爆発的に拡大するハイパースケールデータセンター
世界的に急増し続けるデータの流通量は、クラウドやAIをはじめとしたサービスの成長とともに、企業や社会全体に膨大なインフラ需要をもたらしています。スマートフォンやウェアラブル端末などの普及は、リアルタイムでの情報収集や解析を加速させ、膨大なデータの処理能力が求められています。
こうした背景の下、巨大IT企業が運営するハイパースケールデータセンターは、その規模や数が世界規模で拡大し続けています。特に生成AIの進歩による処理負荷の増大は、一段と大規模なデータセンター建設を後押ししています。
今回発表されたSynergy Research Groupの調査結果によると、2024年末時点でハイパースケールデータセンターの施設数は1,136カ所に達し、今後もさらなる増加が見込まれています。
今回はSynergy Researchの調査も踏まえ、ハイパースケールデータセンターの現状と展望について、取り上げたいと思います。
ハイパースケールデータセンターの成長背景
ハイパースケールデータセンターは、クラウドサービスやソーシャルメディア、オンライン検索、動画配信など、デジタルサービスを巨大規模で提供する事業者が運営する超大型の施設です。近年は5GやIoTなどの普及によって処理すべきデータ量が急増し、これまでのデータセンターをはるかに上回る規模の拡張が不可欠になっています。
Synergy Research Groupの調査によると、2024年末時点でハイパースケールデータセンターの総数は1,136カ所となり、過去5年で倍増したと報告されています。同時に、総処理容量(MW、クリティカルITロードでの測定)は4年未満で倍増しており、特に新設される施設の平均規模が大きくなっている点が特徴的です。生成AIなどの高度な技術が必要とする膨大な演算能力を確保するため、運営企業はさらなる拡大を推し進めています。
背景には、世界中のさまざまな企業や組織がデジタル変革を加速していることも関係しています。高性能なクラウドサービスを安定的に提供することは、企業の競争力維持のみならず社会機能を支えるうえでも重要です。このような市場の要請を受け、ハイパースケールデータセンターはこれからも世界各地で増加していく見通しです。
主要プレーヤーと地域別の勢力図
ハイパースケールデータセンターの運営では、Amazon・Microsoft・Googleの3社が突出した存在であり、世界全体の総容量の約59%を占めているとされています。彼らはいずれも自国である米国に大規模な拠点を持つだけでなく、他国にも複数のデータセンターを展開しています。また、Meta、Alibaba、Tencent、Apple、ByteDanceなどがこれに続く形で、各企業がデータセンター網を充実させてきています。
地域別に見ると、米国が世界の総容量の54%を占めている点が際立ちます。ヨーロッパと中国はそれぞれ残りの大部分を分かち合うかたちで、高い存在感を示しています。一方、急速に台頭しつつある新興市場もあり、将来的にはインドや東南アジア地域においても大規模な投資や拡張が予想されます。こうした動向は、データセンターがもはや先進国のみのインフラではなく、世界中の社会インフラとして重要性を増していることを示しています。
出典:Synergy Research Group 2025.3
ハイパースケールデータセンターの拠点は地理的にも分散していく流れにありますが、依然として米国の優位は揺るぎません。特に生成AIの研究開発拠点としてシリコンバレーをはじめとする米国のIT産業エコシステムは、今後も先導的な役割を果たしていくと考えられます。
生成AIがもたらすインフラ需要の増大
ハイパースケールデータセンターの拡大を後押ししている大きな要因のひとつとして、生成AIの進化があります。自然言語生成や画像生成、音声認識などの分野で高性能なAIモデルが次々と登場し、大量の演算資源が必要とされる状況です。こうしたAIモデルにはGPUや専用チップなどを大量に搭載する必要があり、そのための電力や冷却設備などのインフラ面でも大規模化が求められています。
大規模な機械学習モデルを開発する場合、学習データの保管やモデルの推論処理にも強大な処理能力が必要です。これらの需要に対応するために、新設されるハイパースケールデータセンターでは従来よりも格段に広いフロアスペースと高い電力容量が確保される傾向があります。Synergyが指摘するように、今後4年以内に再び総容量が倍増すると見込まれる理由の一端は、生成AI分野がインフラをさらに押し上げているためです。
生成AIは音声アシスタントや自動翻訳など、実用化が進むにつれさまざまな業界で利用が広がっています。企業が自社のサービスに生成AIを組み込む動きは加速しており、それを支える基盤として大規模データセンターの需要は増大の一途をたどっています。これは新しいビジネスチャンスを生む一方で、電力消費や環境負荷への対応などの課題を浮き彫りにしています。
環境負荷・サプライチェーン・地域格差などの課題も
ハイパースケールデータセンターの増加はデジタル化の原動力として歓迎される面がある一方で、いくつかの課題やリスクも指摘されています。
大規模データセンターは多量の電力と冷却設備が必要であり、地域によっては電力供給が不安定な場合もあります。再生可能エネルギーの活用や効率的な冷却技術が導入されているケースも増えているものの、環境負荷をどう低減させるかはグローバルな課題です。
大量のサーバーやネットワーク機器を調達する必要があり、半導体やIT部品の需給が逼迫すると計画が遅延し得るリスクがあります。また、地政学的な影響で輸出規制や関税問題が生じると、運営コストや建設スケジュールに大きく影響が及ぶ可能性があります。
米国に総容量の過半数が集中しているように、経済力のある国や地域にデータセンターが集中することで、インフラ環境の格差が広がる懸念があります。デジタルサービスは場所を選ばないように見えますが、実際にはインフラ拠点がある地域とそうでない地域で格差が生まれる場合も想定されます。
今後の展望
ハイパースケールデータセンターのさらなる拡張は、サービスの効率化と新技術の創出を支える基盤として欠かせない存在になりつつあります。生成AIの高度化によって、学習モデルの規模は一層大きくなり、データセンターの需要は拍車をかけて伸びるでしょう。そして、メタバースや量子コンピューティングなど、将来的に実用化が期待されるテクノロジーが普及する段階に入った場合には、演算処理を担うインフラへの負荷は格段に増すと考えられます。
こうした状況を踏まえると、Synergy Research Groupが予測する総容量が今後4年以内に再び倍増するという見通しは現実的なものとなるのかもしれません。日本企業もこれらグローバルトレンドを捉え、規模の経済(スケールメリット)で対抗するのは厳しいものの、戦略的にデータセンター運用やクラウド活用に取り組んでいくことが求められています。