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「データガバナンス・ガイドライン」解説

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近年、Society5.0・DX(デジタルトランスフォーメーション)の文脈で、データが新たな経営資源として注目されています。IoTなどのセンサー技術から収集される膨大なデータは、企業が新たな価値を生み出す原動力であり、その最大活用は企業価値の向上にもつながります。データは企業の競争力の源泉でもあり、こうした背景から、多くの企業がデータ利活用を推進するなか、データガバナンスの重要性が一層増しています。

今回は、デジタル庁が2025年5月1日に発表した「データガバナンス・ガイドライン(案)」をもとに、データガバナンスを推進する背景や概要、課題や今後の展望などについて、取り上げたいと思います。

経営資源としてのデータと企業価値

DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進するうえで、自社データを最大限に活用し持続的な企業価値創出につなげる視点が極めて重要とされています。デジタル庁もガイドラインで、従来の人・モノ・金に加えてデータを新たな経営資源と捉え、トップダウンでデータガバナンスを推進すべきと位置付けています。

データガバナンスとは、企業や組織がデータの管理・活用を適切に行うための仕組みやルールを整備する取り組みです。企業がその保有するデータを最大限に活用することで、企業の持続的な企業価値向上につなげていくことが期待されています。

今回のガイドラインでは、人・モノ・金に加えデータを重要な経営資源として捉え、ステークホルダーとの相互信頼性の下で相互運用性を確保しながら、データの共有・連携・利活用を通して企業価値を高めていくために、データガバナンスの4つの柱(①越境データの現実に即した業務プロセス、②データセキュリティ、③データマチュリティ、④AIなどの先端技術の利活用に関する行動指針)を位置づけています。

■データガバナンスの概要

出典:デジタル庁 データガバナンス・ガイドライン(案) 2025.5

越境データと法令遵守に関する業務プロセス

グローバル化の進展により、サプライチェーンやクラウドなどを通じて国境を越えたデータ連携が増加しています。この場合、共有先国・地域の法令遵守や国際ルールへの適合性の確保が不可欠です。

各国で個人情報保護やデータ輸出規制が異なるため、越境データ移転のリスクを洗い出し、適切な同意取得や暗号化・匿名化技術、データ利用契約の整備など実践的な対策プロセスを構築する必要があります。

例えば、データ共有時に他国の法令に抵触すると多額の賠償や企業評判の毀損リスクが生じます。ガイドラインでは、越境データの現実に即した業務プロセス策定を通じて、法令対応や権利保護を組織的に担保することが求められています。

出典:デジタル庁 データガバナンス・ガイドライン(案) 2025.5

「データセキュリティ」とリスク管理

データ活用には、情報漏洩や不正アクセスへの備えが不可欠です。ガイドラインでは、セキュリティ対策を「情報システム」単位ではなく「データ」単位で設計し、技術的対策だけでなくルールや契約、組織体制も含む包括的なデータセキュリティの実施を強調しています。

具体的には、データの機密性や重要度に応じたアクセス制御・暗号化・ログ管理と、運用ルール・監査体制、人材研修の組み合わせが有効です。こうした対策は顧客や取引先からの信頼を担保するうえでも重要です。万一インシデントが発生した際は、影響を最小化するため経営層が迅速に事態を把握・説明し、再発防止に向けた改善策を策定することが求められます。

「データマチュリティ」と持続可能な成長

本ガイドラインは「データマチュリティ」を、データを持続的かつ組織的に最大限に活用する企業の総合力と定義しています。データマチュリティが高い企業は、データ利活用による価値最大化とリスク最小化を継続的に実行し、組織全体のパフォーマンスを引き上げます。

これによりイノベーションが生み出され、新たな事業機会やビジネスモデル創出につながります。経営者は、DX経営と企業価値向上を狙う「デジタルガバナンス・コード」などとも整合させつつ、データ利活用の成熟度向上を中期計画に位置付けることが重要です。

AIなど先端技術との連動と倫理的活用

生成AIをはじめAIやビッグデータ解析、IoTといった先端技術は、データを用いた価値創造に大きな可能性をもたらします。一方で、AI活用にはバイアス(偏り)や個人情報保護、モデルの説明責任といった倫理的課題も伴います。ガイドラインでも、AI利用のリスク認識と行動指針の策定、利用者教育の必要性が示されています。具体的には、AI導入前後にデータ品質や偏りの検証を行い、社員に対してデータリテラシーとAI倫理の教育を徹底することが求められます。

先端技術の変化は速いため、AIガバナンスやプライバシー保護のルールは国際的枠組みや国内規制の動向を踏まえて随時見直す必要があります。

経営者の責任とガバナンス体制の構築

データガバナンスは経営トップの責任であり、強力なリーダーシップの下で推進すべき施策です。ガイドラインは、「経営ビジョンとDX戦略の連動」「経営者による説明責任」「データを最大限利活用する体制構築」「企業文化への定着と人材育成」を経営者が意識すべき視点として挙げています。

具体的には、データ活用体制の整備が重要であり、企業経営を支える責任者としてCDO(Chief Data Officer)を設置し、他のCxOや事業部門と連携可能な組織を構築することが経営者の重要責務とされています。また、データ活用の目的や成果について株主・投資家を含むステークホルダーへ説明し、企業のデータマチュリティを高めていることを透明に公開することも経営責任の一部と考えられています。

企業文化への定着と人材育成

データを継続的に活用し企業価値を高めるためには、企業文化としてデータ活用が根付いている必要があります。ガイドラインでは、データが持つ価値とリスクを現場を含め全社的に共有し、最初から目指すべき文化を経営方針として明示することが重要と指摘しています。

これは単にシステム整備するだけではなく、社員一人ひとりがデータ活用の意義を理解し、自律的に行動できる風土の醸成を意味します。また、分析・AIモデル運用に必要なスキル向上だけでなく、プロンプトエンジニアリングなどデータに専門性の高いスキルを持つ人材の採用・育成も不可欠です。

企業内にCDOやデータサイエンティスト、プライバシー保護人材を配置し、教育投資を行うことで、データガバナンスが企業文化として継続的に発展する基盤が整うことになります。

今後の展望

海外な市場では、欧州の「データスペース」構想(Gaia-X、Catena-Xなど)に代表されるように、越境データ連携の潮流が加速しています。データガバナンスはグローバル競争での差異化要因となり得る一方、各国の規制や標準化の議論も日々変化しており、日本企業には迅速な対応が求められています。

国内企業は今後、データガバナンスを経営戦略に位置付け、法令対応、技術導入、組織・人材の整備を一体的に進める必要があります。経営トップがデータ活用の旗振り役となり、本データガバナンス・ガイドラインを経営戦略の枠組みに盛り込み、国際的なデータ流通ルールへの対応を強化することで、競争優位性を一層高めることが期待されるところです。

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