「今の時代、何かを10年続けられることは難しいけれど」 - トレタ増井さんのインタビュー(後編)
昨日に続き、iPad向けの予約管理サービス「トレタ」(http://toreta.in/)の開発を手掛ける増井雄一郎さんのインタビュー。
大雪のデブサミでの講演も満員
- 2月13日、14日に開催された翔泳社主催の「Developers Summit(通称「デブサミ」)」。エンバカデロも出展しました。増井さんの講演は2日目の14日でしたが、この日は、記録的な大雪のときで、集客が心配されました。しかし、増井さんの講演は満員でしたね。
ええ、雪の中、誰もいないんじゃないかとドキドキしましたけど、多くの方に集まっていただきました。
- 「エンジニアだからできる自由な生き方」というテーマはどういう経緯で決まったのですか?
実は、昨年の後半ぐらいから、エンジニアとしてどうやって生きるか、というテーマでの講演依頼が立て続けに入ってくるようになったのです。ちょうど40歳を前にして、これから10年15年エンジニアとしてやっていくにはどうしたらいいのかを考える機会になりました。
それから、デブサミでも同じテーマで講演する機会をいただいて、まだ答えは出ていなかったものの即応募しました。逆に期限が決まったので、それに向けて考えていった感じです。
好きなことを見つけるまでは転々としても...
- 講演終了後には、別室で行われる質問コーナー「アスク・ザ・スピーカー」にも多くの人が集まりました。「好きなものを見つけるにはどうしたらいいですか?」という質問が多かったそうですね。
自分は、偶然コンピュータに出会って、それが好きになったので、その回答には困りました。それから、「それをどうやって続けるのか?」という質問にも困りましたね。
- 好きだから続けられる。その好きなものは偶然見つけた。確かに答えにはなりませんね。
ひとつ言えることは、いろんなことを試してみるのがいいということです。自分はコンピュータが好きだと気がついているけど、本当はもっと好きなことがあるかもしれない。好きなことを見つけるのに、転々としていくのは仕方がないと思います。
- そして、好きなことを見つけたらそれを放さないことですね。
中学までは、コンピュータにも出会っていなかったので、特にやりたいこともなく、勉強しない中学生でした。でも、コンピュータに出会って、「これだ」と思いました。それから、高校のときからフリーランスで働いて、会計事務所のお客さんの販売管理システム、売上管理システムを作っていました。Turbo CとかBorland C++(注:現在のエンバカデロの製品の元となる製品)を使っていたのは、この頃からです。
すごくラッキーだったのは、偶然自分が好きなものが社会的に評価を得られるものだったということです。コンピュータはメシが食える。それで評価される。例えば絵が描けるといっても、それで評価され、メシが食えるというのはすごく難しいわけです。
- 好きだからといって得意になるものではないですよね。
一部のことを除けば、接触時間というのはとても大きいと思います。何ごとも、こつこつ続けられることが大事。今の時代、何かを10年続けられることは難しいけれど、それを続けられる人が残っていくんだと思っています。
実は、うちの父親はベースをやっているんだけれど、始めたのは50歳ぐらいなんです。最初は弾けなかったけど、10年続けたらちゃんと評価されるようになりました。
- 何かを極める人は、最初に「生意気にも、できると思ってしまうことが大事」なのではないでしょうか。最初に自分には無理と思ってしまったら、できるようにならない。生意気に「できる」と思っちゃうから、続けられるわけですよね。
そうですね。うちの父もそうですし、プログラマはみんなそういうところがあると思います。
エンジニアはどうあるべきか
それと、私は、他の人と違って、「やっちゃだめ」と言われなかったことは、なんでもやってしまう性格なんです。日本人は特に、「やっていい」と言われたこと以外は、「やっちゃだめ」と受け取ります。自分の場合は、本当に「ノー」と言われたこと以外、なんでも許可されたと感じるんです。それによって、自分を広げて言っていることが多いですね。
- 自分の仕事領域を狭めて、能力を押し込めている感がありますね。
このIT業界の人は、ITに閉じがちだと思います。みんなFacebookやTwitterとか好きだけど、それはITのためのIT。すごく細かいループをまわっていると感じます。
本当は、思いもしなかったような業種で、ITを使ってもらって、新しい価値が創出し、社会を豊かにすることができるのに。
- もったいないですね。
世の中には、もっといろいろ面白い問題があって、どうしてIT化しないんだろうと思うことがいっぱいあります。けれども、エンジニアは、机の前から離れないからそれに気がつかないのです。
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増井さんの「自由」は、ITの能力を自分の既成の殻に閉じ込めないための自由でもあると感じました。一見、気ままなように思えても、そこには、自分の得意とする分野で、どのように世の中を豊かにしていくことができるかという強い意志を感じました。
机の前から離れられないエンジニアという状況は、プログラミングを労働集約的な仕事と捉える傾向にも通じているのではないかと感じます。エンバカデロが日頃から言っている、「開発者がより創造的な仕事に従事できるように時間をつくる。ツールによる効率化はそのためにある(言いかえれば、ツールは創造的なソフトウェアを自動では作ってくれない)。」という考え方の根底にも、このようなエンジニア精神があるのだと思います。
増井さん、多忙に全国を飛び回る合間に、エンバカデロにもお越し頂き、ありがとうございました。エンバカデロもエンジニアの皆さんを応援出来るような活動を継続したいと思います。