議論の密度は、参加者の物理的距離感に比例する
議論の密度は、参加者の物理的距離感に比例する
年に数回、100年続く老舗製造業のお手伝いをしている。
「世界で一番やさしい会議の教科書」を読んでくれた社長から直接メールをいただいて、年に数回、会議ファシリテーションの導入をサポートしているのだ。
先日もその会社にお邪魔して、ワークショップをやっていた。その時に「議論の密度と、参会者の密度(物理的な距離感)は比例するんですよ」という話をした。
ファシリテーターとの距離、参加者同士の距離が離れていると、不思議と議論の熱量が落ちるのである。
逆に距離が近く、ギュッとまとまった状態だと、途端に議論が活発になる。
これはプロの変革コンサルタントとして、常に実感していたことだった。だから、会議を始める前に「なんか距離があるなー」と思ったら、すかさず声をかけて参加者に移動してもらって密度を上げるようにしている。会議でも講演でも同じ。隙間が空いていたり空間が空いていると、それだけで熱量が逃げるのだ。
こんな話をしたら、ほとんどの社員たちが「そう言われれば」「確かにそうかも」という反応をしてくれた。ところが社員の1人が「いや、俺は距離感なんか議論になんの関係もないと思う」と言い出した。
(おお・・・そうきたか)
こういう主張は中々できるものではない。ブレない軸を持っていて素晴らしい。しかし、これは体感と経験則の話だから、正直これ以上説明しようがない。
その時、そばで見ていた社長が面白い提案をしてくれた。
「じゃあ、実際にやってみようや。同じメンバーで、同じテーマで議論して、テーブルだけ変えてみたらええやんか」
なんだその実験。面白そうじゃないか!という事でさっそく実験。言われてみると、これまで検証実験をしたことはなかった。
役員室レイアウトと、膝詰めレイアウト
広い会議室に、長机をいれてロの字形にレイアウトする。隣の人との距離は2〜3mくらい。間にもう2人くらい座れるくらいのゆったりした距離感だ。対面の人とも3mくらいの距離がある。
普段の役員会議のテーブルと椅子をそのまま持ってきたらしく、椅子も座りごこちがよく豪華だ。
これを『役員室レイアウト』と呼ぶ。
【役員室レイアウトのイメージ(ホントはもっと豪華な椅子だった)】
そしてすぐ横に、コンパクトなレイアウトも作る。テーブルは長机1つだけ。それを取り囲むように椅子を並べたレイアウトだ。
隣の人とは肩が触れるかどうかの距離感。対面の人は手を伸ばせば触れるくらいの距離だ。普通の会議室の会議よりずっとコンパクトなので、『膝詰めレイアウト』と呼ぶ。
【膝詰めレイアウトのイメージ(相当密集してる)】
結果は・・・
同じメンバー6人が、同じテーマで議論をしてみる。5分議論したら隣のレイアウトに移るという試みだ。最初は『膝詰めレイアウト』での議論。
僕は、社長と共に外からその様子を見ていた。普通に議論が進んでいく。活発な議論だ。いい感じ。少しして社長が声を掛けた。
「役員室レイアウトに移動してみようや」
社員が一斉に移動する。そして、その瞬間に差が出た。「おお、これは・・・」思わず声が出てしまった。
まず、社員達の座っている姿勢が違う。
『膝詰めレイアウト』では、浅く椅子に腰掛け、前のめりだった社員が、『役員室レイアウト』になったとたん、背もたれにどっかりと体を預けている。「俺、お客さんですけどなにか?」と背中から聞こえてくるようだ(笑
発言の速度や回数も目に見て落ちている。側から見ていても「他人事感」が一気に増したように見えた。
この様子を見て、社長が大笑いしている「全っ然違うやん!わはは、おもろいなぁ。みんなどーなん?どういう感じ?」
社員達の反応も素直で面白い。
「いやー・・・なんつーか、遠い・・・」
「ハッキリ言って・・・参加意欲が低下します」
「まずファシリテーターの声が聞きづらいっす」
「わざわざ、俺が発言しなくてもいいかなーって、感じっす」と口々にコメントが。
こうまで違うものか。
しばらくして、また膝詰めレイアウトに戻る。
背もたれにどっかり、もたれかかっていた社員は、テーブルに腕を乗せて、グッと前のめりの姿勢に戻っているじゃないか。もちろん背もたれは使ってない。すげー!
他の社員たちの様子も変化した。密集した瞬間に発言が増えている。なんなら座る前から発言を始めている人も。
距離が近いから、周囲のちょっとした気配(発言したい、モヤモヤしている、しっくりきてない、など)を拾いやすいようだ。
ファシリテーター以外の参加者が、勝手に発言を促しあったり、発言の意図を確認しあったりしている。
この実験はなかなか衝撃だった。
変えたのは本当にレイアウトだけなのに、距離感によってこうまで違うものか。
長年感覚的に捉えていたことが、実験によってエビデンスが取れた瞬間だった。
(だから日本の役員会議は、どこもあんな感じになっちゃうのか・・・)と僕は一人で妙に納得していた。
偉くなるほど机と椅子がでかくなる。そうするとどんどん距離が遠くなり、熱量が落ち、冷めた議論になっていく。何ということでしょう・・・それでいいのか日本企業。
「議論の密度は、人の距離感に比例する」これは事実だった。
そうと分かったら、テーブルなどいらない!
その後、「机無し」のレイアウトでもやってみた。机が無い分、さらに密度が上がる。そして予想通り、さらに発言のスピードと頻度が上がった。
余談だが、この社長のすごいのは、事実がわかったら即行動に移すこと。「ここまで分かりやすく変わるかー。明日から普段の会議は机無しでやってみようや!」と、即決断。
社員からは賛否両論ありそうだが、例外なくすべての会議が「机無しの会議」に変身。金は一切かからない。誰にでも出来るちょっとした改革。
もちろん、机をなくせば直ちに良い会議が出来るわけではないが、良い会議をしやすくする、「大事な要素の1つ」である事は間違いなさそうだ。
しかし、本当に日本の全ての役員会議室から、テーブルをなくしてしまえたら、どうなるだろうか。
それだけで日本がガラリと変わったりして・・・。
さて、皆さんの会議室。距離感どうなってますか?
ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズに所属するコンサルタント榊巻(さかまき)がお送りするブロク。
Havefun!(楽しもうぜ!)を合言葉に日々仕事をしています。ケンブリッジはお仕事の依頼も、一緒に働く仲間も絶賛募集中。
ケンブリッジのホームページにも記事が沢山載ってます。書籍も好評です。