ソフトバンクがロボットに突き進む理由 ~ Boston DynamicsとSchaftの2社買収
ソフトバンクグループは2017年6月9日、Googleを傘下に収めるAlphabetから、ロボティクス企業のBoston DynamicsとSchaftの2社を買収すると発表しました。
以前からこの2社については、親会社の開発方針と合わず、売りに出されているといったうわさ話がありましたし、2016年6月に日本経済新聞が「トヨタ自動車がこの2社の買収交渉をしている」といったニュースを取り上げたことで、その動向に関心が寄せられていました。
■Boston DynamicsとSchaftって?
Boston Dynamics(ボストンダイナミクス)は、1992年にマサチューセッツ工科大学(MIT)の教授が立ち上げた米国発のベンチャーで、2013年12月にGoogleに買収されました。犬型や人型のロボットなどで先駆者的な立ち位置を築いており、強い衝撃を与えても決して倒れない制御技術や、小さなボディーでも安定して駆動するロボットを幾つも開発しています。
その技術をアピールするために、犬型ロボットを人が蹴る動画や、人型ロボットの作業の邪魔をする実験動画が話題になりました。人が蹴ってもまったく倒れない技術を告知する一方で、廊下にあるバナナでずっこけるシーンなども収録されていたり、ユーモアのある企業だという印象があります(動画参照)。
一方のSchaft(シャフト)は、2012年に東京大学で設立されたベンチャー。二足歩行ロボットを開発し、2013年開催の米国のロボットコンテスト「DARPAロボティクスチャレンジ」の予選をトップで通過し大きな話題となりました(本戦は欠場)。Boston Dynamics買収の1カ月前、2013年11月にGoogleに買収されました。Googleはこの時期、他にも複数のロボット関連企業を買収しています。
■なぜソフトバンクが買収したのか
では、なぜソフトバンクがこの2社を買収したのでしょうか。
このニュースを私のFacebookにシェアしたときに、「Alphabetが手放してOKとする会社を買って勝算はあるのか」「子会社に刺激を与えられれば良いのか」「Googleは機構系はもうやらないのか」「株価が上がりそう」といったコメントがありました(実際株価は上がりました)。
「Pepperに足を生やすのではないか」といった話もありますが、そんな単純なことでもないでしょう。いや、生えないとも限りませんが(笑)。
Alphabetがこの2社を売却した理由は明確になっていませんが、「今後数年で収益を生む可能性が低い」「(開発の)方向性が合わない」「動画が不気味」などの臆測が飛び交っているようです。他方、ソフトバンクがこれらの企業を買収する理由は明確で、「ロボットに力を入れているから」です。つまり、孫正義氏がその方向を向いているということであり、恐らくこれが最も単純で強力な買収理由だと思います。
ただ、私が記憶している限りでは、ソフトバンクがロボットに舵を切り始めたは、2010年にソフトバンクグループ内で開催された「新30年ビジョンコンテスト」で、ある女性社員が「ロボットをテーマとする企画」で優勝したことから始まっていると認識しています。その後、正式に発表された「ソフトバンク 新30年ビジョン」のなかでも、「ソフトバンクグループは優しさを持った知的ロボットと共存する社会を実現したい。」と明記されています。2010年から見た30年後の世界なので、今後数年ではなく、2040年を見据えての買収と捉えることで、理解が深まるかもしれません。
■経済産業省の戦略とも符合する「ロボット」
こうしたロボット事業に注力するのは、日本の戦略とも符合します。先日紹介した経済産業省の「新産業構造ビジョン」でも、ロボットに関する部分は多くのページが割かれていました。
高齢化し人手が足りなくなる日本において、ロボットが補う労働力や介護サポートへの期待。また、高度化する製造業のなかでの産業ロボット、ほかにも多くの分野で、大小さまざまなロボットの活躍の場が想定されています。そうしたなかで、日本企業が先進的なロボット事業2社を同時に買収する、というのは大きなニュースでした。これを好材料と判断されてソフトバンクの株価も上がりました。
ただ、株価を上げたくらいでは孫氏は終わりません。いまではお馴染みとなっているソフトバンクの「Pepper」も、2012年に買収したフランスのロボットメーカーの技術をベースに開発されたもので、いまもなお注力されています。
昨年買収したARMなども含め、最新のテクノロジー群が実社会にどういう形で落とし込まれていくのか、そして社会にどのような影響をもたらすのか、しばらく見守っていきたいと思います。