音楽の新ジャンルをアジアで展開する女性プロデューサー「CHIJA」
「なぜあいつは、あんな無茶な案件を1人でまとめられるのだ?」。どの業界にも、皆が無理と諦めてしまう仕事を平気でやってのけてしまう人がいる。しかもそれが女性なら、なおさらカッコイイだろう。
例えば、音楽業界はなかなか複雑な世界らしく、呼びたくても呼べない大物海外アーティストがけっこういるそうだ。こんなとき「彼女に頼めば何とかしてくれるだろう」と頼られる存在が、CHIJA(チジャ)さん。ボクの友人であり、飲み友達であり、凄腕の女性アーティスト・プロデューサーだ。
「スーパースターを呼んでくれ!」とのクライアントの無茶なオーダーにより、大人気グループ「BOYZ Ⅱ MEN」を日本に呼び寄せたことがあれば、あの「マイケル・ジャクソン」「レディー・ガガ」「KARA」などのキャスティング・オファーまで入るというから、かなり驚く。
また最近では、グローバルに活躍する日本人アーティストを世界へ輸出すべく、彼らのビジネス・マネージメントまで手掛けている。
そして不思議なのは、実はチジャさんが携わるのは音楽業界だけではないという点。インターネットの創世記にはコンテンツのプロデュースを手掛け、企業プロモーションやタイアップなども多数仕掛けてきた。つまりネット業界にも強く、また一般的なビジネス界にも明るい。
「荒木さんは近いうちに、作家になりそうね。あと、絶対にメディアに出るべき人よ」。チジャさんと初めて会った5年ほど前、いきなり未来予想的な話を持ち出され、ボクはちょっと驚き、ほのかに嬉しかった。というのも彼女は究極の〝あげまん〟と紹介者から聞いており、事実、彼女とビジネスを共にする者の多くが成功していたからだ。
「これからの時代、何が売れるか」。マーケティングとはある種、科学か統計学に通じるところがあり、数字やデータを用いることは多い。しかし現実はむしろ〝人間の勘〟に頼る部分が大きく、ヒットを連発する名プロデューサーほどデータより勘や直感を重視し、またそれが成功の秘訣となる。言わば「時代の先読み感覚」だが、彼女はこの感覚に秀でているのだ。
さて、こういった種の人々にはいろいろなタイプの勘があるが、チジャさんのそれを一言で表現するなら〝メディア嗅覚〟だろう。「どんな人物が」「どんな仕事で」「どんなコトを」「世間から求められているか」...。その勘所が鋭いのだ。
というのも彼女、今はアーティスト・プロデューサーだが、出発点はラジオなのだ。そこからTV・雑誌・ネットなど、おもむくままに活躍の場を広げてきた独特なキャリアを持つ。またその過程において、芸能界にも相当な人脈を持つ〝顔〟的な存在ともなった。
つまり、ずっとメディアの中に身を置き、一流のメディア人らと仕事を共にしつつ、その一方でメディアを外からも見てきた。こうした多様な経験が「メディアは何を欲しているのか」、逆に言えば「こんなタイプの人がメディアに向く」という嗅覚を育てたのだ。
メディア業界・芸能界の未来のゴッドマザー?
チジャさんの仕事を、実はボクは詳しくは知らない。いつも飲みながら「今、こんなことやってるんだよね~」という感じの彼女なので、毎度話のテーマは変わる。同じくボクも、その時々で手掛ける仕事が変わる。このため、互いに相手のおおよその仕事は知っているが、意外と重要な事実が抜けていたりもする。そこで今回、改めて彼女に過去を振り返ってもらったのだが、正直かなりビビった。
「J-WAVE」が開局してすぐ、ラジオのナビゲーターとして活動をスタートさせたチジャさん。数々のレギュラー番組を抱えていたことは知っていたが、今でもたまにお忍びで喋ったり、ナレーション収録をしていると聞いて、ボクはまずはビールをこぼすが、スゴイのがこの先。
「テレビの構成作家をしていた時代もあったよ」。
「はあ?」。初耳だった。
「アド街ック天国」「チューボーですよ」「どっちの料理ショー」など、聞けば誰でも知っている人気番組の構成作家をしており、なかには番組の企画立ち上げから参加していたケースもあるという。「何がウケるか」を彼女が仕掛け、ボクはそれを知らずに、番組を見ていたということだ。
雑誌に連載を持っていた時期があるというから、やはり情報発信タイプかと思えば、メディアから取材を受ける方が断然多かったようで、女性誌の「an・an」や「Marisol」などでは、主に〝トレンドの目利き女性〟として登場していた。
ラジオ・テレビ・雑誌...。いろいろなメディアの仕掛人として、あるいは自ら登場するチジャさんだが、別にそうした立場を最初から狙っていたワケではない。
「いろんなメディアの人にいろんな仕事を頼まれるうちに、結果としてこんな感じになっちゃったのよネ」と、チジャさんは屈託なく笑う。そしてとても気さくな性格だけに、多くのメディア関係者や大物芸能人、海外セレブから愛されることに。
テリー伊藤氏、高城剛氏。松田聖子さん、夏樹陽子さん。ビームス・設楽社長に、ファッションデザイナーのジョン・ガリアーノ氏...。挙げればキリがないほど豪華な友人を持つチジャさん。彼女と飲んでいるといつも、こうしたビッグネームが次々と出てくるが、ちっとも驚かない。
なぜなら「This is CHIJA」。普通に仕事をしていたら、自然とビッグネームが集まってきただけのことであり、いつもそんな人々に囲まれて仕事をしているゆえ、「これからの時代、何が売れるか」の嗅覚が際立つのだろう。
さて、今回はそんな彼女に『仕事の流儀』を聞いてみた。というのもボクは今、小売業トップ「イオン」が展開する新しい花屋ブランド『ルポゼ・フルール』のブランドプロデュースを手掛けている。花屋ゆえに、メインターゲットは女性だ。
「一流の女性に、一流の流儀あり」という発想から、お花にまつわる話を様々な女性に聞いて回っているのだが、華やかな業界に身を置くチジャさんこそ、何かヒントがあるに相違ない。
「ビジネスはセンスよね!」
チジャさんの意見に、ボクもまったく同感だ。センス溢れる人は何をやっても、どんな業界でもどんな仕事でも、必ずうまくいくもの。ビジネススキルを磨くのも重要だが、やはり命運を分けるのはセンス。言わば〝ビジネスの嗅覚〟みたいなものだろう。
そして彼女いわく「花もセンス!」というワケだが、そこには2つの意味がある。ひとつは「ビジネスにおける花テクニック」。もうひとつは「おもてなしの花テクニック」。
「女性上司のスイートスポットを突く」
女性上司が当たり前という昨今。部長はおろか、取締役が女性というケースも珍しくないだろう。男性社会が崩れるに従って、女性上司とのコミュニケーションの重要性は増す一方だが、一筋縄ではいかないことも多々ある。
「女性上司のココロを開く」。
そのキッカケとなるのが、実は花なのだ。チジャさんはかつて、女性上司の誕生日に100本のバラの花束を贈ったそうだ。元々チジャさん自身が大の花好きという理由もあるが、その背景には「気の利かない男性が多いから」。
女性の誕生日ギフトと言えば、モノが定番になっている日本。もし花を贈るにしても「花なら何でもいいのかな?」といった男性が目立つ。だが、花こそ相手の趣味があり、また贈られて嬉しいタイミングやシチュエーションというものが、女性にはある。
いつもの職場で、しかも部下から、自分の好きな花束を贈られたなら...。これほど嬉しい贈り物はないだろう。何より驚くし、そこに細やかなセンスが感じられるからだ。
花束を贈る最大のメリットは〝相手の素顔が見えること〟と、チジャさんは語る。普段はクールに働くバリバリのキャリア女性でも、花束をもらったその瞬間は、ホロっとカワイイ笑顔を見せるもの。虚をつかれ、ココロが開く。これこそが〝女性上司のスイートスポット〟なのだ。
ギクシャクしていた関係に、明るい変化が生じることもあろう。元々親しい間柄だったが、さらにココロを開くキッカケとなるやもしれん。女性上司のスイートスポットは、自ら探しに行かないと、いつまでも見つけられないものなのだ。それを手助けするひとつが、花。
もちろん、単なるご機嫌取りのための花束ではイケナイ。あくまでも自分の気持ちを表現するために花があり、相手がその気持ちを素直に嬉しい! と感じたとき、花は最大限のメリットを発揮する。
男性部下から女性上司という贈り方もあるだろうが、『女性部下から女性上司へ』が、意外なほど喜ぶそうだ。女性って不思議。ビジネスにおける花テクニックという意味では、「年下女性からクライアントの先輩女性へ」というスタイルもいいかもしれない。
「ケーキよりお稲荷さん」のおもてなし
先日、長寿番組の「笑っていいとも」が終了した。あの番組で恒例の風景といえば、スタジオに並ぶ花束や花輪の数々だろう。俗に言う〝楽屋花〟だ。相手の晴れ舞台を祝して贈る花であり、芸能界などではごく一般的な慣習である。
「楽屋花はよくよく気をつけて贈った方がいいわよ」。
職業柄、楽屋花をいつも目にするチジャさん。後輩に必ずアドバイスするのが、楽屋花の選び方・贈り方だそうだ。花を贈るのが習慣になっている業界だからこそ、つい安易に花を選びがちとなってしまう。だが「花のセンス=自分のセンス」。当たり前の行為に手を抜く者は、相手から〝センスなし〟と疑われてしまうのだ。
「自分のセンス+相手のセンス」。つまり、ほどよく自分らしい花でありながら、相手が好みそうな花。この絶妙なセンスこそが楽屋花として輝き、贈られた相手も「センスいい花だ」と記憶に残る。そもそも楽屋とは、いつもありきたりな楽屋花がいっぱいという特殊な場。だからこそ自分のセンスの〝見せ所〟となるそうだ。
「芸能界って、実はとっても古風な業界なのよ」。
一見華やかだが、しきたりや上下関係に厳しく、ちょっとしたことで評価は下がるし、反対に認められもするシビアな世界。見た目と中身は往々にして異なるもので、そこで重要なのがおもてなしのココロ。
花だけでなく、差し入れの食べ物も溢れる楽屋。忙しく関係者が出入りする中、意外と困るのがデカいケーキ。見栄えはいいが、切ったり皿に乗せたりと、手間がかかるため食べづらいもの。こんなときはむしろお稲荷さんの方が腹持ちするし、皆に喜ばれるそうだ。
ビジネスで思い当たるシーンはないだろうか。クライアントに持参する菓子折りだ。和菓子を食べない社長にどら焼き。食べきれないほど大容量のクッキーでは困ってしまうだろう...。相手の好みを考えない行為は、ときに迷惑なだけなのだ。
花のセンスとは、結局、おもてなしのセンス。日々どこまで相手に気を使うことができるかなのだ。
ところで先日、友人のパーティーに出席することになり、いつものごとくバラの花束を探しにいったチジャさん。ところが、何軒も花屋を回ったのに、彼女の求めるバラがない...。
某人気チェーンの花屋に置かれたバラは、人気のわりには、花びらの先が痛んでいる始末。プレゼントとして贈るには相応しくないクオリティーということで、諦めたと言う。
自宅に飾る花もあれば、重要なパーティーに贈る花もある。消費者によって花に対するスタンスは異なるが、「いつも新鮮な花を、最適な状態で店頭に並べる」ことが基本だろう。それは値段が高い・安いに関係ない。
魚屋のようにいつも新鮮で、種類が豊富で、店員が心から商品を大切にする花屋。「『ルポゼ・フルール』もそんな店にプロデュースしてくれたら、毎日通います!」と、チジャさん。はい、頑張ります。
「アジアの行商人」としてリヤカーを引くCHIJA
花の話を聞き終えると、互いに今後のビジネスの話になった。ボクはずっと日本でコンサル業&作家業を営むつもりだが、彼女の視線はすでに別のところに向いている。東南アジアだ。
「日本のビジネスのスピードって遅すぎるでしょ?」
ビジネスはセンスという彼女。その中にはもちろん、ビジネスのスピードも含まれる。例えばクールジャパンと称し、ようやくコンテンツの輸出を始めた日本だが、現実は想像以上に厳しい。
例えば音楽業界。チジャさんは先日、海外の音楽フェスティバルに参加してきた。そこで目の当たりにしたのは、日本の音楽が世界からまったく相手にされていないという現実だ。近年、世界に目を向けた作り込みをしてきた韓国アーティストに比べると、日本アーティストのクオリティーは相対的に低く、また知名度もガクンと落ちるという。
確かに、昔はちょっとした差でも、スピードの違いにより、数年後には驚くほど差が開いてしまうことはよくある。そこで彼女は、東南アジアに打って出るというのだ。ビジネスのスピードが早く、今やビジネスのハブにもなっている場所から、才能溢れる日本人アーティストを全世界へ輸出するという。
「チジャ・リヤカーにいろいろな人を乗せて、ワタシが引いて歩くの。アジアの行商人よ」
何とも壮大な発想をする女性だろう...。今はアーティストだけだが、いずれは飲食業・美容・ファッションなど、あらゆる日本の優れたビジネスもリヤカーに乗せるつもりらしく、実際に、そんな相談も増えているという。
それも夢物語ではないだろう。なぜなら彼女は「This is CHIJA」。独特なメディア嗅覚と、豊富な人脈と、恐ろしいスピード感覚を持つ。数年後には、もう夢のカタチが見えているかもしれない。
「荒木さんもこの秋、リヤカーに載せて行くからね!」
なぜだかボクも今度、彼女と一緒に東南アジアへ行くことになっている。まだウンと言っていないし、ボクの目的は分からないが、とりあえず飛行機に乗るのだろう...。
●プロフィール
CHIJA(チジャ)
AVIV ENTERTAINMENT代表。グローバルに活躍する日本人アーティストの様々なビジネスやコンテンツを企画創作プロモートする「アーティスト・ビジネス・マネージメント」という新ジャンルのパイオニア。エンターテイメントのみならず、企業プロモーション、メディアイベント企画等、活動は多岐に渡る。現在、東京とシンガポールを拠点に、日本の各業界スペシャリストを東南アジアを中心に世界へプロモートする活動も開始。
連絡先 aviv.entertainment@gmail.com
Twitter:@amorewine
(荒木NEWS CONSULTING 荒木亨二)
農業からファッションまで――。マーケティングを立て直す専門のコンサルティングです。詳しくは下記Webサイトをご覧ください。