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サードキャリアとは何か?〈前編〉あなたの未来を変えるカギ

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「サードキャリア」とは何か。 それは、40代以降のキャリアを”もう一度、社会とつなぎ直す”ための新しい生き方です。単なる再就職ではなく、これまでの経験を社会のために編み直す「転身」のフェーズだと考えてください。

さなぎから羽化する蝶のイメージ
“Beauty sleeps within, awaiting its wings.”
美しさは、いま静かに内に眠り、羽ばたく時を待っている

転職が「場所を変えること」だとすれば、転身は「自分の軸を変えること」です。 組織の評価や役職といった外側の基準を超えて、これまで培ってきた実務経験を、教育・地域・社会との協働にもう一度つなぎ直す。その考え方を本稿では「サードキャリア」と呼びます。 本稿は、平尾清著『ビジネス経験を活かしきる「40代から大学教授」という最高の働き方』(青春出版社)で述べた内容を、より教育・社会理論の文脈から補足するものです。


1. なぜ今「サードキャリア」なのか

AI、自動化、人口減少、そして価値観の多様化。私たちはいま、明治維新レベルの社会の組み替えの只中にいます。 こうした時代には「正解を知っている人」よりも、自分で問いを立て、行動し、意味を見出す人が求められます。

OECDが示す Education 2030※1 では、この力を「エージェンシー(Agency)」と呼び、 「変化する社会の中で、自分で目標を設定し、行動し、その結果に責任を持つ力」と定義しています。 サードキャリアは、このエージェンシーを人生後半で再び立ち上げるプロセスだと言えます。


2. サードキャリアの3つのステージ

ステージ 内容 Key Concepts
1st Career
(適応期)
社会や組織のルールに適応し、他者の評価軸で学ぶ時期。 Adaptation
Learning
2nd Career
(自立期)
自分の意思で環境を選び、スキルと専門性を磨く時期。 Independence
Challenge
3rd Career
(共創・貢献期)
これまでの経験を社会に還元し、他者と共に価値を創り出す時期。 Co-creation
Maturity

この3段階の進化は、「働く」から「生きる」へのシフトです。 サードキャリアとは、競争を超えて、意味あるつながりをつくる生き方。その先に、「個人と社会のウェルビーイング」が広がります。


3. 社会構成主義とサードキャリア

もう一つ、サードキャリアを理解するうえで重要なのが、社会構成主義(Social Constructionism)※2という考え方です。 これは「私たちの現実やアイデンティティは、他者との対話や関係性の中でつくられていく」という考え方です。

この視点に立つと、キャリアは「自分ひとりで築き上げるもの」ではなく、 社会・地域・組織との対話によって<共に編まれていく物語>だとわかります。 だからこそ、40代・50代での”やり直し”や”語り直し”には大きな意味があります。 経験を語り直すことで、過去は「完了したもの」ではなく「未来に接続できる資源」に変わります。


4. 後編では何を扱うのか

ここまでは「なぜ今サードキャリアなのか」「どういう構造なのか」を整理しました。 次の後編では、実際にそれを始めるための方法──特にOECDが教育で推奨している AARサイクル(Anticipate - Action - Reflection)を用いた進め方、 そして「教育・地域・大学」での具体的な転身パターンを紹介します。

後編はこちら: サードキャリアとは何か?〈後編〉人生を取り戻すために


※1 Education 2030:OECD(経済協力開発機構)が提唱する次世代型の学習フレームワーク。知識の量よりも「意味づける力」「責任ある行動」「未来をつくる主体性(エージェンシー)」を重視し、学習者が社会の中で役割を再定義できるようにすることを目的としている。

※2 社会構成主義:心理学者ケネス・ガーゲンらが展開した立場で、「現実」や「自己像」は最初から個人の中にあるのではなく、他者との関係・会話・文化的文脈の中で構成されると考える。キャリアを”再物語化(Re-authoring)”するという考え方の理論的な土台になる。

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