「ひとり呑み」と「新製品開発におけるテストマーケティング」
30歳を越えて、ひとりで酒を飲む機会が増えた。定期的に通うお店もある。
そうして馴染みの客として顔を覚えられ、また、美味しいものは美味しいとお店側に伝えていると、ふとした拍子に「いま実はこんなメニューを考えていて・・・」と、新しい料理を試食させてもらう機会をいただくことがある。
まだ確実に客に出せる状態ではないものを食べるわけなので、少量かつ無料か、ないしは半額くらいで提供される。もちろん、その代わりにこちらは正直な感想を伝え、思いつくことがあれば改善案を述べる。
そして更に美味しくなった新作がメニューに載ることになったら、そのときは正規の値段で注文をする。自分が協力したメニュー が並べば一層その店のファンになるし、その新作をほかの人にも薦めたくなるというものだ。
翻って、いまのモノづくりにおいて、こうした仕組みはあるのだろうか。そこで思い当たったのが、「クラウドファンディング」 という仕組みだ。個人からお金を集めて、目標額に達したら正式に開発が進む(=メニューに載る)という仕組みのなかに、「お試し提供」をしつつ「製品化の前にファンを獲得できる」プロセスが組み込まれている。そこにひとり呑みにおける試作品提供に似ている部分を感じた。
プレイヤーとしても、米国のKickstarterをはじめ、日本でもCampFire、Makuake、kibidango、zenmonoと、こうしたサービスを提供する企業が増えてきている。さらに、本日7/1(水)には、ソニー自身がクラウドファンディング用のサイトを立ち上げるというリリースもあった。
■ソニー、新製品をクラウドファンディングで育てる「First Flight」 電子ペーパー時計「FES Watch」など販売 - ITmedia
もちろん「資金を集める」という大きな目的もあるだろうが、それだけでなく、「この製品は果たして市場に受け入れられるのだろうか」というのを試す「テストマーケティング活動」にもなっている点に注目したい。いまの製品販売の流れで「外す」ことは許されない。アイデアを思いついても、気軽に作れない(生産できない)というのが現状だった。
しかし、これがIT技術の発達やネットの普及によって大きく変わりつつある。製品アイデアは事前に反応が見れるし、試作品は3Dプリンターなどで手軽に作れるようになってきた。そして、前述のソニーなどの大企業からベンチャーなども含めて、意欲的な製品アイデアがクラウドファンディングの場でお披露目されている。こうしたチャレンジの場がもっと広がっていくことで、日本の製品開発が盛り上がってほしい。また、メディアとしてもそれをバックアップしていきたい。
面白い製品アイデアを見ながらひとりで呑むお酒も美味しいし、「こんなものがあったら買う?」と店主と話すネタにもなるのだ。