ワークスタイル変革のために「定着の4段サイクル」を回せ
先日、日経BPの「ワークスタイルイノベーションWinter」にお呼ばれして「会議が変わると組織が変わる!」というテーマで登壇してきました。
このブログでも紹介した「会議を変える7つの基本動作」のうち2つだけ講演で紹介してきたのだけど、「ワークスタイル変革を定着させるコツ」にも触れました。
多くの企業が新しい仕事の仕方を模索するし、会議のやり方をなんとか変えようとする。働き方を変えよう!という試みはあちこちで行われているのですが、実はワークスタイル変革で最も悩ましいのは「定着しない」ということなのです。新しい仕事の仕方がスタンダードにならないです。
なぜなのか?現場の理解不足や能力不足が原因と思われがちですが、そうではないと思っています。少し説明させてもらいたい。
「定着の4段サイクル」が回って無いから定着しない
聞きなれない言葉だと思うが、「定着の4段サイクル」はこんな4つで構成される。
①必要性を実感する
「これをやるといいことがある」「確かにこれは大事だ」「これをやらないとヤバイ」という実感を持つことが必要性を実感することになる。
"身にしみる " と言ってもいい。"目からウロコが落ちる" と言ってもいい。
これが動機、モチベーションになる。人間は必要性が実感できなければ「やってみよう」という気にはならないのだ。
②やり方を知る
「やってみよう」と思えたら、自然とやり方を学びたくなる。学ぶ気があれば、あっという間に吸収できる。
③失敗できる環境に身を置く
やり方を学んだら、実践してみたくなる。当たり前だが、実際にやってみないと新しいスキルや仕事のスタイルは定着しない。でも、「失敗しても大丈夫。試してみなよ。」という温かい雰囲気がないとチャレンジしづらい。新しいことを始めるには度胸がいる。上手く行かなかったらどうしよう?白い目で見られたらどうしよう?と思うのは当然である。「新しいことを始めやすい環境」が大事なのだ。
④やってみる
「必要性が実感」できていて、「やり方を知って」いて、「失敗できる環境」が揃うと初めて「やってみる」につながる。やってみると、必要性が実感できるようになる。そしてまたサイクルが回っていく。
これが定着の4段サイクルの考え方だ。このサイクルが回れば、新しい試みは自然と定着していく。では、このうちどこに問題がありサイクルが回っていないのか見てみよう。
問題1)多くの組織では「②やり方を知る」だけをどんどんやろうとする
研修や教育の類は大抵、「やり方を伝える事」しか考えていない。
ノウハウや方法論を座学で押し込もうとするのだ。
でも受講者に本当に必要なのは「①必要性を実感する」ことなのである。必要性が実感できてなかったら、どんなに②を学んでも頭に入らない。どんなに②を学んでも「やろう」と思わない。やらないから必要性も実感できない。だから定着しない。という状況に陥るのである。
多くのノウハウ本も②に軸足が置かれ、読者が「①必要性を実感する」ことには殆ど配慮されていない。多くのワークスタイル変革の取り組みも②ばかりを考えている。
でもよく考えて貰いたい。
ワークスタイルを変えるということは、「文化を変える」ということ、「価値観を変える」ということだ。「やり方」だけ押し付けられたら、そりゃ嫌になる。
そしてもう一つ大きな問題がある。
問題2)新しいことを始めるやつを「白い目」でみてしまう
誰かが新しことにチャレンジしようとしても、周囲の雰囲気がその気概を台無しにしてしまう。
人間は「現状を維持したい」という深層心理を持っている。心理学的には「現状維持バイアス」という。
だから相当気を付けないと、「失敗できない空気」「新しいことを始めづらい空気」が出来上がってしまう。これは新しい試みの定着には大きな障害になる。
この問題を打破するためにはどうすればいいのか?
お勧めは、業務改革プロジェクトやシステム刷新プロジェクトなどを丸ごとワークスタイル変革の実験場にしてしまうことだ。
「このプロジェクトの中では新しい会議のやり方を取り入れる」
「このプロジェクトの中ではリモートワーク前提で仕事をする」
といった感じで宣言してしまう。
日常業務と切り離して、新しい世界観を作ってしまうのだ。「やるのが当たり前」な環境を作ってしまう。
これは特に③、④に効く。
さらに、そのプロジェクトにお手本を示せる人間を放り込めば①、②に対応できる。
外部からその道の専門家を呼んでもいいだろう。社内からエキスパートを呼んできてもよいだろう。
ポイントは「教えてもらう」のではなく、「やって見せてもらう」ことだ。
「①必要性を実感」することが何より大事なのだから、バンバンお手本を見せてもらって「これは良さそうだ」という気持ちを醸成する必要がある。
これは数時間の研修ではなかなか実現できない。日々のプロジェクトワークの中で、繰り返しお手本を見せてもらうことが「①必要性の実感」につながる。実感出来ればやり方を知りたくなる。そうなればお手本を見せていた人間がテクニックを教えてあげればいい。
こうして実際のプロジェクトで新しいワークスタイルを試していくと、自分たちにあったやり方に少しずつカスタマイズされていく。
誰かが教えてくれたものは結局「誰かのやり方」であり「既製服」なのだ。ノウハウを鵜呑みにするだけではうまくいかない理由がここにもある。
自分たちにあったやり方にカスタマイズできると、ますます必要性が実感できるようになり、やがて「やらないと気持ち悪い」「もう古いやり方には戻れない」という状態になる。
そうなるとそのプロジェクトの中での「常識」や「価値観」が塗替えられる。ワークスタイルが根っこから変わる瞬間だ。
ここまでくると、新しい「価値観」はプロジェクトの外に自然と伝搬されていくようになるのだ。
二兎を追うからこそ、相乗効果が生まれ成功する
いろいろな取り組みを支援してきたが、この「プロジェクト」と「ワークスタイル変革」の二兎を追う方法が一番パワフルだ。
ここ数年、このスタイルで企業を支援するケースが非常に増えている。
業務改革の成功と、ワークスタイル変革の成功を両立させられるコンサルティング会社が少ない(ケンブリッジしかない?)からだと思う。
普通のコンサルティング会社は、ノウハウをオープンにして教えてはくれないし、研修を得意とする会社は業務改革の支援などしてくれないからだ。
多くの企業をこのスタイルで支援をしてきたが、新しい仕事の仕方に慣れ、「やらないと気持ち悪い」という状態になるまで短いと1.5ヶ月、長くても4ヶ月程度のことが多い。
色々なことが一気に変わるこの期間は、最高に楽しい時間となる。
是非とも「業務改革」と「ワークスタイル変革」、二兎を追って変革を成功に導いて貰いたい。