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戸田奈津子さんの講演を通して感じた字幕翻訳の世界

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戸田奈津子さんの講演を聞くのは2度目で、前回はなんと1991年の夏。ほぼ18年ぶりだ。

18年前はまさか自分が翻訳会社の社長をしているなんて夢にも思わず参加した。今回は同業という気持ちで聞くことになった。

知ってはいたが改めて聞くと特殊な世界だ。

外国映画を字幕で見るというのは日本独特の文化だ。他の国だとほとんどが吹きかえだ。識字率の問題もあり、字幕は面倒だと感じるらしい。お金がなくて吹き替えが出来ないので仕方がないから字幕にしようという感覚らしい。

一方日本人は、吹き替えと字幕の両バージョンがあると字幕のほうが人気だそうだ。例え英語がわからなくても、俳優の生の声を聞きたい、本物(吹き替えを偽物というつもりはないが)をそのまま見たい、外国語を感じてみたいなどの欲求が高い。もちろん識字率も高い。

個人的な見解は、加えて表意文字である日本語の特性によるところも多いと思っている。日本語字幕においては、1秒4文字計算で、10字×2行という厳しい文字制限がある。表意文字である漢字がなかったら、たった20字の中でどれだけのメッセージを伝えることが出来るであろうか。

このような世界においては映画の字幕翻訳者という肩書きを言える人(字幕翻訳で生計が立てられる人)は何人いるのだろうか?まず日本以外にはいないだろう。先ほど述べたように字幕翻訳はポピュラーではないし、発展途上国においては外国映画そのものの上映本数も少ない。

さて、それでは日本ではどうだろうか?映画の字幕翻訳は納期も短く、仕事の性質上、分業が難しいのでほとんど実質一人で行われる。そうなると日本で1年間に上映される映画の本数から考えると10人くらいということになろう。(私たち一般の人が戸田奈津子さん以外の字幕翻訳者をほとんど知らないが、そもそもほとんど存在しないのだ)

と、戸田さんはおっしゃったのだが、字幕翻訳を生業としている人は戸田さんが想像するより、実はかなり多い。確かに映画の字幕翻訳は10人ちょっとの世界かもしれないが、それ以外の業界のニーズは意外に多いのだ。マーケティングマテリアルとしての映像翻訳も最近は多い。社長の挨拶、リクルート用の会社紹介、研修用のビデオなど、動画を使ったマテリアルはここ数年非常に増えている。だから字幕翻訳を専業としている会社もいくつもある。

アークコミュニケーションズももちろん字幕翻訳を行う。字幕翻訳の仕事を請けて思うことは、翻訳以外の特殊なスキルを伴う仕事だということだ。字数制限に対応できるシナリオ作成力、日本語表現力は映画の字幕翻訳と同じように必要だし、字幕スーパーを入れるハード・ソフトを使いこなせることも重要になる。(翻訳者と字幕スーパー制作者と分業することも多いが)

さて、19年前の講演内容と一番違ったこと。それは、若者の字幕離れが深刻であるという戸田さんの危機感かもしれない。

若者の活字離れはこう言うところにも現れているのだ。レンタルショップにおける外国映画のDVDにおいては若者をターゲットにした場合は字幕より吹き替え版を増やしているそうだ。

さて私はというと・・・やっぱり字幕じゃなきゃと思う。英語どのように工夫して訳しているのか知るのも楽しいし、やっぱり監督や俳優の思いをそのまま感じてみたいから。若者でないということの証明のようでもありますが・・・(苦笑)

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