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OpenStackは「脱VMware」の受け皿になれるのか

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Mordor Intelligence社が2026年1月に公表したOpenStackサービス市場の調査レポート「OpenStack Services Market Size & Share Analysis」によると、同市場は2026年の395.9億ドルから2031年には1,553.6億ドルに達し、年平均成長率(CAGR)31.45%で拡大する見通しです。

プライベートクラウドの基盤として一時は停滞感もあったOpenStackですが、BroadcomによるVMware買収後のライセンス費用高騰、5G展開に伴う通信事業者の仮想化需要、そしてEUのデータ主権規制という三つの圧力が同時に作用し、市場の前提条件が書き換わりつつあります。一方で、OpenStack専門人材の不足やKubernetes・サーバーレスとの競合という構造的な制約も存在し、成長の持続には条件があります。

今回は、VMware離脱の実態と移行先としてのOpenStackの位置づけ、通信・金融・政府など業種別の採用力学やマネージドサービスの台頭、そして、今後の展望について取り上げたいと思います。

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395億ドル市場の成長を駆動する三つの力

OpenStackサービス市場の年平均成長率31.45%は、クラウドインフラ関連市場のなかでも突出した水準です。この成長を支えるのは、コスト構造の転換、通信事業者の仮想化投資、そして規制環境の変化という三つの力の同時作用にあります。

コスト面では、CanonicalがVMware vSphere Enterprise Plusとの比較で総保有コスト(TCO)を最大40%削減できるとするベンチマークを公表しています。Rackspaceの試算では、マネージドOpenStackの利用により20台のサーバーあたり年間25万8,000ドルの削減が可能としています。ライセンス費用の排除とコモディティハードウェアの自由な選定が、この差を生む構造的な要因です。

通信分野では、事業者の84%がネットワーク機能仮想化(NFV)にOpenStackを採用しているとされます。Verizonは複数のデータセンターにまたがるNFVクラウドを運用し、5Gのエッジノード展開にも対応しています。さらに、EUのGaia-XやNIS2といったデータ主権規制が、欧州におけるプライベートクラウド支出を押し上げる要因となっています。では、これらの成長ドライバーのなかで、直近で最も急速にOpenStackへの関心を高めているのは何でしょうか。

VMware離脱が生んだ移行の波

BroadcomによるVMware買収後、ユーザーの48%がライセンスコストの倍増を経験したと報告されています。この価格改定は、従来の更新サイクルを一変させました。Geico(米国の大手保険会社)はOpenStackへの大規模な本番移行を表明し、OpenInfra Foundationには問い合わせが急増しているといいます。

CFOは予算の予見可能性を重視し、CIOはベンダー集中リスクの低減を求めています。この二つの経営判断が合流することで、通常3〜5年かかるインフラ刷新が短縮される傾向にあります。VMwareの浸透率が高い北米と欧州が移行の先頭に立ち、CARGへの影響度は+5.1%と推定されています。

ただし、移行先としてOpenStackを選ぶことと、安定的に運用できることは別の問題です。VMwareが提供していた統合的なサポート体制を、オープンソースのエコシステムでどう代替するのか。この問いが、次の章で扱うサービス構造の議論につながります。

マネージドサービスが埋める「実行力の溝」

OpenStackサービス市場において、マネージドサービスは2025年時点で売上の42.85%を占め、CAGR 33.6%と全サービス類型のなかで最も高い成長率を記録する見込みです。Rackspaceは累計10億時間を超えるOpenStackサーバー運用実績を持ち、その運用知見をSLAとして提供する形態が浸透しつつあります。

この市場構造が示しているのは、OpenStack自体の技術的成熟とは別に、「運用できる組織」と「運用できない組織」の間に大きな断層が存在するという事実です。Canonicalが提供するインストラクター主導の基礎研修は15名あたり2万3,500ドルで、中堅企業にとっては参入障壁となり得ます。Nova、Neutron、Cinderに精通したアーキテクトの供給は限られ、新興国市場ではこの人材不足が一層深刻な状況です。

マネージドサービスの台頭は、この人材制約への市場の回答とも位置づけられます。1ホストあたり日額15ドル、あるいは年額最大35万ドルという価格帯は、中小企業にもOpenStackへの参入経路を開いています。問題は、外部委託による運用が長期的な技術的自律性と両立するかどうかにあります。

業種別に異なる採用の論理

2025年の業種別シェアでは通信が27.55%で首位に立ち、CAGR 32.55%で2031年までの成長が見込まれています。通信事業者がOpenStackを選ぶ理由は明確で、パケットコア、IMS、RANの仮想化を統合的に管理し、5Gの高密度エッジ展開に対応する必要があるためです。

一方、金融サービスの採用動機は異なります。データ主権法への対応とパブリッククラウドのエグレス費用の抑制が主要な推進力となっています。政府機関はドイツのOpen Telekom Cloudに代表されるソブリンクラウドの枠組みでOpenStackを活用し、欧州のセキュリティ基準に適合したインフラを構築しています。

小売・EC事業者は季節的な需要変動への弾力性を求め、学術機関はコミュニティガバナンスとコスト効率を評価して研究クラスターに採用する傾向があります。このように業種ごとに採用の論理が異なるという事実は、「OpenStack市場」を単一の市場として語ることの限界を示しています。各業種の固有の制約条件が、導入の形態とサービス選定を規定しています。

地理的な非対称性----北米の成熟とアジア太平洋の加速

地域別では北米が2025年に34.10%の売上シェアを確保し、依然として最大市場の座にあります。Walmartが100万コア超のOpenStack環境を運用している事実は、ハイパースケールのプライベートクラウドが実用段階にあることを裏づけています。北米では人材プールの厚みと既存のVMware資産からの移行需要が、市場を支える二つの柱です。

これに対し、アジア太平洋地域はCAGR 32.4%で最速の成長が見込まれています。中国はOpenStackへのコード貢献で世界第2位に位置し、Baidu、Tencent、China Mobileが数万ノード規模のクラスターを本番運用しています。国家レベルのデジタル主権政策と5Gネットワーク整備がオープンインフラへの支出を加速させ、日本とインドも通信網の更新と企業のデジタル化を通じて成長に寄与しています。

欧州ではNIS2やGaia-Xに代表される規制がデータ所在地の確保を義務づけ、銀行や公的機関がOpenStackを選定する根拠となっています。この三極構造において、各地域の成長ドライバーは重なりつつも優先順位が異なるため、グローバル展開するベンダーには地域ごとの戦略最適化が求められています。

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競争環境と再編の力学

OpenStackサービス市場は中程度の集中度にあり、上位5社が推定60%の売上を占めています。Red HatはOpenShift統合を通じてIBMのソフトウェア収益を強化し、MirantisはKubernetesネイティブなOpenStack運用に特化しています。Canonicalはホスト単位の課金モデルで軽量運用を打ち出し、Rackspaceはフルサービス型のマネージドプロバイダーとして地位を固めています。

M&Aの動きも市場構造を変えつつあります。IBMによるHashiCorpの64億ドル買収は、マルチクラウドのインフラオーケストレーションへの投資意欲を表しており、OpenStackとTerraformパイプラインの連携強化が想定されます。エッジオーケストレーションやオブザーバビリティのスタートアップを対象とした小規模買収も続いています。

パートナーシップの構図も競争力を大きく規定しています。Red Hatはノキアと5G通信向けの協業を進め、CanonicalはAMDとAIアクセラレーション分野で提携しています。ニッチ領域の専門性で差別化を図る余地は残されているものの、マネージドサービスを中心にスケールメリットが効く市場構造が強まりつつあります。

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今後の展望

OpenStackサービス市場の今後2〜3年の方向性を決める分岐点は、VMwareからの移行が一過性の需要で終わるか、構造的なプラットフォームシフトに発展するかにあります。もしBroadcomがライセンス体系を柔軟化すれば移行圧力は弱まる可能性がありますが、2026年前半の段階でその兆候は見られず、移行の波は2027年にかけて続くと想定されます。

2027年以降は、AI・エッジコンピューティングとの統合が成長の質を決定づけるでしょう。OpenInfra Foundationとlinux Foundationの統合(2025年3月発表)により、ガバナンスの効率化が進めば、AIワークロード向けの機能強化が加速する条件が整います。逆に、KubernetesやサーバーレスがIaaS層の存在感を希薄化させるシナリオでは、OpenStackの成長率は市場予測を下回る可能性も否定できません。

この環境下で優位に立つのは、マネージドサービスの運用知見とマルチクラウド統合の技術力を兼ね備え、業種固有の規制要件に対応できる組織です。日本企業にとっては、通信事業者のNFV基盤更新や金融機関のソブリンクラウド検討が具体的な参入機会となり得るでしょう。

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