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関税リスクとIT投資

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IDCは2025年6月17日、「The Impact of US Tariffs on Asia/Pacific Enterprise Software in 2025」を発表しました。

米国による追加関税がITハードウェア価格を押し上げる恐れが広がるなか、アジア太平洋地域の企業はコスト管理とレジリエンス強化を両立させる戦略に舵を切っています。今回はIDCが公表した調査対象はアジア太平洋および日本(APJ)地域を対象としたアンケート結果を読み解き、企業が取るべき対応策とベンダー側の戦略機会を取り上げたいと思います。

IDC: 43% of Asia/Pacific Enterprises Explore Low-Cost Tech Alternatives Amid US Tariff Pressures

低コスト代替を探るアジア企業

IDCの調査によると、回答企業の43%が「低コストの代替技術を模索している」と回答しています。PCやネットワーク機器など米国製ハードウェアに課される追加関税が発動すれば、単純に購入を見送るだけでは業務継続に支障が出かねません。そのため、企業はサプライヤーの裾野を広げ、東南アジアや中国本土以外の製造拠点を持つベンダーを比較検討し始めています。

調達部門とIT部門が協調し、品質やサポート体制を確かめたうえで段階的にリプレースする構えです。中でもサーバーやストレージの更新周期が近い企業ほど、コスト削減と同時に技術刷新を図る好機と捉え、ARM系プロセッサー採用機への切り替え検討が加速しているといいます。

関税回避で加速するクラウド移行

ハードウェア調達リスクを回避する手段として、41%の企業が「資本支出をクラウドに振り替える」と回答しました。オンプレミスでの設備投資を見合わせても、クラウドサービスなら課金体系がドル建てであっても即時の機能拡張が可能です。関税は物理機器にのみ適用されるため、IaaSやSaaSへ業務を載せ替えることで為替と税制の影響を相対的に緩和できます。

また、生成AIやデータ分析など処理負荷の変動が大きいワークロードはクラウドネイティブのほうが費用対効果を算出しやすく、経営陣への説明責任を果たしやすい点も評価されています。ただし、長期的なランニングコストの増大を警戒する声も少なくなく、クラウド移行計画には可視化と統制の強化も必要となります。

プロジェクトは延期か前倒しか

関税の影響が見極めにくい状況では、43%の企業が「一部ハードウェア購入を延期する」、38%が「予算確保のためプロジェクト自体を遅らせる」と回答しました。中でも着手前のデータセンター拡張計画やネットワーク更改は投資回収期間が長く、価格変動がシナリオ分析に大きな揺らぎを与えます。その一方で35%の企業は関税発動前に駆け込みでハードウェアを購入し、短期的なコスト上昇を回避しようとしています。

判断基準はキャッシュフローの潤沢さと設備更新の緊急度で分かれ、業種や企業規模によって対策が二極化している様子がうかがえます。先送り戦略を採る場合でも、ソフトウェアデファインドネットワークやハイブリッドクラウド構成など後付けで拡張しやすいアーキテクチャを選択しておくことがリスクヘッジにもつながるでしょう。

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出典:IDC 2025.6

ベンダーが示すべき価格と透明性

IDCは、関税リスクが顕在化する局面で「価格の予見性」こそがベンダー選定の決め手になると指摘します。調達先を見直す企業にとって、カタログ価格を据え置くだけでは説得力が弱く、為替ヘッジや長期保守サービスを含む総保有コスト(TCO)の透明性が重要です。

グローバル大手は関税分を転嫁せざるを得ない場面で、地域ベンダーは迅速なサポート網とローカルデータセンターを前面に出し、競争力を高める余地があります。

また、ディストリビューターやSIerは顧客の財務制約に合わせてサブスクリプションやリースを組み合わせるファイナンスモデルを提供し、プロジェクト遅延を最小化する支援が求められます。

チャンネル全体で「価値ある低コスト」の再定義が進むタイミングと言えるかもしれません。

今後の展望:関税時代を見据えたIT投資

米国関税が最終的にどの水準で落ち着くかは依然不透明ですが、APAC企業のデジタル投資は今後も進むことが予想されます。

短期的にはクラウド比率の上昇とローカルサプライヤーの台頭が顕著になり、ハードウェアベンダーの勢力図が塗り替わる可能性もあるでしょう。

中長期にはサプライチェーンの多元化が標準化し、企業は地政学リスクを前提にITプラットフォームを設計する時代に入ることが想定されます。

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