経産省による「新産業構造ビジョン」、4つの戦略に共通して見えるもの
2017年5月29日、経済産業省が「新産業構造ビジョン」を発表しました。
2030年に向けてどのような社会を目指すべきか――。現状分析やアベノミクスの基本的な戦略などを振り返り、解決すべき問題について整理した上で、その実現に向けた方向性やプロセスがまとめられています。さらに、各戦略分野における具体的な戦略案が以下の4つのテーマで設けられています。
1.「移動する」(ヒトの移動、モノの移動)
2.「生み出す、手に入れる」 (スマートサプライチェーン、製造・生産現場における高度化・効率化)
3.「健康を維持する、生涯活躍する」(健康・医療・介護)
4.「暮らす」(「新たな街」づくり、シェアリングエコノミー、FinTech)
(資料)経済産業省>産業構造審議会 新産業構造部会(第17回)‐配布資料
この戦略立案の背景にあるのは、第4次産業革命の第1幕として定義された「ネット上のデータ競争」での敗北です。「プラットフォームを海外に握られ、わが国の産業(例えばゲーム)は小作人化」したと分析しつつ、これからの主戦場である第2幕では「リアルデータ」が重要になるため、そこでいち早く優位性を確保しよう、という方針です。
確かに、ネット上におけるプラットフォームでの市場競争では、Apple、Google、Amazon、Facebookなどの米国企業に圧倒的に主導権を握られています。ソフト面での弱さ、ないしはハードに偏り過ぎた結果ともいえるかもしれません。
しかし、そうしたネット上における市場競争が第1幕とすれば、これから始まる第2幕で主戦場となるのは、健康・医療・介護、製造現場、自動走行など、「リアルな世界のデータ」です。そうした「実社会におけるデータ」を取得・解析・活用するためのプラットフォームを作り出していくことが今求められています。
特に最近目覚ましいのが、2.「生み出す、手に入れる」、つまり「製造・生産」における日本企業の力の入れようです。
▼関連記事:
・IoTを活用した次世代工場実現へ――オークマの新工場で共同実証を開始
・「工作機械」と「通信機器」大手が協業、製造業のIoT化推進を目指す
・「IoE」を世界へ、ジェイテクト亀山工場が作る「見える化」の標準形
先日ドイツで開催された「ハノーバーメッセ2017」でも、日本企業から世界への強いアピールがありました。
▼「ハノーバーメッセ2017」レポート:
・つながる工場実現へ、ファナックがIoT基盤をドイツでアピール
・三菱電機はスマート工場基盤を訴求、欧州発のシンプルIoTも用意
・インダストリー4.0で深まる日独連携、残された"3つの課題"の現在地(前編)
・インダストリー4.0で深まる日独連携、残された"課題"の現在地(後編)
その他の製造業大手メーカーも、「つながる工場」「インダストリー4.0」「IoT」などのキーワードとともにニュースで見掛けない日はないくらい、各社がこぞって取り組んでいます。
こうした企業は早くから実現に向けて動き出しており、今から始める企業よりもリードしているといえますが、ただITを導入して機器や工場間がつながったからといってすぐに業績が上がるかというと、もちろんそういうわけでもありません。
新たな技術は常に市場競争に影響を与えます。特に「データ」を取得した後、それをどう分析し、活用するか、という点は今後もより一層の争点(市場での競争優位性を担保するためのポイント)になることと思います。AIなどの導入・活用についても、分析・学習する基となるデータが必要です。
そういう意味でも、今回の経産省の戦略方針は正しいでしょう。いかにデータを確保するか、そしてそれをどう生かすか。ネット上のプラットフォーム覇権争いで敗北してきた日本が、これから始まるデータ市場でどう勝負していくか、また、そこからどんないい製品やサービスを開発し、生活や社会をより豊かにできるか。そうした過渡期に立ち会えることをとても楽しく思います。
【参考】
・経済産業省>産業構造審議会 新産業構造部会(第17回)‐配布資料