中国企業の経営者たちにマーケティングの講演をした話
昨年末、そろそろ仕事納めの準備を始めようかという頃、とある海外企業から1本のメールが届いた。
「今度、我が国の経営者30人~50人ほどを引率して日本を訪問する予定です。日本の優秀な経営やマーケティングを学ぶのが目的です。つきましては講演をお願いできませんでしょうか」
ボクは、企業ブランディングを中心としたコンサルティングを手掛けており、たまたま見つけたブログを読んで連絡してきたらしい。来日するのは2週間後と急すぎることもあり、最初はオファーを受けるべきかどうか迷った。しかし、どうしても〝その国〟に対する興味が止まらない。
中国である。
もはや説明するまでもない経済大国。世間では「マナーが悪い」だの「商習慣が違い過ぎる」だのいろいろ言われているが、それらを抜きにしても〝最強のビジネス国〟であることに変わりはない。そんな国の経営者たちと、しかも50名という大勢と一挙に出会えるチャンスもそうそうないだろう。
ボクはもっぱら日本企業のコンサルをしている。英語は喋れない。もちろん中国語も。ただ、専門にしている「企業ブランディング」の問い合わせは近年増えており、ひょっとすると、これからは中国企業のニーズも高まるかもしれない。
ということで、講演を引き受けることにしたのだが、いざ経営者たちと対面してみれば、やはり強烈というか感心するというか、じつに楽しい体験だった。
国が違えばマーケティングは異なる
講演のテーマは「日本の小売業におけるマーケティング戦略」。ボクがこれまで携わってきたクライアントはイオンなどの小売業が多く、また中国の経営者たちの多くが小売業やサービス業だったためで、テーマは事前に先方から指定されていた。講演はおよそ2時間で終了した。同時通訳の方がおり、言葉の問題は一切なかった。
さて、講演の際に最も注意を払ったのは、相手が日本の経営者でなく「中国企業の経営者」ということだった。というのも、日本と中国では文化がまったく異なる。文化が違えば、当然ながら消費スタイルもマーケティングもビジネス環境も変わるため、このギャップを理解したうえで講演を進めないと、中国の経営者には意味がない。
要は、必ずしも日本のマーケティングがそのまま中国で使えるとは限らない。例えば、コンビニのマーケティング戦略について、彼らは聞きたがった。「日本のコンビニは優秀だからビジネスモデルを参考にしたい」というのだが、注意が必要だ。
日本ではコンビニ文化が根付いて約50年が経過しているが、中国はまだ十年ちょっとに過ぎない。加えて、値段が高くてあまり人気がないのが実情という。その一方、ファッションや飲食などが充実した大型SCは続々と誕生している。
言わば、最古の業態と最新の業態が同時に押し寄せた〝ごちゃ混ぜ状態〟にあり、日本で培った「コンビニはこうすべき」「SCはこうすべき」といったマーケティングが通用するはずもない。日本企業が優秀なのではなく、中国企業より一足お先に発展したに過ぎない。ここ数年、中国から撤退する日本の小売業が増えている原因は、この辺りの〝勘違い〟にあるのだろう。
勘違いは、コンビニに限った話でない。百貨店にしてもスーパーにしても、あるいは各種サービス業にしても同様であり、こうした〝日中のマーケティングの違い〟を1つひとつ解説しながら講演を行った。
幸いなことに、居眠りやお喋りする人はまったくおらず、みんな真剣に耳を傾けてくれた。とてもマナーの良い人たちだった。
講演を終えてから知ったのだが、わざわざアメリカから講演を聞きにきた経営者もいたらしく、その熱量には驚かされた。10日ほどかけていろんな日本企業の講演を聞いて回る、かなり強行かつ高額なビジネスツアーだったのだ。
さて、ボクにとって興味深かったのは、講演の後に行われた質疑応答の時間だった。普段はなかなか聞けない中国企業の経営者たちの本音がどんどん飛び出てきたからだ。
中国企業が強いのは人間力
「なんで日本企業はビジネスのスピードが遅いのだ?」
「SNSをやってない小売業があるなんて、マジか!?」
「経営者がマーケティングを理解してないなら、どうやってビジネスをするのだ?」
「最初からできない計画を立てる? あの有名企業はそんなムダなことをしているのか」
さすが中国人というべきか、じつにストレートな感想を漏らす。みな経営者ということもあり、マーケティング実務だけでなく日本流の人材育成や組織論にまで話題は及んだのだが、その日本流がどうにも解せないらしい。
経営者の多くは30代でみな目がギラギラしており、生きるための執念というか迫力というか、「絶対に成功してやる!」「他人や常識なんて構ってられるか!」「オレがナンバーワンなんだ!」という、今の日本人が持ちえない野性味に溢れていた。
中国人の何がスゴイって、人口の多さでもなく経済力でもなく、1人ひとりの「人間力」なのかもしれない。何せ14億人という競争社会で日々生きているのだから。
質疑応答は思いのほか盛り上がり、予定時間をかなりオーバーして終了した。名刺交換のため並んでくれる経営者はみな、精悍だけど爽やかな顔つきをしている。
「いつか中国企業のコンサルをしたいな。彼らと仕事をしたら面白いかも」
そんなことを考えつつ、会場を後にした。
帰りがけのことだった。
終始ムスッと怖い顔で聞いていた男性が「記念写真を撮ってください」と、はにかみながらやってきた。
何かカワイイなあ。思わず笑ってしまった。
(荒木NEWS CONSULTING 荒木亨二)
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