世界のAI投資、2025年に1.5兆ドルへ ― ITインフラ需要が牽引
米調査会社ガートナーは2025年9月17日、世界のAI(人工知能)関連支出が2025年に1兆5,000億ドル(約225兆円)規模に達すると発表しました。
Gartner Says Worldwide AI Spending Will Total $1.5 Trillion in 2025
生成AIの急速な普及と、それを支えるデータセンターや半導体などインフラ投資が拡大しています。米国の大手クラウド事業者に加え、中国企業や新興のAIクラウド提供者も参入し、競争環境が広がっています。2026年には2兆ドルを超える見通しであり、AIがスマートフォンやPCなど日常的な製品にまで組み込まれることで市場が一段と拡大することが予測されています。
今回は、AI投資の現状と拡大の背景、分野別の市場動向、競争構造の変化、そして今後の展望について整理したいと思います。
インフラ投資がけん引するAI支出の拡大
今回のガートナーの予測で注目されるのは、AI市場の成長を押し上げている主役が「サービスやソフトウェア」だけではなく、「インフラ投資」である点です。生成AIを動かすには大規模な計算資源が必要であり、その中核を担うのがGPUサーバーやAI処理半導体です。2025年にはAI最適化サーバーへの投資が2,675億ドルに達し、AI半導体市場も2,091億ドルと予測されています。さらに、AI最適化IaaS(クラウド基盤)は前年比2倍以上の伸びを示しており、データセンター拡張がAI需要の波を支えています。
こうした動きは、生成AIを提供するプラットフォーム企業が、自社のサービス拡大と同時に基盤インフラを積極的に増強していることに由来します。とりわけ米国の大手クラウド事業者は巨額投資を続けており、同時に中国のアリババやテンセント、新興のAI特化クラウド企業も競争に参入し、市場は多極化の様相を呈しています。
ソフトウェアとサービス分野の急伸
一方で、AIアプリケーションソフトウェアやサービス分野の伸びも顕著です。AIサービスは2025年に2,825億ドル、AIアプリケーションソフトウェアは1,720億ドル規模に達すると見込まれています。アプリケーションソフトは2024年比で倍増以上となり、企業の業務システムや顧客対応におけるAI導入が加速していることを示しています。
背景には、生成AIがもたらす自動化や効率化の価値が明確になりつつあることがあります。例えば、需要予測や顧客対応、文書作成などの分野でAIが実用化段階に入りつつあり、企業はコスト削減や迅速な意思決定を実現する手段として導入を進めています。また、AIインフラソフトウェアも急拡大しており、2025年には前年比2倍以上の成長を遂げる見通しです。
消費者製品への浸透が加速
2026年以降に市場拡大を後押しするのが、AI搭載の消費者向け製品です。ガートナーはAI PC市場が2025年に9,043億ドル、生成AIスマートフォン市場が2,982億ドルに達すると予測しています。従来のクラウド依存型のAI利用から、端末内で処理を完結させる「オンデバイスAI」へのシフトを示しています。
特にスマートフォンは、カメラや音声アシスタントに加え、リアルタイム翻訳や生成AIによるコンテンツ作成など、多様な機能を統合する方向に進んでいます。PCについても、生成AIを活用した生産性向上ツールの標準搭載が進み、法人需要を中心に普及が加速するとみられます。こうした消費者製品市場の拡大は、AIが「特別な技術」から「日常の基盤」へと転換する段階に入ったことを示しています。
投資環境と競争構造の変化
ガートナーの分析によると、AI投資の拡大は米国の大手クラウド事業者だけではなく、中国や新興国のプレーヤー、さらにはベンチャーキャピタルの資金供給によっても支えられています。生成AIを含む新たなサービス領域には多額の投資が流入しており、ユニコーン企業の誕生も相次いでいます。
一方で、AI開発に必要な半導体の供給は依然として課題です。GPUや専用チップの不足はコスト上昇を招き、データセンター運営における電力消費の増大も深刻なテーマとなっています。こうした制約の中で、各国政府がインフラ整備やエネルギー効率向上に向けた政策支援を強化しており、国際的な競争は「技術力」だけでなく「供給力」「持続可能性」へと広がっています。