2030年代のAI社会を支えるデジタルインフラ
AIをはじめとしたデジタル技術の急速な進展に伴い、2030年代の社会はどうなっているでしょうか?
総務省は2024年8月30日、「AI社会を支える次世代情報通信基盤の実現に向けた戦略 - Beyond 5G推進戦略2.0 -」を公表しました。
AI技術の進化やデータ駆動型社会の実現に向けた取り組みが加速しています。AI社会を支えるためには、従来のインフラでは限界に近づきつつあり、次世代デジタルインフラに向けた取組が産官学で始まっています。
今回は、総務省が公表した「Beyond 5G推進戦略2.0」をもとに、Beyond 5G、オール光ネットワーク、非地上系ネットワーク(NTN)といった2030年代のAI社会を支えるデジタルインフラ像を取り上げていきたいと思います。
Beyond 5G推進戦略2.0の位置づけ
総務省が公表した「Beyond 5G推進戦略2.0」は、世界において日本がデジタル社会のリーダーシップを推進していくための重要な指針として位置づけられています。本戦略では、2030年代に向けて、次世代の情報通信基盤を整備し、AIを含むデジタル技術の社会実装と国際展開を目指しています。
Beyond 5Gのコアとなるのが、現在の5G技術を超える通信速度、低遅延、高信頼性を実現する「オール光ネットワーク」です。AIの進化と普及に伴う膨大なデータトラフィックに対応し、これまで以上に高度なリアルタイム通信を可能にするデジタルインフラとしての期待が高まっています。
例えば、医療、教育、製造業など、多くの産業分野でのAI活用が進む中で、Beyond 5Gは、各分野に特化したAIシステムが連携し、効率的に動作するためのデジタルインフラとなるでしょう。
2023年3月にNTT東西が提供を開始した「IOWN 1.0」は、オール光ネットワークの商用サービスとして、Beyond 5Gの基盤技術を実現する最初のステップとして位置づけられています。
IOWN 1.0は、通信の高速化と低遅延性を提供し、AIシステムが必要とする大量のデータを迅速に処理・伝送することができ、IOWNが段階的に進展していくことで、データの生成と活用が爆発的に増加する2030年代においても、通信インフラがボトルネックを避け、次世代のデジタルインフラとしての期待が高まっています。
オール光ネットワークと分散型データセンターの役割
総務省が推進するオール光ネットワークは、Beyond 5Gの中核を担う技術で、光ファイバー技術を基盤にし、従来の通信ネットワークに比べて圧倒的な通信速度と低遅延を実現を目指しています。
都市部に集中するデータセンターを再生可能エネルギーが利用可能な地方に分散させることにより、環境負荷を軽減しながらも持続可能なインフラを構築するといった可能性も期待されています。こういった取組が、通信インフラは単なる技術基盤にとどまらず、地域経済の活性化にも寄与するといったことも視野に入っています。
オール光ネットワークの導入は、企業や産業界におけるAI活用のハードルを大きく下げることを想定しています。例えば、製造業においては、リアルタイムでの品質管理や故障予知が可能となり、AIを活用した生産性の向上。また、医療分野においても、遠隔診断や手術支援システムの精度向上や、患者のQOL向上に大きく貢献するといっことが期待されています。
非地上系ネットワーク(NTN)と無線アクセスネットワーク(RAN)の展開
Beyond 5Gのもう一つの重要な取組が、非地上系ネットワーク(NTN)や無線アクセスネットワーク(RAN)です。都市部から遠く離れた地域や山間部、さらには海上でも高品質な通信環境を提供することを目指しています。
特に、NTNは衛星や高高度プラットフォーム(HAPS)を利用し、従来の地上インフラが整備されていない地域でも安定した通信サービスを提供していくことが想定されています。
HAPSは、これまでアクセスが困難だった地域にもサービスが提供可能となります。例えば、農業や漁業の現場でのAI活用が進み、生産性の向上や労働負荷の軽減が期待されます。また、災害時の緊急通信にも活用され、迅速な情報伝達と被災者支援といったことも可能になります。
さらに、RAN技術の高度化により、移動体通信のパフォーマンスも向上し、自動車やドローン、ロボットなどのモノが主要な通信端末となり、これらがリアルタイムで通信を行いながら協調動作することで、新たな産業やサービスが創出されることが期待されています。
2030年代のAI社会を支えるデジタルインフラ像
AI技術の進化は、社会に多大な恩恵をもたらす一方で、環境負荷の増大や偽・誤情報の拡散といったリスクも伴います。2030年代に向けて、デジタルインフラの進化は、これらのリスクに対応しつつ、持続可能な社会を実現するための重要な位置づけとなっています。
オール光ネットワークと再生可能エネルギーの組み合わせにより、通信インフラ自体の環境負荷を大幅に低減することが可能です。エネルギー消費の多いデータセンターを地方に分散させることで、地域ごとに適したエネルギー資源を活用することにもつながることが期待されています。
また、AI技術の普及に伴い、生成AIによる偽・誤情報のリスクが指摘されている中、これを抑制するためのセキュリティ対策も重要です。セキュアな通信環境の整備や、AI技術の透明性確保が求められています。
そして、分散化されたAIシステム同士の連携により、安全で信頼性の高いAI社会の実現。個別分野に特化したAIが、それぞれの領域で最適な判断を行いながら、他のAIと協力して全体として機能することで、社会全体の効率性と信頼性が向上され、社会課題の解決や新たな価値創造にも寄与していくことが期待されています。
2030年代のAI社会を見据えたデジタルインフラの整備は、日本が国際的な競争力を維持しつつ、持続可能な社会を実現するための重要な位置づけとなっています。
そして、Beyond 5G、オール光ネットワーク、非地上系ネットワーク(NTN)、無線アクセスネットワーク(RAN)といった技術は、単なる通信インフラにとどまらず、地域経済の活性化や新たな産業創出、そして安全・安心な社会の実現に向けたデジタルインフラとしての期待が高まっていくことを、引き続きウオッチしていきたいと思います。