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サードキャリアとは何か?〈後編〉人生を取り戻すために

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人生の後半で「このままで終わりたくない」と思ったときに必要なのは、環境を変えることよりも、これまでの経験をもう一度”社会につなぎ直す”ことです。前編ではその考え方を「転身」と呼びました。後編では、それを実際に動かすためのAAR(Anticipate - Action - Reflection)を使った実践のやり方をお伝えします。

さなぎから羽化する蝶のイメージ
“Beauty sleeps within, awaiting its wings.”
蓄えてきた経験は、殻を脱ぐときにこそ価値になる

40代・50代で感じる停滞は、能力の限界ではなく、キャリアのOSを切り替えるタイミングです。 これまでのように「外の評価に合わせて働く」だけではなく、あなたが長年の仕事で身につけてきた実践知を、教育・地域・大学といった次のフィールドで生かす段階に入っているのです。 そのときに役に立つのが、OECDのEducation 2030でも重視されているAARという小さな学びの循環です。 この後編では、あなたの経験を”後半人生の羅針盤”に変える3ステップとして紹介します。


1.40代・50代の「キャリアの袋小路」をどう乗り越えるか

前編でもお伝えしたように、環境を変える「転職」だけでは、人生の後半戦で起きるキャリアの閉塞感は解消しきれません。 大事なのは、自分の軸そのものを再構築する=転身という考え方です。

40代・50代になると、多くの場合、一定の地位や収入があり、表面的には安定しています。 しかしその一方で、

  • この先もずっと同じことをしていて、ほんとうに納得できるのか
  • 自分の経験をもっと社会に生かせる場所があるのではないか
  • 若い世代にちゃんと渡せていないものがある気がする

といった「目的の希薄化」に直面します。 セカンドキャリアまでのように、外からの評価やポジションに寄りかかる生き方を続けていると、どこかで必ず”袋小路感”が出てきます。これは、あなたが悪いのではなく、キャリアの構造が変わっただけです。

虫クン(幼虫)の寓話が教えてくれること

ここで、小さなたとえ話をしてみます。 ある虫クン(幼虫)は、与えられた役割──葉を食べること──をきちんと果たして生きていました。 ところがあるとき、虫クンは本能的に「このままではいけない。やがてサナギになって姿を変えなければならない」と感じます。

でも、サナギになるのは怖い。孤独で、先が見えず、今の安定が失われるように思えるからです。 もしここで虫クンが「変わらないほうが安心だ」と言ってサナギになることを拒めば、どうなるでしょうか。 おそらく一生、地面の高さで、与えられた葉だけを食べて生きていくでしょう。空の広さも、羽で風をつかむ感覚も知らないままです。

この寓話が示すように、転身とは、あなたを縛っている”古いキャリアの殻”を一度脱ぐことで、人生の後半をもう一度輝かせるための、避けられない自己変容のプロセスなのです。


2.AARワーク:経験を「後半人生の羅針盤」に変える

転身は、いきなり大きな決断をすることではありません。 まずは、あなたの経験の中に眠っている「誰にも真似できない実践知」を掘り起こすところから始めます。ここで使えるのが、OECDでも紹介されているAAR(Anticipate - Action - Reflection)という学びのサイクルです。

Anticipate(予期):どこへ向かいたいのか、何を社会に渡したいのかを見立てる。
Action(行動):小さくやってみる。授業1コマ、地域での90分対話、社内勉強会など。
Reflection(内省):どこに一番反応があったか・自分はどう感じたかを言語化し、次の一歩を決める。

この3つをノートに書き出すだけでも、経験が「過去の思い出」から「これからの指針」に変わります。

Step 1: Anticipate(予期)―― 問いが停滞を破る

最初のステップでは、あなたが若い頃に思い描いていた理想像を呼び戻します。

  • 就職したとき、どんな人になりたいと思っていたか
  • 30代のとき、どんな立場で仕事をしていたいと考えていたか
  • 憧れていた先輩・上司・ロールモデルを3人書き出す

この「当時の理想」と「いまの自分」のあいだにあるギャップこそが、次に向かうべき問いの出発点です。キャリアの先が見えてしまったときは、問いを思い出すところからやり直せばいいのです。

Step 2: Action(行動)―― 「生きた知恵」の原材料を記録する

次に、これまでで一番心が動いた仕事の場面を拾っていきます。成功でも失敗でも構いません。大事なのは、感情が動いたかどうかです。

  • 最も誇らしかった仕事は何か
  • 最も悔しかった出来事は何か
  • そのとき、誰のどんな一言が刺さったか
  • そこで自分はどんな判断をして、どう動いたか

結果だけでなく、「一晩中あれこれ考えてしまった」「あの人の一言が忘れられなかった」といった内側の揺れを書き残すと、あなたの価値観の源泉が見えてきます。ここまで書けると、その経験はすでに他者に渡せる素材になっています。

Step 3: Reflection(内省)―― 「あなただけの戦い方」を言語化する

最後に、Step 1で思い出した理想と、Step 2でふり返った実際の行動とを結びつけるようにして、

だから私はこういう場面では、こう動く。

という一文をつくります。これが、サードキャリアで一番求められる”あなたの実践原則”です。

例) 「業界の常識よりも、顧客のさらにその先にいる人のニーズを聞きに行く」 「若手が持ってきた案は、一度も否定せずに広げる」 「自分が抜けたあとに残る仕組みを最初に考える」

こうした一文は、大学や地域で「何を教えられますか?」と聞かれたときに、そのまま説明に使えます。つまりAARを回すこと自体が、あなたの転身の説明資料をつくることになるのです。


3.転身へ──経験を「新しい社会的価値」に接続する

AARをくり返していると、書き出した経験が「誰かの学びを助ける物語」に変わっていきます。これは、前編で触れた社会構成主義──「現実やアイデンティティは他者との対話の中で構成される」という考え方──とも一致します。

映画『イントゥ・ザ・ワイルド』でも描かれていたように、過去を説明するだけでは未来は動きません。 しかし、自分がそこで感じたこと・意味づけたことを他者と分かち合ったとき、初めて経験は「社会に効く物語」になります。 あなたの転身は、まさにこれをやることです。長年のビジネス経験を、”次の世代のための新しい生き方のモデル”に翻訳して渡す。これは静かですが、とても大きな社会的インパクトをもつ行為です。


4.次の一歩と書籍への導線

もしここまで読んで「自分でもできそうだ」と感じたなら、あとは小さく始めるだけです。

  1. AARをノートに1セットだけ書く
  2. それをブログやSNSで1回だけ公開してみる
  3. 反応があったテーマをもう一度AARで深掘りする

このサイクルを、大学の授業・地域の勉強会・企業のリスキリングなどに持ち込むやり方を、より体系的にまとめたのが

『ビジネス経験を活かしきる「40代から大学教授」という最高の働き方』

(青春出版社)

です。今回のブログと、ダイヤモンド・オンラインの記事、そして前編の記事をセットで読んでいただくと、「なぜ転身なのか」「どう実践に落とすか」「どう社会とつなぐか」が一本の線になるはずです。


関連記事: ダイヤモンド・オンライン「失業」からの「転身」「転職」ではなく「転身」──サードキャリアという、もう一度はじまる人生の旅サードキャリアとは何か?〈前編〉

※本記事で紹介したストーリーは、プライバシーに配慮し複数の事例を再構成したものです。実在の個人・団体を特定できないよう編集しています。

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