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なぜ電動二輪のテラ・モーターズは注目されるのか?

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年初に日本マーケティング協会の月刊「マーケティングホライズン」2014年1号に電動二輪・三輪のテラ・モーターズを材料に記事を書いた。注目の新製品のレビューも出たことだし、このタイミングで再掲する(特集:ニッポンのカナリア…予兆を示すものや先駆の意)。

参考1 新製品レビュー:スマホと連携する電動バイク「テラモーターズ A4000i」に試乗してきました - GIGAZINE

参考2 NAVER まとめ|アジア市場へ向けベンチャー企業が出した予想外な電動三輪車

日本にはもっとイノベーションが必要だ。「ジャパン」ブランドの威力があるうちに、こうしたハードウェアのスタートアップがもっと出てきて活躍して欲しいですね。液晶テレビでは米国のVizioというベンチャーが結構な市場シェアを持っているが、大企業が席巻していても突破口はあるという例だ。日本の投資家もハード系を避けずに出資しないと、機を逸するか海外企業にもっていかれんじゃなかろうか。

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ニッポンのカナリア 
テラ・モーターズ

 バイク(二輪、単車)は、日本の大企業が世界を席巻している製品の代表例だ。しかして、輸送機械の分野では、EVつまり電気自動車の革命が進行中だ。乗用車(四輪)では、インターネット関係のベンチャーで成功したイーロン・マスク氏が2003年に起こしたテスラ・モーターズの時価総額が二兆円に迫り、日本のスズキや三菱自動車を追い越した。
 なぜ、と思った方は少なくないだろう。トヨタ、ホンダ、日産はじめ、世界をリードする自動車メーカーを擁する日本からでなく、アメリカのそれも門外漢がつくったぽっと出のベンチャーが躍進しているのだから。ちなみに、トヨタは2010年にテスラに出資している。
 EVについてはかなり前から言われてきたことであり新しくもなんともない。しかし、どこで本気でギアを入れるかがビジネスを決する。期を見て敏とするには、すでに持つものが多大な大企業では難しい。なにも持たないテスラが切り込むことができたのは、ちゃんと理由があるのだ。この点、テスラは「カナリア」だったと言えよう。
 
では、バイクではどうか?
 いま、ホンダやヤマハ、スズキよりも、電動バイクで話題に上るのがテラ・モーターズだ。片仮名だとテスラと一字違いだが、関係はない。日本の起業家・徳重徹氏が2010年に起こした会社だ。
 米国政府から約450億円の支援を受けたテスラと比べるべくもないが、名だたるエンジェルや企業から資金調達をしたテラ・モーターズは、ベンチャーならではの切り込みを始めている。
 いやそんなことでは安い中国製と似たようなもので、価格競争ではかなわないだろうと思う読者もいるだろう。ちょっと考えて欲しい。なぜ日本メーカーが世界のバイク市場を席巻できたかを。輸送機械というものは、そんなに安易な姿勢ではユーザーの支持を得られない。低価格ながら信頼性と耐久性がある製品が求められる。ホンダのカブはよい例だ。
 すでにアジアで中国メーカーの電動バイクは売られているが、期待外れの品質に市場は他の選択肢を求めている。しかし、日本の大メーカーの電動バイクは値段が高過ぎるし、このビジネスにはまだ本気ではない。
 だからテラ・モーターズは、日本を皮切りに、アジアへの展開を加速している。フィリピン政府とともに、排ガスを撒き散らすトゥクトゥク(三輪タクシー)に代わる電動三輪車をすでに開発し、本格展開に取り組んでいる。
 また、スマートフォン搭載型の電動バイクを世界で初めて発売し、日本、ベトナム、フィリピン、インドを中心に、アジア各国に展開する計画だ。
 
 既存の大メーカーが俊敏に動けない気持ちは分かる。既存の商品とバッティングする。全体の売上からすると微々たる売上にしかならない。いったん本格ローンチすると、輝かしい価値あるブランドを毀損しないような商品・サービスを提供しなければならない。といった点があげられる。
 これは想像の域を出ないが、いくつかジレンマを抱えているのではなかろうか。例えば、ちゃちなものはつくりたくないという意識。異業種の例だが、かつてi-Modeが流行ったときセガの開発部隊は、ケータイの小さな画面用のゲームなどつくりたくないとヤル気が出ず、商機を逸した。
また、不確実な市場に取組むことへの躊躇。大企業での新規事業を担当すると報われないし、やりたがらないというのが常だ。しかも直近の市場規模は大きくはない。
 だからこそ起業家の存在意義がある。テラ・モーターズの初期は、日本の大メーカーと低価格の中国勢の間で、生きる道はないだろうと言われたことだろう。しかし、ここまで記したように、時代の変曲点ではそんな普通の考え方では突破口を見つけることはできない。
 もちろんテラ・モーターズが成功間違いナシというわけではない。逆にそれでは面白くない。不確実な市場に挑戦しているからこそ、ゼロからヒーローになりえるのだから。
 
 この点では、テラ・モーターズは単に電動バイクや三輪などの話にとどまらないと言えよう。つまり、日本が直面するイノベーション不足と渇望だ。人口が高齢化する前に、企業・産業が高齢化しつつある日本において、普通の人がワオ!と言うようなイノベーションが本当に必要なのだ。
 無謀なハードウェア、それもよりによって輸送機械という金がかかり規模が効くビジネスに挑戦するテラ・モーターズは、既存大企業のイノベーションのジレンマ、すなわち限界と、起業家とそのチームの可能性を示唆していると言えよう。一つの道を示す例としてテラ・モーターは分かりやすく、面白い。

参考:こちら「世界へ挑め!」は徳重社長の本です。

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