AIで変わる開発現場
生成AIの台頭は、ソフトウェア開発現場に新たな地殻変動をもたらそうとしています。
ガートナーの最新調査によると、開発責任者の77%が「AI機能の実装」を大きな課題と捉え、71%が「AIツールの活用」で手詰まり感を抱えています。経営層はAIによる差別化を急ぐ一方、技術選定や運用設計の複雑化が開発サイクルを圧迫しているのが実情です。
今回では、Gartnerが2025年5月22日に発表した調査結果を基に、AI統合の現実と打開策、多様化する人材像、スキルベース採用への潮流、そして今後の展望について整理します。
Gartner Survey Finds 77% of Engineering Leaders Identify AI Integration in Apps as a Major Challenge
AI統合の現実
今回の調査は2024年10月から12月にかけ、米国と英国のソフトウェアエンジニアリングおよびアプリ開発リーダー400人を対象に実施されました。
およそ8割がAI機能の追加を「障壁」と回答し、その要因として基盤モデルの性能差、推論コスト、既存システムとのデータ連携、データ保護規制への適合など多岐にわたる検討事項の増加を挙げています。設計初期に判断が遅れると、後工程での手戻りが加速度的に膨らみ、開発サイクルそのものが停滞します。また、71%が「AIツールの導入設計」にも苦慮しており、PoCの量産は進むものの本番環境への定着率が低い"パイロット停滞"が顕在化しています。
プラットフォーム選定が成否を分ける
ガートナーはAIアプリ開発プラットフォーム市場を52億ドル規模と推計し、新興企業からハイパースケーラーまでが機能拡充を競っています。しかし、複数ベンダーのLLMやAPIを寄せ集めるだけでは、スケーラビリティや再利用性、ガバナンスの一貫性を保つことは容易ではありません。
VPアナリストのジム・シャイプマイヤー氏は
統合度の高いプラットフォーム、または強固なエコシステムを備えたサービスを選ぶべき
と指摘しています。要件定義から検証、継続的デリバリー、監視・改善までを一貫管理できれば、モデルの切り替えや新機能追加も最小限のコード変更で実現でき、開発の俊敏性が高まります。
AIエージェントが変える人材像
生成AIエージェントはコードレビュー、テストケース生成、リファクタリング提案などで開発者を支援し、複雑な設計や創造的タスクへ集中できる環境を整えています。結果として、従来はコンピューターサイエンス専攻が必須だった領域に、デザインや心理学、アートなど多様なバックグラウンドを持つ人材が参入しやすくなっています。
主席アナリストのニティシュ・ティヤギ氏は
異分野の視点は創造的な問題解決を促し、ユーザー体験を豊かにする
と述べています。ガートナーは2028年までに、ソフトウェアチームの40%が非伝統的な教育経歴のメンバーで構成されると予測しており、多様性がイノベーションを後押しする構図が鮮明になっています。
スキルベース採用へのシフト
AIがコード生成やテスト自動化を担う範囲が広がっても、論理構築やアルゴリズム設計の基礎力を持つエンジニアは依然として必要です。企業は履歴書や学位より実践スキルを重視する「スキルベース採用」へ転換していく動きも出ているといいます。
オンラインのスキル評価プラットフォームで候補者が生成AIを駆使し課題を解決できるかを見極め、採用後もAIを活用した個別学習パスでスキルギャップを補完する動きが拡大しています。回答者の38%が「AIを用いた学習が最も効果的」と回答しており、人材開発でもAIの役割が高まっています。
組織文化とガバナンスの再設計
AI導入は技術面のみならず、組織文化やガバナンスの再設計を迫っています。
自律型エージェントが意思決定を補助する環境では、従来の階層型モデルが機能しづらく、権限委譲やデータ責任範囲の見直しが欠かせません。開発、UX、データサイエンスが連携する「混合チーム」が主流となれば、評価指標やKPIも再構築が必要となります。コラボレーション文化を醸成しつつ、モデルの透明性と説明性を確保する枠組みが、AI活用の成果の最大化につながる可能性があります。
今後の展望
2025年は生成AI統合の加速と同時に、推論コスト上昇やデータ主権規制の強化が進む局面でもあります。成功企業の共通点は、プラットフォーム選定を戦略レベルで行い、統合プロセスを最適化している点です。
今後はエンジニアリング組織が「開発」から「モデル運用ライフサイクル全体」へ責任範囲を広げ、AI資産の価値を継続的に引き出す体制が重要となるでしょう。さらにスキルベース採用とAI支援型学習が標準化することで、バックグラウンドに縛られない人材が流入し、開発文化自体が刷新されることも想定されます。
AIの台頭で自社の開発現場、人材をどう進化させていくかは、これからの自社の競争力を占う上でも重要となっていくでしょう。