急変する電力市場におけるシステムインテグレーターの役割
世界的に電力需要が増大し、再生可能エネルギーや水素などクリーン技術への投資が拡大するにつれ、電力市場はかつてないほどの変化を迎えています。
従来の化石燃料中心の発電は縮小に向かい、代わりに風力・太陽光といった不安定な供給源が伸びているため、電力事業者には安定供給と環境配慮を同時に成り立たせる難度の高い課題が顕在化しています。
また、AIをはじめとする先端技術による電力需要の高まりや、脱炭素に向けた規制強化の流れも見逃せません。こうした背景のもと、システムインテグレーターが重要なパートナーとして脚光を浴びています。
IDCは2025年3月13日、「IDC Reveals 2025 Leaders in Power Generation and Storage Professional Services」を公表しました。
今回はIDCの調査を参照しながら、電力市場におけるシステムインテグレーターの役割について取り上げたいと思います。
電力ビジネスを取り巻く世界的潮流
脱炭素化をめぐる動きは、発電を含むエネルギー業界全体に大きな変革をもたらしています。各国ではCO₂排出量を削減するための政策や優遇策が進められ、企業や投資家もクリーンエネルギーへと資金を振り向ける傾向が強まっています。その中でも風力や太陽光が急速に伸び、電力の形態は多様化しながら新旧のエネルギーソースが混在する状態になっています。
このように再生可能エネルギーへの移行が拡大すると、発電の不安定要素を緩和するための蓄電システムが重要で、電力を効率良く貯蔵し、需要ピークを乗り切る技術が求められています。
また、水素や原子力を組み合わせる動きも再び注目され、ベースロード電源としての安定性やCO₂排出削減の可能性を探る動きが広がっています。こうした多角的な取り組みによって、電力会社だけでは負担しきれないほど複雑な課題が山積している状況となっています。
ITシステムインテグレーターなどの主要プレイヤーの動向
世界の電力市場が転換期を迎えるなか、ITシステムインテグレーターやサービスプロバイダーの存在価値は高まっています。IDCによる「Worldwide Service Providers for Power Generation and Storage 2025 Vendor Assessment」では、アセンチュアとキャップジェミニがリーダーに位置づけられ、CGI、デロイト、EY、HCLTech、IBM、PwC、TCS、ウィプロなどがメジャープレイヤーとして評価されています。
これらの企業は発電事業者や電力会社に対し、IT基盤構築から運用サポート、データ分析やコンサルティングまでを幅広く提供しています。具体的には、風力や太陽光をはじめとした発電の設計段階で必要となるエンジニアリング支援や、スマートメーターなどを用いたデータ収集と解析、さらには電力トレーディングの高度化など、事業全体を通じて多面的なアプローチを可能にしています。
ITシステムインテグレーターがもたらすインパクト
電力の供給と蓄電を最適化するためには、多量のデータをリアルタイムで収集・分析し、意思決定に活かす仕組みが求められます。再生可能エネルギーは天候など外的要因に左右されやすいため、予測精度を高めるAIモデルやIoTセンサーが必須です。また、需要拡大に伴う設備投資や保守、環境・社会・ガバナンス(ESG)に関する要件にも同時に対応しなければなりません。
こうした課題を一挙に引き受ける存在として、システムインテグレーターやサービスプロバイダーが注目されています。企業が自前で構築するには時間もコストもかかる大規模システムを、豊富な知見と経験に基づいて導入できる点が最大の強みです。さらに、グローバルなプロジェクトで蓄積されたベストプラクティスを組み合わせることで、高度かつスケーラブルなソリューションを提案しやすいというメリットがあります。
競争力を生み出すオーケストレーション
IDCのレポートが示すサービスプロバイダーの評価軸を見ると、単なる技術導入の巧拙だけではなく、顧客企業の変革意欲を実現できる体制が重視されています。たとえば、風力や太陽光発電のプロジェクト開発から環境規制対応まで、事業全体を一貫してサポートする実績が重要視されています。
また、再生可能エネルギーの運用はもちろん、エネルギートレーディングやカーボンクレジットの活用に至るまで、ビジネス機会を最適化するオーケストレーションが期待されています。大手のシステムインテグレーターは各種プラットフォームを使いこなし、AIやアナリティクスを駆使して発電量や需要の変動を予測し、効率的にコストを回収できる仕組みを設計します。こうした総合的な戦略運用こそが、電力企業の競争力を左右するカギになるでしょう。
今後の展望
今後、電力市場はAIを用いた需給予測がさらに精緻化し、水素や蓄電池を複合的に活用するエネルギーミックスが常識となる可能性があります。AIの計算処理には大量の電力を要するため、データセンターをはじめとする業界からの需要は一段と高まり、発電と蓄電の高度連携が一層求められます。
システムインテグレーターやサービスプロバイダーは、電力会社だけでなく新興のクリーンテック企業や自治体など、多様なプレイヤーと連携しながら「オーケストレーター」としての役割の期待が高まっていくでしょう。