翻訳発注ルール1:適切な翻訳家を選択するための情報を十分に伝える
内容、読み手、目的を伝え、仕上がりイメージを共有すると、翻訳の品質は発注者の期待にぐっと近づく。
翻訳を発注する時、原文・納期・値段以外の情報を積極的に伝えようとする発注者は少ない。
発注会社の紹介や原文の内容について説明してくださる方は多いが、読み手や目的まで話さないものだ。
もちろん、プレスリリースやIRのようにわざわざ言わなくてもわかるような資料も多いのだが。
翻訳会社として時々する失敗は、顧客に上記をいちいち確認すればよいものを、勝手にこちらが想定してしまうことだ。
社外用のプレゼン資料と思っていたものが、実は社内用でそこまで品質を求めていなかったとか、原文を見てこんなインフォーマルな内容をまさか顧客に見せないだろうと思ってしまったとか。
誤訳を避けることはもちろんのこと、発注者の思い描いていたアウトプットに近づけるためには、これらの情報が大きな意味をもつ。
当初これらの情報は翻訳会社が翻訳家を選定する上で重要な情報だと思って、ルール1のタイトル名につけたのだが、実際、翻訳家の選定をこれらの情報が無くても翻訳会社が間違えることは少ない。
しかし、同じ翻訳家を使っても、翻訳の仕上がりについては確実に大きな影響を与える。
ここに、あるオーナー会社の社長が経営について思いを語った文章があったとしよう。
いたずら心を起こして、その昔、翻訳家に原文を渡して、「3通りに翻訳してよとお願いするとしたら、どうしますか?」と聞いたことがある。
「(ぱらぱらと原文を見ながら)そうだねぇ、一つ目は熱血社長らしく、社員に檄を飛ばしているように訳そうかな。こんなんじゃ、駄目だ。もっと頑張れよ~と社長の感情がほとばしっている社員へのメッセージだね」
「二つ目は・・・正反対がいいね。そうだ、この社長が小学校へ行って、自分のビジネスの話をわかりやすく説明しているという設定はどう?言葉使いも子供向け、用語も噛み砕いて訳してあげよう」
「三つ目は・・・そうだね、マスコミ~例えば、日経ビジネスに取り上げられたような文章にしてみようか。フォーマルで出来るだけ客観的に。」
「しかし、大里さんって面白いね、こんなこと聞くなんて。実際は3通りも訳さなくてよいんでしょう?どう訳してほしいんだよ?」
注記:このエントリーは当社発行小冊子「翻訳品質を上げる7つのルール」の補足として書いています。小冊子に興味がある方はこちらからお求め下さい。
http://www.arc-c.jp/present1/index.html