NHKクローズアップ現代「密着!女性起業家1000万コンペ」に出演しました(2)
NHKクローズアップ現代「密着!女性起業家1000万コンペ」に出演しました。その続報です。
・録画がNHKオンデマンドで見れます。
・事前のNHKスタッフのブログ
・放送後のホームページ
・クローズアップ現代『密着!女性起業家1000万コンペ』のツイートまとめ (2012.07.11)
小生は、日本の女性起業家グループ「SPARK!」サポーター、そして女性起業家への投資を柱の一つとするスーパーエンジェル「500 Startups」メンターもやってます。
輝く女性がこれからの成長を生み出すと考えているからですが、放送で言及しなかった点も含めて、補足のため以下に書きます。
なぜ女性起業家か?
人類の半分が女性。そのエネルギーや才能をほおっておくのは愚かというもの(参考:The Economist "Untapped Talent")。日本では働く人口の問題もあるが、単に人数の問題にとどまらない。
消費者市場をみてほしい。顧客の半分は女性、それに、買うのを決めているのは8割が女性というデータもある(参考「女性を無視したマーケティングがどれだけ痛いかがわかるデータたち」 )。女性は日常生活の当事者として家事や育児・介護を担っているから、男性よりも問題を実際に感じ、自分のこととして解決したいと思う。だから、消費者のニーズや起業するアイデアに気がつきやすい。もはや、男性だけでビジネスをやっている場合ではないのだ。様々なビジネスが既にあり、「やり尽くされた」という意見も聞くが、まだまだいくらでも機会はある。
起業では先を行くアメリカでも、女性起業家が注目されている。創業チームに女性がいる会社のほうが業績がいいという調査もある位だ(参考:Illuminate Ventures, "High Performance Entrepreneurs: Women in High Tech")女性起業家は、いまや経済を考える上での必須のキーワードとなっている。
同時に、女性起業家に世の中は厳しい。アメリカでも、女性起業家は男性よりもお金を集めるのに苦労しているのだ。例えば、同じビジネス・プランだったら、女性より男性にお金を出す投資家が多い。(参考:Insider "Who runs the world? The age of the female-centric startup") http://
これを逆手にとって、投資の機会と考える人もいる。 "We love female-founded companies", Paul Singh, 500 Startupsは、女性起業家にチャンスをみている(参考:Wmen2.0, "500 Startups’ Dave McClure: Women Co-Founders and CEOs an Advantage")。アクセラレーター・プログラム参加企業の四分の一が女性が創業チームにおり、その半分ほどが女性がCEOだ。ファミリーやショッピングはじめ、女性だからこそ“当事者”としてのアドバンテージがある領域があるが、まだまだ女性起業家の会社に投資しようというベンチャーキャピタリストは少ない。これを“隠れた機会”だと捉えている。既に500ファミリーで女性CEOが率いる投資先のWildfireやTaskRabbit、先日LinkedInに買収されたSlideShareなどが一定の成功をおさめている。 http://
なお、ベンチャー起業といっても規模を拡大して株式上場を目指さなくてもいい。それぞれの市場で満たされていないニーズに応えることも大切だ。そもそも日本の戦後の発展は、数多くの中小企業が支えたではないか。
例えば、知人の女性で大企業にいた有能な人がいるが、今は子供を育てながら保育サービスを起業・経営している。組織に縛られず、しなやかな生き方をする素敵な方だ。
日本政策投資銀行のこのビジネスコンペは?
これは良い実験。最近、こうした起業のコンペや起業家を支援するインキュベーションが活発になってきたのは歓迎したい。こうしたビジネスコンペは、起業家のモチベーショ ンを上げるだけでなく、「私もやってみよう」と、新たな起業家を生み出す刺激となる。
しかし続けてこそ役に立つ。この日本政策投資銀行の女性起業家ビジネスコンペも来年もその次も長く続けて、発掘した人を育てて、女性の起業を触発する努力を続けて欲しい。このプロジェクトそのものも ベンチャーと同じで、トライ&エラーで絶えずよくしていくことが重要。実際に、現実に応募者と会ってやりとりを通して、審査の基準がつくられていったことを見ても、スタートアップ的にとりくむことが大切。
これをきっかけに、日本で女性起業家たちへの見方が変わり、これだけでなく他の様々な動きと協調することで、女性起業家とそれを取り巻く人のネットワークが発展していくように願う。より良い未来を作る為、これからもっと女性起業家が輝くことを期待したい。
起業家に大切なことは?
実際、投資の対象やサポートをする相手を選ぶ時、何がポイントかというと、「人」。生命エネルギーがあるというか、顧客や投資家・従業員など、人を惹きつける力のある人。草食男子という言葉を聞くが、最近は、女性に生命エネルギーや力強さを感じることが多い。
コンペで重視された「経営者力」は必須。企業経営は困難なことが何度も訪れる。それに負けないタフさが必要。しかし、猪突猛進というか気合いだけではしのげない。リード・ホフマン曰く、persistentかつflexibleであれ。元々、何故その事業に取り組んでいるのかのミッションやビジョン、つまり立ち戻る原点をしっかり持つことだ。そして、同時に柔軟さも必要。見込みがないものにいつまでもこだわっていてはいけない。日本のベンチャーは低空飛行を続ける企業が多い(参考:日経ビジネス「シリコンバレーが見た日本のベンチャーは実は“元気”」)が、最近、アメリカ・シリコンバレーでは"fail fast"(早くあきらめろ)とよく言われる。ダメとわかったらすぐにやめ、方向転換したり、次の事業を起すことが重要だ。
ご参考■連載「インキュベーションの虚と実」
女性起業家を増やし・育てるには?
一つは「ロールモデル」という言葉があるが、「こうなろう」という目標とする実例がいくつも現れること。こうしたコンテストの受賞者はその実例になる。しかし、それだけでは足りない。死屍累々の戦場に誰が足を踏み入れるだろうか。目標例が増えることに加えて、要らぬ失敗をしないで済むように知恵を習得することが必要。
日本では、「心配するより前に実際に起業してやってみろ!」と言う人が多く、転んでから後悔する例はあとをたたない。しかし、竹槍で戦える時代ではない。失敗は避けることができる。それは、失敗の経験をシェアし、武器となる知恵を「共有」すること。
更に、弱いポイントに助言してくれたり、そこを補強する人を紹介したりしてくれる存在が欲しい。起業家や起業経験者、我々のようなサポーターなどベンチャーに関わるものが、バラバラではなく、一つのコミュニティとして「育む構造」を作ることが大事。
米国に起業家など女性のリーダーの集まり(例:Committee of 200)があるが、そこでの助け合いには印象づけられた。起業家同士が学び合い、アドバイスしあうつながりは大切です。特に、日本社会では障害が多い女性起業家はなおさら。先にあげた米国のスーパーエンジェルも、その投資先同士が学び合い刺激し合うのがプラスになっている。そういった場や、メンターのネットワークを提供できれば、さらにプラスです。
しかし、それは銀行や先生が「教えてやる」というのではなく、彼女たちが学び、成長する機会や場を作ること。明日の成長やイノベーションは、起業家が作る。彼女たちの自信と自立にかかっています。
収録後の記念撮影w