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ワット・ビット連携とデータセンター立地の「ウェルカムゾーンマップ」

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生成AIの普及でデータセンターの需要と電力消費が急増し、電力供給との両立が喫緊の課題となっています。総務省と経済産業省はこの課題に対応す流ため、2025年3月に官民連携の新たな枠組み「ワット・ビット連携官民懇談会」を立ち上げ、電力(ワット)と通信(ビット)のインフラ整備を効果的に連携させる方針を打ち出しました。

海外ではすでに次世代AIに向けて大規模データセンターと電力網の一体整備が始まっており、日本が成長戦略と脱炭素の両面で後れを取らないためにも迅速な対応が求められています。今回は、2025年5月に開催されたワット・ビット連携官民懇談会WGの第2回事務局説明資料をもとに、データセンター政策の背景と展望、オールフォトニクスネットワーク(APN)といった次世代ネットワークなどについて取り上げたいと思います。

ワット・ビット連携推進の背景

生成AIの普及でデータセンター需要と電力消費が爆発的に増大すると予測される中、経済成長(ビット)と脱炭素(ワット)を両立するインフラ整備が不可欠となっています。

政府は2025年2月、ワット・ビット連携の方針を6月までに具体化するよう指示しており、現政権の重要政策の一つに位置付けています。こうした背景のもと官民懇談会が立ち上げられ、電力・通信・データセンター業界が協調してデータセンター基盤の迅速かつ持続可能な整備を目指しています。

その目的は、AIを活用した経済成長と脱炭素を同時に実現すべく、官民の連携によりデータセンター整備を加速させることです。具体的には、電力・通信・データセンター事業者の投資見通しを高めるため、新たに構築するデータセンター集積地の選定要件などを議論を深めていく方針です。

データセンター立地とインフラ整備戦略(電力・通信)

ワット・ビット連携の具体策として、政府はデータセンター立地と電力・通信インフラ整備に関する戦略を打ち出しています。短期的には、既存の送電網に余裕のある適地にデータセンターを建設し、電力系統の空き容量を遊休のまま押さえる「空押さえ」を防ぐ規律を導入することで、急増する需要に対応します。並行して、APN活用の実証にも着手し、データセンター運用における新技術のユースケース蓄積・共有を進める方針です。

中長期的には、電力・通信の効率供給と運用効率のためデータセンターを一定規模で一箇所に集約する「集積地」に取り組んでいく方針を掲げています。一箇所にまとめれば設備更新や計算資源の効率化が図りやすく、電力網や光通信網も計画的に整備できます。政府は今後、集積地の候補を選定し、そこで電力網と通信網を先行整備することで民間の大規模データセンター投資を促す考えです。

集積推進と並行し、既存インフラを最大限活用するため、分散配置を可能にするデータセンター運用技術の開発や規制対応も進めるとしています。

APNの実装でデータセンター適地拡大

ワット・ビット連携において重要な位置づけの一つになるのがオールフォトニクスネットワーク(APN)です。APNは通信網を全光化することで大容量・低遅延・低消費電力の通信を実現し、遠隔地の複数データセンターを高速で直結できます。APNによって都市部から離れた地域でも高品質なネットワーク接続が得られるため、電力に恵まれた地方へのデータセンター分散配置を促しやすくなる点が大きな利点です。

政府もAPNの研究開発と導入促進に力をいれており、短期的には実現性の高い技術からデータセンター運用に活用を始める方針です。将来的には、各地域の中小規模データセンター間で電力需給状況に応じて計算処理の負荷を動的に融通し合う高度なワークロードシフトも視野に入ります。技術開発・実証には時間とコストを要するため、APNの本格展開は2030年前後と見込まれています。

出典:ワット・ビット連携官民懇談会(第2回) 2025.5

自治体・地方創生と集積地選定の関連性

データセンター集積地の候補選定に際しては、自治体の役割も鍵を握っています。政府はデータセンター誘致が地域経済にもたらす効果(「地方創生2.0」)に期待しており、自治体では自地域が集積地に選ばれることで新産業や雇用創出につながると見込んでいます。実際、地方でのデータセンター立地は、先進的なAIサービスの提供基盤となり、デジタル人材育成や関連産業の集積をもたらすなど、地域振興の核になり得るとされています。

一方で、集積地の選定にはまず電力インフラ整備状況を検討し、その上で通信ネットワークの強靱性、地盤の安定性、十分な広さの用地、交通アクセスといった要件を総合的に満たす必要があります。

また、既存の都市圏へのデータセンター集中によるリスク分散のため、新たな集積地は従来の集積地域とは異なる場所に分散させる方針です。こうした条件をクリアしつつ地域と共生していくには、地元自治体の積極的な関与が不可欠であり、受け入れ環境の整備や住民理解の醸成など多方面での連携が求められます。

通信・データセンター事業者への影響と戦略

ワット・ビット連携の推進は通信事業者やデータセンター事業者の戦略にも大きな影響を与えます。官民懇談会には通信大手やデータセンター業界、電力会社の幹部が参加しており、各社は自社のインフラ投資計画に本連携の動向を織り込んでいくとみられます。通信業界にとってはAPNといったネットワーク高度化や、国際通信拠点として集積地を活用する戦略が重要になってきます。

データセンター事業者にとっても、電力インフラが強化された地域への進出は電力コスト削減や脱炭素の面で魅力的な選択肢の一つになります。集積地で電力・通信インフラに先行投資すれば、民間にとって投資の予見性が高まり計画を立てやすくなります。

一方で、異業種である電力・通信・データセンター各社が緊密に協調するには調整コストや利益配分の課題があり、地方の集積地に大規模投資しても想定通り需要を誘致できるか不透明といったリスクも指摘されます。こうした課題に対し、政府は規制緩和や資金支援など政策面での後押しを検討しており、官民一体で持続可能な戦略を練ることが求められています。

今後の展望

今後、官民懇談会は初夏までに政策指針を取りまとめ、データセンター集積地の具体的な要件や支援策を示す見通しです。政府は成果を踏まえ、早ければ年内にも候補地域の選定インフラ整備計画策定に着手するとみられます。ロードマップ上は、まず「ウェルカムゾーンマップ」を用いて足元の需要に対処しつつ、2030年前後にかけて集積地でのインフラ整備と運用体制を整え、その後2030年代後半には高度な分散処理ネットワークを実現する段階的計画となっています。

出典:ワット・ビット連携官民懇談会(第2回) 2025.5

ワット・ビット連携の推進によって、日本のデータセンターインフラは脱炭素とデジタル成長を両立する新時代のモデルケースとなるのか、官民の継続的な協調と大胆な戦略実行が鍵を握るかもしれません。

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