サードキャリアとは何か?〈前編〉あなたの未来を変えるカギ
サードキャリアとは何か?〈前編〉
― 社会構成主義とエージェンシーが導く、人生の第三の進化 ―
「転職」ではなく「転身」を。 これは、AI時代を生きる私たちが再び”自分の人生を取り戻す”ためのキーワードです。
はじめに
サードキャリアとは、社会構成主義の視点から自分の経験を再物語化し、他者と共に社会と自分自身を再構築していく生き方です。
それは、巷で語られる”自己実現”とは違います。 変化を起点にした「自己変容(Self-Transformation)」 を通じて、人生を社会との対話で新たにクラフティングしていく、いわば”第三のキャリア”のステージ。
これまでのキャリア観では、「成功」とは昇進・報酬・スキルといった 外からのモノサシ で定義されてきました。 しかし今、多くの人が気づき始めています。
この新しい地平を拓く概念こそが「サードキャリア」です。「外の評価ではなく、自分の意味で生きたい」
1. なぜ「サードキャリア」が注目されるのか
40代・50代を迎えた多くの人が、会社の評価という「外のモノサシ」では測れない、自分自身の価値を問い直し始めています。 AI、自動化、人口減少、価値観の多様化——私たちは、明治維新以来とも言える社会構造の転換期にいます。 OECDの Education 2030 が示すように、これからの社会では「正解を持つ人」よりも、自ら問い、行動し、意味を見出す人(エージェント) が求められます。 なぜなら、組織も社会も、もはや「唯一の正解」を誰も持っていないからです。 サードキャリアとは、まさにこの「エージェンシー(Agency)」を生き方として体現するステージ。 もう一度、人生のモノサシを自分自身に取り戻し、**「自分の足で社会に立つ力」** を育てるフェーズです。2. サードキャリアの定義:共創と自己変容のステージ
まず自分自身のこれまでの歩みを振り返ってみましょう。あなたにも、こんな瞬間があったのではないでしょうか。ファーストキャリア(適応期) — 「覚える」「慣れる」時期
上司や先輩の背中を見て仕事を覚え、初めてのプレゼンに緊張したあの頃。 社会に認められたい」「一人前になりたい」という気持ちが、何よりのモチベーションでした。 この時期は “評価されること”が生きる指針 になっていました。
セカンドキャリア(自立期) — 「選ぶ」「広げる」時期
「自分の力を試したい」「もっと裁量を持ちたい」と思うようになる。 転職や独立に踏み出す人も出てくる。 この時期は”自分で選び取る自由” がテーマですが、同時に「迷い」も増えていきます。
サードキャリア(共創期) — 「活かす」「つなぐ」時期
ふと立ち止まった時に、「これまでの経験を誰かのために活かせないか」と思う瞬間。 自分のキャリアをもう一度見直し、社会と共に価値を生み出すステージ。 ここでは、成功よりも成熟、競争よりも共感、効率よりも意味が主題になります。
3. 社会構成主義の視点:キャリアは「対話からつくられる物語」
最近、誰かに自分の仕事の話をしましたか。 その会話の中で、自分の中に眠っていた「大切な価値観」に気づくことがあります。 それが 社会構成主義(Social Constructionism) の核心です。つまり私たちの「キャリア」や「自分らしさ」は、他者との対話や関係性の中で”つくられていく”ということです。「私たちは”世界を発見する”のではなく、”世界をつくっている”」
キャリアとは、「語り、聴かれ、問い直す」往復運動の中にある。
注釈
・OECD Education 2030 Learning Compass: 経済協力開発機構(OECD)が提唱する教育の国際指針。 未来社会で必要な資質・能力を「エージェンシー(主体性)」と「ウェルビーイング(持続的幸福)」として位置づける。
・社会構成主義(Social Constructionism): 心理学者ケネス・ガーゲンらが提唱した理論。 人間の現実やアイデンティティは、個人の内面ではなく、社会的対話や関係性の中で構築されるとする立場。
次回予告
次回は、「経営」から「教育」へ、「デジタル」から「地域」へという二つの転身事例を通じて、サードキャリアの実践とEducation 2030* の学びの循環(AARサイクル)をひも解きます。
→ 後編へ続く。