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スローガンの翻訳プロセスをお見せします:日本オリエンテーリング協会のスローガンを英訳するの巻

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先日、日本オリエンテーリング協会が「地図を手に明日へと駆ける」というタグライン(スローガン)を作成した。そのタグラインを使ってTシャツを作ることになったのだが、デザインのバランス上、アルファベット(英訳)でタグラインを書いたほうがしっくりする。

そこで、アークコミュニケーションズの出番である。

タグラインはそのまま訳してもうまくいかない。

その1:まず、長さの問題がある
日本語というのは漢字の威力もあり、とってもコンパクトに表現できる。
同じように英語でもコンパクトに表現したい。
ロゴの近くに書かれることの多いタグラインは、使い勝手を考えなければいけない。

その2:次に口調の問題がある
日本語で5,7調に収めるなどの工夫をするように、英語も口調よろしく作りたい。
思わず口ずさみたくなるような。

その3:もちろん基本コンセプトは外せない
思い入れのあるキーワードは使いたい。しかし捉われ過ぎると収まりが悪くなる。


それでは、英語のタグラインを考える時にどのようにしているのかそのプロセスをお見せしよう。3人で会話しています・・・・

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1. まずは出来るだけ忠実に原文に沿って訳すフェーズ

「原文に忠実に訳すと"Grab a Map and Run Towards the Future"かな?」
「Grabから始める意味がある?Run Towards the Future with a Mapでいいのでは?」
「でも、どちらも面白くないね」と日本人も英語ネイティブも口にする。
「長くてインパクトがない」
「でも、言いたいことはこういうことなんだよね」と確認しあう。

2. 次に外せないコンセプトは何かという話をするフェーズ

「地図を使うという競技特性は外せないでしょう?Mapという単語は使わなきゃ」 
「競技の特性上、未来志向のニュアンスが必要では?」
「そもそも競技だと分からせるためにスピード感、競技の魅力を伝えるための躍動感がいるのでは?」
「頭を使うこと、計画すること、が際立った競技特長だよね?Runningとの差別化要素は必須だと思うな」

私がクライアント側でもある(日本オリエンテーリング協会の理事をしている)ので、メンバーの基本コンセプトの理解がずれたらその場で修正出来るので今回はとても楽だ。

3. 口調を意識するフェーズ

「"動詞and 動詞"の組み合わせは悪くないね。 Plan and Run Towards the Futureはどう?」
「Mapという単語を使わないのはないんじゃない?」
「オリエンテーリングに地図を使うのは当たり前なんだから、むしろMapを使って何をしているのかにフォーカスしたほうがよいよ。Planでしょう?」
「Run は意味合いが広い言葉だから、走るという意味以外のニュアンスでひっかかる人がいるかもね。逃げる、とか政治的な意味合いを感じたりしないかな。」
「う~ん、日本人なら気にならないのでは?」
「そうだ、Planを使うのなら、Map Outを使ってみてはどう?Map Out Your Future!」
「お~!それいいね!」
「でも、日本人にとってMap Outって言われてすぐさまplanの意味を思いつきにくいな」
「でもMapというキーワードが入っているからいいんじゃない?」
「いやいやMapという単語は使うけど、意味が違うよ!」
「Map Outの語源は、地図に精緻に記すだから、意味は同じ」
「Map Outを使うのなら、Map Out New Trajectoriesのほうがインテリっぽい!」
「Map Out New Horizons のほうがオリエンテーリングっぽくない?」
「日本人だけでなく誰にでもわかりやすい単語を使うことは大事だよ。futureに一票」

4. あえて欠点を言ってみるフェーズ
「Map Out Your Futureは確かに口調がいいし、Mapと言うキーワードが入ったけど、競技らしくないよね」
「うん、躍動感はゼロ」
「企業のタグラインでもよいね」
「だったら、Map Out Your Future & Runはどう?」
「& Runがなんだかつけたしみたい。ウディ・アレンの『Take the Money and Run』(泥棒野郎)みたいじゃない?」
「そういう風に思う人は少ないとは思うよ」
「競技っぽくしたいのなら、「Ready, Get Set, Go!」をぱくって、「Ready, Map Out, Go!」なんてどう?(笑)」
「それいい!位置について、よ~い、ドンならスピード感がある」
「いやいや、それはおふざけが過ぎるよ」
「世界陸上では、ReadyではなくてOn Your Mark って言ってたよ。On Your Mark, Map Out, Go!だとごろが悪い」
「何のパクリだかわからない人もいるだろうから、よくないんじゃない?」

5. まとめのフェーズ
「しいて言えば競技のスピード感を表現しきれていないけど、地図を使って考えるという競技の特性は、Map Out Your Futureがコンパクトに現しているんじゃない?日本オリエンテーリング協会が日本語のタグラインに込めた重要なコンセプトを拾っているよね」
「うん、そう思う」
「(私)今まで黙っていたんだけどさぁ。Map Outってオリエンティアには別の意味があるんだよね」
「えっ?なんですか?」
「(私)私が時にやっちゃうんだけどさ、「Map Outしちゃった~~!」と言えば、地図の外に出てしまったという意味。つまり地図上にある地点に行かなければいけないのに、とてつもないへまを競技中にしたってことよ。」
「ええ!!!?そんな大事なことを最初に言ってください!!!」
「でも、それって和製英語ですよね」
「(私)うん、そう思う。だから、そういうダブルミーニングもあって面白いんじゃない?」
「そんなおふざけありなら、「Ready, Map Out, Go!」もありじゃないですか。」
「いやいや、その話はもう終わったんだから、収束しようよ。でも代替案にありかもね?」
「それじゃ、第一候補は Map Out Your Future、第二候補は Ready, Map Out, Go!、 第三候補は Plan and Run Towards the Futureで」

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案の定、「え~、Map Out?」という声がオリエンティアからあがったが、結局日本オリエンテーリング協会は第一候補を選択。

タグラインやキャッチフレーズを考えるときは、こんなことを楽屋でしていたりするのだ。
なかなか楽しい作業だ。しかし、知恵も時間もエネルギーもかかっているのである。

出来たTシャツはこんな具合に。

VisionTシャツ

ターコイズやオレンジ、ピンクもあります。興味のある方は是非日本オリエンテーリング協会にお問い合わせを!

英文スローガンの作成はアークコミュニケーションズにお問い合わせを!

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