「週刊SPA!」問題から考える、紙媒体の難しさ
「週刊SPA!」から2度ほど取材を受けたことがある。1つは「革命的!名刺デジタル活用術」というビジネス特集で、チームラボの猪子さんやSansanのマーケティング担当者などと共に、「名刺の使い方」に関して語るものだった。こちらはウェブ版SPA!にも転載されている。
もう1つは「デキる男の6つの秘訣」という企画モノ。マーケティングのコンサルタントとして、商談のコツや企画の通し方を紹介するなど、やはりテーマはビジネスだった。
ただ、あくまでビジネスはテーマの1つに過ぎない。政治からマネーからサブカルから、エロ、時事ネタ、社会ネタなど相当に幅広いテーマを取り上げるのが「週刊SPA!」という雑誌である。そして、テーマに関わらず、どの記事も見出しはたいてい刺激的である。
取材の際に編集者が語っていたのは、「30代後半から40代の男性ビジネスマンのリアルなニーズをどれだけ掴めるか。それがウチの雑誌のテーマです」と。この世代は、仕事、出世、住宅ローン、人生、結婚など悩みが深まりやすい。だからこそ扱うテーマは自然と幅広くなり、また硬軟織り交ぜる必要があると言う。
事実、ボクが最初に取材を受けたビジネス特集の直前ページは、「一攫千金を実現する事業計画書」というビジネスものだが、直後のページは「進化しすぎた男女の下半身ケア仰天事情」と、一転してエロに走る。
まるでジェットコースターのような誌面構成だ。しかし、既存の新聞やテレビが扱わないテーマも数多く、ついついページをめくらせる不思議な力がある。
取材に訪れた編集者は礼儀正しく、素直で、取材時はもちろんその後のフォローもぬかりがなく、とても好印象を持った。ややもすると世間からズレた人が少なくないマスコミ業界のなかで、「週刊SPA!」はかなり〝常識的なメディア〟という印象を受けた。
ところで、「週刊SPA!」のとある記事が問題になっている。確かに、あの記事は問題だと思う。
一方、改めて感じたのは「デジタル世界に残された紙媒体の難しさ」ではないだろか。
情報がタダでいくらでも入手できるこの時代、わざわざカネを払って雑誌を買う人というのは、明確な目的を持って情報を探す「読者」とするなら、ネットから流れてくる情報で済ませるタイプは、言うなれば「見物者」みたいなもの。
当然ながら、「読者」と「見物者」では情報に対するスタンスは異なる。
雑誌の作り手は元来、「お金を払って買ってもらうからこそ、読者を楽しませよう!」という意識が強い。取材にカネをかけ、労力と時間をかけ、何より店頭に並んでしまえば削除も修正もできないため、徹底的に誌面づくりにこだわる。何気ないワンカット写真に驚くような値段を費やしたり、誰も気にしないワンフレーズを載せる・載せないで数日モメたり。
すべては、雑誌を心待ちにしている「読者」のため。
そうして苦労してつくった紙の情報も、いざネットに流れると「この雑誌、何言ってんの?」「そんなモノ、売れるはずないだろ」「マジ、クソだな」など、痛烈な批判を浴びることも少なくない。
なぜか。
「見物者」には理解できなかったり、興味がなかったり、鼻についたり、最後まで読まれなかったり――。つまり、そもそも一般向けの情報ではないからだ。
出版サイドにも問題はある。〝既存の雑誌を安易にデジタル化〟しているケースだ。「さすがに今の時代、何もネット対策しないのはマズイだろう」といった軽い発想から、雑誌の内容をダウンサイジングして載せたり、目次と少しばかりのオススメ記事を載せたり。
要は、情報の出し惜しみから「雑誌のハイライト版」にしているわけだが、この戦略がなかなか難しい。雑誌本体がよほど魅力的でない限り、たいていはネットの情報だけで満足してしまい、見物者に情報を〝つまみ食い〟されてオシマイ。ますます雑誌は売れなくなる。
読者と見物者――。異なるニーズに対応した〝ハイブリッドな姿〟こそ、デジタル世界に残された紙媒体の生き残る道だろう。紙で培ったブランド力を生かせば、その辺のネットメディアが太刀打ちできない強力なメディアとなる。
その好例の1つが「週刊文春」ではないだろうか。
‶文春砲〟と呼ばれるように、最近は世間を騒がす大スクープの連発ですっかり「告発系メディア」のような印象が強いが、じつは本誌がめちゃくちゃ面白い。連載陣はバラエティーに富み、特集も興味深いものが多く、書評も含めて隅から隅までしっかり楽しめる。
これで400円ちょっとなんて、相当にお得である。何より、読めば読むほど編集部の高いクオリティーや情熱が窺い知れ、いつも感服する。
以前、新創刊した経済誌がわずか1年で休刊に追い込まれたことがあった。たまたまボクはそこに連載を持っていたのだが、休刊の知らせを聞いた際、真っ先に浮かんだ感想は、「ああ、やっぱりそうなるよネ、今の時代」だった。
今回の「週刊SPA!」の記事は問題だと思う。
でも、多様なテーマを、ある意味ヤンチャに攻めるのがウリの雑誌でもある。
今後の誌面づくりに期待したいな、と思う。
(荒木NEWS CONSULTING 荒木亨二)
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