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大阪都構想のメリットとデメリット~都市計画と税収の観点からの考察

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いよいよ大阪市を廃止し、4つの特別区に分割するいわゆる「大阪都構想」の可否を決める住民投票が1か月後に迫った(11月1日投票日の予定)。賛成派及び反対派の活動も活発になってきており、TVやネット上での舌戦も激しさを増して来ている。しかしながら、それぞれの主張には感情論が少なからず含まれており、また賛成派は楽観的観測の要素が多く、逆に反対派は悲観的観測の要素が多く、果たしていったい何が問われているのか判りずらい状況となっている感が否めない。
そこで大阪市民である私が、私なりに大阪都構想のメリットとデメリットを解説し、可否の判断基準のひとつを提示することにしよう。大阪市民の読者は、大いに投票の参考にして頂きたい。

〇大阪都構想とは何か?
まず、最初に大阪都構想とはなにかを説明しておこう。大阪府は南北に細長く、また面積も全国46位という小さな都道府県であるが、その経済的及び地理的中心地には、強力な政令指定都市である大阪市が位置している。大阪において、"経済的においしいところ"はほぼ大阪市に含まれているため、大阪市の権限と財力は非常に大きく都道府県である大阪府に匹敵するほどの力を保持している。したがって大阪府が大掛かりな都市計画事業を行う場合、大阪市域は欠かせないエリアであり、大阪市の意向を無視することは出来ず両者はしばしば意見が合わずに対立を繰り返してきた。そこで、提案されたのが大阪都構想である。この案による行政システムは、大阪市の持つ広域的な事業の権限を府に移管してたうえで4つに分割し、それぞれを小さな自治体として東京都のような特別区を設置するものである。したがって、特別区では区長は選挙で選ばれ、市議会に替わりそれぞれの区に区議会が設置される。
ちなみに、"都構想"と名付けられてはいるが、これは東京都に模した行政システムなのでそう名付けられただけで、住民投票の結果、大阪市の廃止と特別区の設置が決まっても「大阪府」の名称が「大阪都」になることはない。

〇大阪都構想のメリット
<都市計画・都市デザインの意思決定の一本化とスピードアップ>
これまで大阪市が持っていた大阪市内の都市計画・都市デザインの決定権限や大阪市の至宝である大阪メトロ(地下鉄)の管理権限も大阪府に移管するため、これまでのように都市計画事業において大阪府と大阪市の利害が衝突することは解消される。それに関連して、大阪市が徴収していた固定資産税・都市計画税・法人市民税などの徴税権も府に移管する。したがって、大阪における都市計画・都市デザインの決定が一元化されスピードアップが図られることになる。変化の激しい現在において、このような意思決定の統一とスピードアップ化はメリットとなることだろう。

<重複する事業の統廃合>
大阪市が強力な財力を持つがゆえに、これまでは大阪府と同じような事業を重複する形で行ってきたケースも少なくないが、それらに関する権限を大阪府に移管させれば、行政の無駄を解消し税金を有効に活用することが出来る。いわゆるこれが賛成派が言う「二重行政の解消」というものである。
しかしながら、この7年ほどの間に大阪府と大阪市の事業の統合はすでにかなり進んでいる。例えば、大阪市立大学と大阪府立大学の統合、大阪府市の保証協会の統合、地方衛生研究所の統合などである。あと残っている大きな事業といえば、府市の水道事業程度であろうと思われる。


〇大阪都構想のデメリット

<行政コストの上昇>
これまで大阪市ひとつの行政単位でおこなっていたものを4つの特別区に分割する訳であるから、当然の結果として行政コストが上昇することになる。大阪市が出してきた資料でも、分割コストが241億円であり、毎年ランニングコストの上昇が30億円ということになっている。もし、都構想が実現されても税収が変わらないのなら、これらの費用は大阪市民及び大阪市内に所在地を置く法人が負担することになる(一部は大阪府の負担)。すなわち、新たな税金を創設して徴収するか、現在の行政サービスのレベルを低下させる必要がある。

<4つの特別区の利害調整が必要になる>
都構想が実現されると、メリットで述べたように都市計画・都市デザインなど広域に関わる意思決定は大変スムーズになるのであるが、逆に特別区が行うもっと生活に密着した事業に関しては、特別区同士の利害が衝突し、事業の遂行に支障をきたす可能性がある。なぜなら、特別区はすべての事業をそれぞれの特別区だけで行うのではなく、介護保険事業、スポーツ施設管理事業、財産管理などの事業は「一部事務組合」を作り、4つの特別区が共同で行うからである。
したがって激しい衝突でなかったとしても、別々の自治体となった4区はそれぞれの主張を展開するであろうから、どのような形であれ特別区間の利害調整は必要になるであろう。

<大阪市の財産を府へ移管することへの市民の違和感>
すでに記載したように、都構想が実現されると大阪メトロをはじめとする都市計画に関わる大阪市の財産は大阪府に移管されることになる。しかしながら、大阪市の財産は大阪府から与えられたものではなく、大阪市が独自に築き上げてきたものである。つまり、大阪市から見れば、自分の財産を大阪府に献上する形となるのだ。これを市民視線から見れば、これまで大阪市民だけの財産であったものを、大阪府に献上して大阪府民全員のものにすることを意味している。大阪府民にとってはありがたい話だが、大阪市民にとっては違和感が残る可能性が少なくないだろう。


〇そして結論

以上、大阪都構想のメリットとデメリットを都市計画と税収の面から解説した。これらを考慮して大阪都構想の賛否を投票する際の判断基準は次のようになる。


大阪における都市計画の決定権を一元化してスピードアップを図ることにより、大阪の経済が発展し税収が増えると考えるなら「賛成」

大阪における都市計画の決定権を一元化してスピードアップを図っても、大阪の経済は発展しないし税収も増えない、またはどうなるか判らないと考えるなら「反対」

結局のところ、大阪都構想の最大のデメリットは今より行政コストが上昇することである。もし、都構想実現により大阪が経済発展し税収もアップするのであれば、この問題は解消され、豊かな財力を背景に4つの特別区の利害調整も案外うまくいくだろう。
賛成派は、よく「大阪の成長をとめるな」と主張している。それは、大阪都構想は大阪が経済成長しないと成り立たないシステムであるからだ。
対して反対派は、「大阪市民は都構想で損をする」と主張している。これは、大阪都構想が実現しても大阪が経済成長せず税収が増えなければ、大阪市民はただ単純に負担が増え損をすることになるからだ。

果たしてどのように考えるか、大阪市民は慎重に考えて判断して頂きたいと思う。

<2020年10月23日 追記>
さて、今後の大阪の経済状況であるが、昨今のコロナ禍によりインバウンド需要はほぼ0となり、その成長は当面の間、かなり難しくなったと言わざるを得ない。すなわち、かなりの確率で大阪経済は減速傾向になり、その結果、大阪の税収も当面の間は増えるどころか減少することになる。
当然ながら、このことを踏まえて、今回の住民投票の賛否を決断する必要がある。いま大阪市を廃止して大きな行政システムの変革を行っていいのかどうか、大阪市民の読者には慎重に判断して貰いたい。

<2020年10月26日 追記>
何件が問い合わせがあったので、次のことを念のため明記しておくことにする。


今回の住民投票は大阪市民に対し、
大阪市を廃止・消滅させ、都市計画の権限・大阪メトロ(地下鉄)の権限・水道事業などを大阪府に移管し、大阪市域には4つの特別区を設置することへの可否を問い、それに伴う高額な初期コストと現在以上のランニングコスト増の承認を求めるものである。
「都構想」と名付けられてはいるが、大阪を東京のような「都」にすることを問うものではないし、ましてや大阪を「副首都」にすることへの可否を問うものではない(副首都などは大阪の勝手な判断で実現出来るものではない。国が判断するものである)。
大阪市民の読者には、装飾された部分の情報を取り除き、今回の住民投票の本質を見抜いて貴重な1票を投じてほしいと思う。


<2020年10月27日 追記>
各社報道によると、大阪市の財政局が大阪市を4つの自治体に分割した場合、毎年のランニングコストが218億円増加することを試算していたことが判った。これは、単純に人口を4分割した試算だが、大阪市廃止・特別区設置後の財政収支を判断するには十分参考になる数字である。もちろん、大阪市廃止・特別区設置後に税収が増えなければ、この金額は市民及び市内に所在地を置く法人・事業者の負担となる。
なぜ、もっと早い時点でこの数字が提示されなかったのかはなはだ疑問だが、大阪市民の読者には、住民投票の賛成・反対を決める参考にして貰いたい。


「大阪都構想のメリットとデメリット その2~大阪都構想の終焉」へ

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