オルタナティブ・ブログ > 『ビジネス2.0』の視点 >

ICT、クラウドコンピューティングをビジネスそして日本の力に!

経団連が示す「web3推進戦略」

»

経団連は2022年11月15日、「web3推進戦略- Society 5.0 for SDGs実現に向けて -」を公表しました.

日本が「web3鎖国」を脱し、各国の人材や企業に選ばれる「web3先進国」として地球規模課題の解決、ひいてはSociety 5.0 for SDGsの実現に貢献することを目指すための国家戦略をとして「Web3推進戦略」を提言しています。

web3先進国への変貌に向けたステップでは、

1. 目指すべきweb3先進国の姿

2025年中に、以下の要素を満たすweb3先進国として、わが国が各国をリードする。

① web3関連事業を行うための環境が、法制度を含め包括的に整備されている(「できる」=制度インフラの完備)
② web3に関するグローバルスタンダードを技術・制度の両面でリードし、各国の人材・企業から選ばれる(「選ばれる」=スタンダードの主導)
③ web3がSDGs=グローバルな課題解決に貢献する手段、考え方として活用される(「貢献する」=SDGs実現への貢献)

スクリーンショット 2022-11-26 083602.png

出典:日本経団連 web3推進戦略 2022.11.15

2. 具体的なステップ

具体的には、以下のステップを踏み、web3先進国へと変貌を遂げるとしhています。

スクリーンショット 2022-11-26 083739.png

出典:日本経団連 web3推進戦略 2022.11.15

以下がステップです。

ステップ0 「web3鎖国からの脱却」

web3関連事業の実施を妨げる各種法制度を一つずつ早急に見直すことで、スタートラインに立つ。トークンの発行や投資等に係る障壁を取り除いた結果、国内におけるweb3関連事業の遂行が現実的な選択肢となる。海外で事業経験を積んだ起業家の将来的な「Uターン」を見越して、わが国における環境整備を着実に進める。web3関連技術を育成するとともに、国内の技術者コミュニティを維持する。

ステップ1 「web3市場の活性化」

事業を行う素地が整ったことを受け、わが国で活動するweb3関連スタートアップが増加する。プラットフォームに依存しないID管理の実現等、国民生活にメリットをもたらすサービスの実装が、パブリックブロックチェーンを前提としてグローバルスタンダードに即した形で進む。

ステップ2 「web3産業の確立」

web3関連スタートアップの育成・誘致に向け、更なる環境整備やコミュニティ形成が進むとともに、世界を代表するweb3スタートアップがわが国から生まれる。わが国において、Society 5.0 for SDGs実現に向けたweb3の活用が様々な分野で進む。安心・安全に利用するためのルールや規制、各種権利のあり方等についても、実例を踏まえたうえで各国と協調しながらアジャイルに検討が進む。

ステップ3 「web3先進国の実現」

web3先進国であるわが国に、各国から人材や企業が集まる。先進的な取組みの結果生じた様々な課題への対策についても、わが国が各国の知見をリードする。Society 5.0 for SDGs実現に向けたわが国の取組みが各国で横展開される。

Ⅲ.直ちに取り組むべきこと

日本がweb3に関する取組みを推進するうえでは、web3時代に適合しない既存の法制度等を迅速かつ抜本的に改善する必要がある。さもなければ、Society 5.0 for SDGs実現への貢献はおろか、わが国におけるweb3関連企業の成長は覚束ない。「web3鎖国」を脱し、スタートラインに立つためには、以下の施策を直ちに実行すべき、と指摘しています。

スクリーンショット 2022-11-26 085729.png

出典:日本経団連 web3推進戦略 2022.11.15

1. トークンの保有を促進

法人が保有する暗号資産について、現状では、キャッシュフローを伴う実現利益がないにもかかわらず課税がなされており、web3関連事業を遂行するうえで非常に大きな障壁となっている。

そこで、web3時代に即した税制措置の第一歩として、令和5年度税制改正において、自社で発行し保有する暗号資産に係る期末時価評価課税について所要の見直しを行うべきである。法人が自ら発行したトークンの一部を保有しており、それが「活発な市場が存在する暗号資産」に該当する場合であっても、期末時価評価課税を行わないことが望ましい。

また今後、発行主体と異なる第三者が保有する暗号資産のうち長期保有を目的とするものについても、事業年度終了時における期末時価評価課税の是非を検討すべきである。

このほか、web3関連事業を営む企業等において、監査契約の前提条件が満たされない等の状況が生じたことで、監査法人等による会計監査を受けられないといった声が聞かれる。これにより、トークンを取り扱う企業における円滑な資金調達や他社との取引が阻害されるおそれがある。web3関連事業者の取組みを後押しするうえでは、こうした状況を生み出す根本的な原因を特定し、早期に改善すべきである。

2. トークンへの投資を促進

多くのベンチャーキャピタル等は、投資事業有限責任組合契約に関する法律(LPS法)のスキームに則ってスタートアップ等への投資を行っている。同法においては投資対象として暗号資産が明記されていないことから、トークンへの投資を行うことが現実的ではない。web3関連企業やそれに投資する投資家を含めたエコシステムを活性化するために、現状を早期に改善する必要がある。

そこで、同法を改正し、投資事業有限責任組合による暗号資産への投資を可能とすべきである。

3. トークンの流通を促進

現状、暗号資産交換業者による暗号資産の新規取扱いにあたっては、特定の条件を満たすものを除き、一般社団法人日本暗号資産取引業協会(JVCEA)による長期間の事前審査等を要しており、プロセスが必ずしも迅速に進まないことがある。

トークンが法定通貨と交換できるようになれば、フィジカル空間での人々の経済活動に多大な影響を及ぼすことは明らかである。新たな経済圏が生まれ経済成長を牽引することが期待される反面、トークン価格の乱高下等マイナスの影響が人々のwell-beingを阻害することがないよう、適切に利用者を保護する必要があることは論を俟たない。トークンの流通促進と利用者保護を両立する観点から、事前審査と事後規制のバランスに鑑み、利用実態を踏まえた適切な規制のあり方を検討すべきである。

Ⅳ.今後求められる関連分野の施策

今後のさらなるweb3活用と深く関連するものである。わが国がweb3先進国を目指すうえでは、NFT、DAO、メタバース等の関連分野とweb3との関係性を整理するとともに、分野ごとの議論を精緻に峻別しつつ各分野の環境整備を着実に進め、各々の技術発展が相互にもたらすメリットを最大限活用することが求められるとしています。

以下では、NFT、DAO、メタバースの3分野を取り上げ、今後の活用に向けて求められる施策や、新技術がもたらしうる負の側面への対応に焦点を当てています。

スクリーンショット 2022-11-26 090634.png

出典:日本経団連 web3推進戦略 2022.11.15

1. NFT

NFTは、地方創生等様々な文脈で既に活用されているほか、わが国が強みを持つアニメ等各種コンテンツの流通活性化に寄与し得る。わが国コンテンツ産業の豊富な知財や人材を最大限に駆使しながら活用することが重要である。

NFT市場が急速に拡大する近年、著作権や利用者等の保護を進めることが不可欠となっている。NFTは国境を跨いで流通することから、各国政府とも協調しながら制度整備を進めることが求められる。

また、NFTの流通をさらに活性化するうえでは、国内法令上の暗号資産への該当性や、とりわけNFTのランダム型販売について賭博罪への該当性をより明確にすることで、新たなビジネスの創出に向けた環境を整備すべきである。

2. DAO

ガバナンストークン等の活用により中央管理者を不在とし、組織の運営コストを大幅に低減するDAOは、資本市場や働き方等の変革に寄与し得るものであり、わが国として積極的に活用を検討すべきである。

現状では、人を介さずスマートコントラクトのみでの確実な運用に成功している事例は少ない。今後、より効率的に運営するための活用事例の蓄積が待たれる。また、DAOを有効活用するとともに参加者を保護すべく、DAOの法的位置づけや責任のあり方等について、各国の法制度も参考としながら継続的に検討すべきである。

3. メタバース

目下、メタバースはWeb 1.0/2.0に即したプラットフォームを中心に展開されている。こうした現状を踏まえ、メタバースのあり方を検討する際には、web3とは峻別して議論する必要がある。同時に、無限に拡大するメタバース空間の形成と、現実空間およびそれと紐づいた仮想空間、すなわちサイバーフィジカルシステムの実現とを明確に区別することが求められる。

メタバースは、バーチャル空間において人々の様々な行動を可能とすることから、既に活用が進んでいるゲーム等の分野に限らず、教育や医療等あらゆる分野に多大な影響を及ぼし得る。実際、コロナ禍を経て仮想空間における活動は益々広がりを見せており、今後さらに進化、拡大することが予想される。

かかる現状を踏まえ、わが国としては、日本が強みを有するゲーム産業等の知財や人材を有効に活かしつつ、メタバースの活用を通じた社会課題の解決に向けて、「メタバース大国」となるための施策を展開すべきである。

わが国としてメタバース産業の育成を進めるうえでは、3DCG等、メタバース構築に関連する各種国産技術の開発、育成支援を進める必要がある。これらの技術については、既にゲーム産業を中心としてわが国に一日の長がある一方で、メタバースに活用するための支援を怠れば、たちまち各国の後塵を拝することとなる。同時に、メタバースが将来的にweb3上で展開されることも視野に入れつつ、メタバースプラットフォーム同士の連携に向けた環境の整備を進めるべきである。

また、とりわけメタバース上の意匠権、著作権、二次創作等に関する権利や、メタバース上で蓄積される膨大なデータの取扱いのあり方については、幅広い分野における今後の活用事例を踏まえ、各国と協調しながら検討すべきである。その際、異なる仮想空間やプラットフォーム間での取引について、法令や課税上の取扱いを明確にする必要がある。

なお、将来的には、メタバースが聴覚や視覚のみならず触覚、嗅覚等に働きかけることが可能となり、没入感がより高まることが予想される。これによって人々の体験価値が向上する一方で、メタバースと現実との区別がつかなくなり、メタバースへの過度な依存をはじめ、様々な課題が表出する可能性も指摘されている。メタバースの活用が人々のwell-beingを阻害することのないよう、実状を踏まえつつ、サービス提供事業者の自主的取組みの支援等についても検討していく必要がある。

メタバースが将来的に提供可能となる様々な体験は、現実空間における人々の生活にも大きな影響を及ぼすものである。どこまで倫理的に許容可能かといった点も含め、利用の実態を踏まえて継続的に議論し、社会全体で規範を形成していくことが不可欠である。

Comment(0)