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「相談しても変わらない」──メンタル不調は個人の問題ではなく、組織の信頼の問題になっている

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【メンタル不調による休職・退職者実態調査】によると、心身の異変を感じても34.8%が「我慢して働き続けた」と回答。また、職場への相談に65.8%が抵抗感を持ち、そのうち約半数が「相談しても状況は変わらないと思った」と回答しています。

【メンタル不調による休職・退職者実態調査】心身の異変を感じても34.8%が「我慢して働き続けた」。職場への相談に65.8%が抵抗感、約半数が「相談しても変わらない」

この結果を見て、改めて強く感じたのは、メンタルヘルスの問題は「個人のコンディション管理」だけでは語れないということです。

もちろん、セルフケアは重要です。睡眠、運動、休息、相談先の確保も大切です。しかし、心身に異変を感じても3人に1人以上が我慢して働き続け、職場への相談に約3分の2が抵抗感を持つという状況は、個人の努力だけで解決できるものではありません。

むしろ本質的な問いは、「なぜ相談できないのか」「なぜ相談しても変わらないと思われているのか」だと思います。

世界保健機関(WHO)も、職場のメンタルヘルスについて、単に個人への支援を提供するだけでなく、働き方や職場環境そのものに働きかける必要があると指摘しています。WHOのガイドラインでは、組織的介入、管理職トレーニング、従業員トレーニング、復職支援などが重要な施策として整理されています。

参考:
WHO Guidelines on Mental Health at Work

また、WHOとILOの共同研究では、長時間労働が健康に与える影響も明確に示されています。2016年には、長時間労働に関連して脳卒中や虚血性心疾患による死亡が74.5万人に上ったと推計されています。

参考:
WHO・ILO共同研究:長時間労働と健康影響

これは、メンタルヘルスや健康問題が、単なる福利厚生ではなく、経営リスクであることを示していると思います。

さらに、米国心理学会(APA)のWork in America Survey 2024では、従業員の57%が「メンタルヘルス上の問題を雇用主に伝えると職場で不利益を受けるのではないか」と懸念していると報告されています。

参考:
APA Work in America Survey 2024

これは日本だけの問題ではありません。多くの国で、メンタルヘルスについて相談すること自体が、評価やキャリアに影響するのではないかという不安と結びついています。

つまり、従業員が声を上げない理由は、「相談窓口がないから」だけではない。相談した結果、本当に守られるのか。相談した結果、現場は変わるのか。相談したことが不利に扱われないのか。そこへの信頼がなければ、人は声を上げられません。

人的資本経営が広がる中で、多くの企業がエンゲージメントサーベイやパルスサーベイ、1on1、相談窓口を導入しています。しかし、今回の調査から見えてくるのは、「聞く仕組み」だけでは不十分だということです。

本当に重要なのは、「変える仕組み」です。

従業員が本当に求めているのは、制度の数ではありません。「声を上げたら、何かが変わる」という実感です。

どれだけサーベイを実施しても、どれだけ相談窓口を整備しても、現場の業務量、マネジメント、評価、配置、コミュニケーションが変わらなければ、信頼は生まれません。むしろ、「また聞かれただけで終わった」という不信感につながる可能性すらあります。

AI時代には、この論点はさらに重要になると思います。

生成AIによって生産性向上が期待される一方で、現場には新しい不安も生まれています。仕事がどう変わるのか。自分のスキルは通用するのか。AIを使いこなせない人は取り残されるのか。こうした不安は、メンタルヘルスやエンゲージメントとも密接に関係します。

AI導入によって効率化された時間が、従業員の余白や学習に使われるのか。それとも、さらに多くの仕事で埋められるのか。ここで組織の姿勢が問われます。

近年、人的資本開示では、エンゲージメント、ウェルビーイング、離職率、プレゼンティーズム、心理的安全性といった指標への関心が高まっています。しかし、これらは単に開示すればよいものではありません。

本質は、従業員が安心して声を上げられ、その声によって組織が実際に変わることです。

個人的には、今回の調査で最も重く受け止めるべき数字は、休職率や退職率そのものではなく、「相談しても変わらないと思った」という回答だと思います。

これは、制度の不足ではなく、信頼の不足を示している可能性があります。

人的資本経営とは、人材に投資することだけではありません。人が安心して働き、学び、挑戦し、必要な時に助けを求められる組織を作ること。その積み重ねが、結果として企業の持続的な競争力につながるのだと思います。

メンタルヘルスは福利厚生ではなく、経営課題です。

そして、これからの組織に問われるのは、「相談窓口があるか」ではなく、「相談したら本当に変わる組織なのか」なのかもしれ

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