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ICT、クラウドコンピューティングをビジネスそして日本の力に!

クラウド戦略は「AI対応」と「量子耐性」を

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米国の調査会社フロスト&サリバンは、2025年12月11日に「パーソナライズされ、AIに対応し、量子セキュアなクラウドスタック」に関する新たな分析を発表しました。

The Personalized, AI-ready, and Quantum-secure Cloud Stack: Identifying New Opportunities in the Cloud Services Ecosystem

現在、企業におけるクラウド導入は、単にアプリケーションを稼働させる場所の確保から、いかに知的かつ効率的に稼働させるかというフェーズへと移行しています。生成AIの普及や自動化技術の進展を背景に、ITシステムの複雑性が内部スキルの限界を超えて増大している現状があります。本レポートでは、こうした課題に対し、クラウドサービスプロバイダーがいかにしてインテリジェンスを注入し、企業の変革を支援するかが焦点となります。

今回は、クラウドサービスのエコシステムにおける構造変化、AIによるハイパーパーソナライゼーション、サーバーレス2.0の台頭、量子時代を見据えたセキュリティ、そして今後の展望について取り上げたいと思います。

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「場所」から「知能」へ進化するクラウドの役割と構造変化

クラウドサービスは、アプリケーションをホストするためのインフラ提供という従来の役割を超え、ビジネスの速度に合わせたパフォーマンス保証や自動化を提供する「知能の基盤」へと変貌を遂げています。企業はインフラの維持管理を外部へ委ねることで、社内のリソースをより戦略的な領域へ集中させることが可能となります。これに伴い、クラウド市場における競争軸も変化しており、大規模なシステムインテグレーターやビジネスサービス企業が、業界横断的な専門知識を武器に差別化を図っています。

フロスト&サリバンの分析によると、現在のクラウドサービスエコシステムは大きく二つのカテゴリーに分類されます。一つは、プロバイダーがインフラの構成と管理を行い、企業がワークロードの制御権を持つ「クラウドインフラストラクチャサービス」です。もう一つは、プロバイダーがインフラだけでなくアプリケーションワークロードそのものを管理する「クラウドアプリケーションサービス」です。後者は、最新化が困難なレガシーシステムや複雑なハイブリッド環境において、成果に基づいた提供モデルとして需要が高まっています。

企業が直面する技術的複雑性を解消し、競争力を維持するためには、これらのサービスモデルを適切に使い分けることが必要となります。プロバイダー側には、単にリソースを提供するだけでなく、AI対応やコスト最適化といった企業の優先順位に合致した、未来志向のソリューション提案が求められています。

AIによるハイパーパーソナライゼーションがもたらす最適化

本レポートにおいて、最も高い成長機会としてインパクトスコア「97」を記録したのが、クラウドサービスの「AI駆動型ハイパーパーソナライゼーション」です。従来、クラウドのリソース配分は一律的な処理になりがちでしたが、AIの活用により、個々のワークロードの利用パターンを学習し、計算能力やストレージの提供を自律的に微調整することが可能となりました。これにより、パフォーマンスの向上だけでなく、インフラコストの削減という直接的なメリットが享受できます。

Amazon Web Services(AWS)やMicrosoft Azure、Google Cloud Platform(GCP)といった主要プレイヤーは、すでにリアルタイムの利用状況に基づいてインフラを即座に調整する自動スケーリングツールや、予測AI分析の開発に注力しています。これにより、ユーザー企業は必要な時に必要な分のリソースだけを消費することになり、エネルギー効率の向上や二酸化炭素排出量の削減といったサステナビリティの観点でも貢献します。

この潮流は、クラウドサービスが静的な「箱」から、ユーザーの文脈を理解する動的な「パートナー」へと進化していることを示しています。プロバイダーにとっては、顧客体験の質を高めることでロックイン効果を狙える一方、ユーザーにとっては運用負荷を最小限に抑えつつ、常に最適な環境を利用できる点が大きな魅力となります。

サーバーレス2.0が加速させるマイクロサービスの展開

成長機会の第2位として挙げられているのが、「サーバーレス2.0アーキテクチャ」です。これは、企業が未使用のインフラに対してコストを支払うことなく、需要に応じて自動的に拡張するマイクロサービスを展開できる仕組みです。従来のサーバー管理の煩雑さから解放されることで、スタートアップ企業は初期投資を抑えながら複雑なバックエンドシステムを構築でき、大企業はデジタルネイティブな競合に対抗するための俊敏性を獲得できます。

サーバーレス2.0は、イベント駆動型のアーキテクチャを採用しており、需要やパフォーマンス要件に応じて瞬時にスケールすることが可能です。AWS LambdaやGoogle Cloud Functionsなどが先行していますが、Cloudflare Workersのようにネットワークのエッジでマイクロサービスを実行し、低遅延を実現するアプローチも注目されています。これにより、開発者はインフラの管理という「差別化につながらない重労働」から解放され、機能開発や顧客価値の創出に専念できる環境が整います。

この変化は、インフラの抽象化をさらに推し進めるものであり、開発者の生産性を劇的に向上させます。結果として、市場投入までの時間が短縮され、ビジネスの仮説検証サイクルを高速化させるための重要な推進力として機能することが想定されます。

量子時代を見据えたセキュリティとAIネイティブ開発

クラウドの進化において見過ごせないのが、セキュリティと開発環境の変革です。本レポートでは、量子コンピュータの実用化を見据えた「量子セキュアなクラウド暗号化」や「量子耐性のあるセキュリティソリューション」が高いインパクトスコアを記録しており、これらは将来のリスクに備えるための必須要件として位置づけられています。既存の暗号技術が突破されるリスクに対し、プロバイダー各社は防御策を講じることが重要となります。

一方で、攻撃的な進化として「AIネイティブなクラウドプラットフォーム」の台頭があります。生成AI(GenAI)がクラウドネイティブな開発環境に統合されることで、コードの自動生成や反復タスクの排除が進み、ソフトウェアの設計・構築プロセスが根本から変わりつつあります。IBM Cloudなどが進めるように、開発ライフサイクル全体にAIを組み込むことで、開発者の効率は飛躍的に向上します。

このように、守りの要であるセキュリティと、攻めの要である開発環境の双方において、高度なテクノロジーの実装が進んでいます。企業がクラウドを選定する際には、現在の機能だけでなく、こうした将来的な技術革新にどれだけ追随できるプラットフォームであるかを見極める視点が必要となります。

2026年に向けたクラウド戦略の再定義

今回のフロスト&サリバンの分析から読み取れるのは、クラウドが「容量の販売」から「成果と速度の販売」へとビジネスモデルを転換させているという事実です。今後、企業にとっての競争優位性は、どれだけ大量のインフラを保有しているかではなく、AIによる予測能力や量子レベルのセキュリティをいかに活用し、リスクを先回りして管理できるかにかかっています。

2026年に向けて、クラウドサービスはより自律的になり、人間の介入を最小限に抑えつつ最大の価値を生み出す方向へ進化すると考えられます。これに伴い、企業側も「クラウドを使う」という受動的な姿勢から、「クラウドの知能を経営に組み込む」という能動的な戦略への転換が求められます。一方で、プロバイダーへの依存度が高まることによるベンダーロックインのリスクや、ブラックボックス化するAIの判断プロセスに対するガバナンスの確保といった新たな課題も浮上します。

これからのアクションとして、自社のクラウドポートフォリオが、来るべきAIネイティブ時代や量子コンピューティング時代に対応できているか、再評価を行うことが重要となります。コスト削減だけでなく、ビジネスの俊敏性と安全性を担保するための投資としてクラウドを捉え直し、信頼できるパートナーと共に技術的負債を解消していく取り組みが、持続的な成長には重要となっていくでしょう。

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Google Geminiにて作成

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