解雇された後、一人はへこたれず再就職し、一人は落ち込んで再起できず実家に戻った。二人は同様に優秀で差はなかったが、これはレジリエンスの差ゆえだ。

 学力が同等の小学生たちに難しい問題を与えると、あきらめる者と取り組む者に分かれる。無理だよとあっさり引いてしまうか、なんとかなるかもとチャレンジするか。いまは同等の二タイプは、将来は大きな差が生じることになる。

 お手上げでなく、なんとかなると思い柔軟に対応する、そして逆境から立ち直ることが肝心なのだ。スーパーポジティブとは、従来型のポジティブと異なり、こうしたレジリエンスを重視したものでなければならない。

本当の自分に対してポジティブに

 さらに本質的な問題が、何に対してポジティブたるかということだ。ポジティブ志向については、思いのほか優先順位について語られることが少ない。なんでもポジティブというのはよろしくない。では何が最も大切なのか。

 それは自分である。自分についてポジティブなければ、他にどうポジティブであろうと、基礎工事の欠けた建物、砂上の楼閣である。しかし、驚くほど「自分」が弱い人が多い。そういう例を筆者はあまた見てきた。

 エリートの若手社員でしばしばある例。ぱっと見は立派、しかし難局で逃げたり、指導に対して僕は悪くないと言ったり、根本的な自信は欠けている。母親との共依存の関係が強い例もいくつかあったが、総じて自立が弱い。つまり、根本的なところで己を信頼しておらず、依存が強いのだ。

 ある起業家は、落ち込んでホームレスとなったが、医者のアドバイスで毎日鏡に向かって、自分はOKだ、俺はすてたもんじゃない、と話しかけ続けたところ、立ち直ったという。彼が創業した会社はいまは立派な上場企業だ。

 このように自己肯定感が鍵となることがみられるが、自己肯定感は大きくいうとセルフエスティーム(self-esteem=自尊心)とセルフエフィカシー(self-efficacy=自己効力感)からなる。このどちらかが欠けていると、レジリエンスにも影響する。

 自己効力感とは、経験などによりスキルを獲得したり成長するという自己肯定感だ。先日NHKクローズアップ現代でのけん玉の例では、粘り強く練習を重ねる自己効力感の高い人と、早々にあきらめてしまう自己効力感の低い人に分かれた。

 そして自己効力感より基礎として大切なのが自尊心だ。自尊心が乏しいと、依存や犠牲の傾向が強まる。親や看板に依存したり、自分を犠牲にする行動は、まま見られる。ちなみに、やさしい虐待という言葉がある。これは子供への支配を意味する。前出のマザコン若手社員は、やさしい虐待を受けて自立できなくなったと思われる。親がつくった自分や押し付けられた価値観から脱却できなければ、本当の自分は見えも感じもできはしない。

 案外と人は自分というものを受け入れていない。スーパーポジティブでは、従来型のポジティブと異なり、本当の自分、そして自分らしさを肯定することが起点となる。

自分も周囲も幸福にする好循環

 スーパーポジティブが実現されると、「I love me」→「I love you」→「You love me」という好循環が生まれる。自己肯定感が弱いとまず「You love me」を求めることに走り、このサイクルは回らない。レジリエンスが弱いと、折れる、縮こまる、あきらめる、になってしまう。

 この好循環が回れば、自分が幸福になるだけでなく、周囲がより幸福になり、それがさらに自分に返ってきて、循環が向上していく。

 しかし、自分って何だ?と疑問を感じた読者もいるだろう。ここでは本当の自分や自分らしさを見出す方法については割愛するが、よく言われる「自分探し」はお勧めしない。探さなくても自分はそこにいるのであり、旅をして見つけるものでもない。それに、あることをやりたいと思っても、固執する必要はない。チャレンジしてだめなら次に行ってみればいい。要は、スティーブ・ジョブズがスタンフォード大学の卒業式で言った、「他人の人生でなく自分の人生を生きろ」ということだ。

 なお、誰もが独自のやりたいことを持てるわけではないと懸念する人もいるだろう。その場合、「意味のある人生」を選択すればよい。自分より大きなものの一部となり、大きな目的に向かっていると、意味のある人生が送れ、ここで得る幸福感は長く継続させられる、とされる。例えば、これだ!と自分が共感する崇高な目的を持つ企業に参加し、情熱をもって取り組めばよい。この場合も好循環を回すことができる。

 自分もみなも活き活きとして幸福になる、そんなスーパーポジティブな社会となることを願いたい。もっとも、これは国とか大きな単位でなくても、自分と周囲といった小さな単位でも実行できる。まず身近なところから始めてみてはいかがだろう。

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