ビルディング・オートメーションを変革する5つの戦略テーマ
調査会社ABI Researchは2025年10月17日、建物の制御や自動化の分野で進む大きな変化をまとめ、「ビルディング・オートメーションを変革する5つの戦略テーマ」を発表しました。
Top 5 Strategic Imperatives Driving Transformation in Building Controls and Automation
背景には、世界的なエネルギー価格の上昇や、脱炭素社会を求める政策、そして企業や投資家によるESG経営への関心の高まりがあります。今、建物は単に電力を消費する場所ではなく、「電力を生み、貯め、使い方を最適化する存在」へと進化しています。
再生可能エネルギーの導入、AIやデジタルツインの活用、そして新しいルールづくりが進む中で、建築業界はまさに「エネルギー産業」としての顔を持ち始めました。
今回は、ABI Researchが示した5つのトレンドを通じて、スマートビルが社会とビジネスをどう変えていくのかを見ていきます。
ネットゼロ化で建物が発電所に変わる
最初のトレンドは「脱炭素化の加速」です。
建物のCO₂排出を減らすことは、今や世界共通の課題です。太陽光パネルや蓄電池を建物に組み込み、再生可能エネルギーで電力をまかなう「ネットゼロビル」の動きが広がっています。
これにより、企業は電力コストを20〜30%削減できるほか、余った電力を販売して新たな収益を生むことも可能です。建物が電力市場の一員として自立する時代が始まっています。
シーメンスやシュナイダーエレクトリック、ジョンソンコントロールズなどは、再エネ発電とAI制御を一体化したスマートビル管理システムを展開しています。もはや脱炭素は「義務」ではなく、「稼げる仕組み」へと変わりつつあります。
デジタルツインで運用を"見える化"し最適化
次に注目されるのが「デジタルツイン」です。
これは建物の内部構造や設備、エネルギーの流れを、仮想空間にリアルタイムで再現する技術です。仮想上で運転をシミュレーションすることで、実際のエネルギー消費を最大30%削減できると言われています。
また、設備の更新や修繕サイクルを40〜50%短縮できることも大きな利点です。問題が起きる前に故障を予測できるため、メンテナンスの効率も向上します。
シーメンスやジョンソンコントロールズは、AIと連携したデジタルツインで、建物の「仮想運転」を可能にしています。これにより、建物はより安全で効率的、そして環境にやさしい運用へと進化しています。
エネルギー企業との連携が新たな収益を生む
3つ目のトレンドは「再エネ事業者との協業」です。
ビルの自動化企業とエネルギー会社が連携することで、建物は電力の需要と供給をリアルタイムで調整できるようになりました。これにより、ピーク時の電力料金を最大30%削減できるほか、電力を効率的に蓄え、使うタイミングを最適化できます。
さらに、「エネルギー・アズ・ア・サービス(EaaS)」と呼ばれる新しいビジネスも登場。企業は電力を"購入"するだけでなく、"運用サービス"として契約する形へと変化しています。
シュナイダーエレクトリックは電力会社との共同運用モデルを構築し、ジョンソンコントロールズも需要応答システムを商用化。こうした異業種連携が、エネルギービジネスの新たな収益源を生み出しています。
マイクログリッドと電力取引がもたらす"地産地消エネルギー"
次の潮流は「分散型エネルギーの拡大」です。
地域やビル単位で独自の小規模グリッド(マイクログリッド)を構築し、余った電力を建物同士で売買する"ピア・ツー・ピア(P2P)取引"が始まっています。
AIによる需要予測と自動制御を組み合わせることで、電力の流れをリアルタイムで最適化。結果として、電力の地産地消が進み、災害時のレジリエンス(復元力)も高まります。
エンフェーズ・エナジーは家庭やオフィスを対象にしたマイクログリッドを展開し、シーメンスはAIとIoTを活用して建物間の電力取引を実現。これまで電力会社が担ってきた供給構造が、地域の中で分散化する流れが加速しています。
AIの透明性が信頼の条件になる
最後のトレンドは「AIの倫理と透明性」です。
ビルの自動制御にAIを活用する場面が増える一方で、その判断の仕組みを説明できるかどうかが重要になっています。欧州を中心に、AIに公平性・説明責任・データの扱い方を求める規制が進んでいます。
シーメンスやハネウェル、ジョンソンコントロールズなどは、AIの仕組みを開示し、偏りのない制御が行われているかをチェックする「AI透明性フレームワーク」を導入。こうした取り組みは、規制対応にとどまらず、顧客や社会からの信頼を得るうえでも欠かせないものとなっています。
AIの透明性は、これからのスマートビル市場で競争力を左右する"新しい品質基準"になりつつあります。
今後の展望
建物とエネルギー、AIが一体化することで、都市の姿は大きく変わろうとしています。今後は、AIが建物全体を制御し、発電・蓄電・消費を自律的に最適化する「自律型エネルギー都市」が現実になります。
ただし、新しい技術が広がるほど、AIの責任やデータ管理、災害時の安全性といった課題も浮かび上がります。企業には、技術力と同じくらい「信頼性のあるシステム」を築く姿勢が求められます。
スマートビルは、単なる建築物ではなく、地域や社会を支える「エネルギーのハブ」へ。持続可能な未来をつくる主役として、その存在感を高めていくでしょう。
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