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「自分だけの武器」を持たねば、フリーランスとしては生きていけない。「オリジナルの戦略」を描けなければ、コンサルタントは務まらない。私がこれまで蓄積してきた武器や戦略、ビジネスに対する考え方などを、少しずつお話ししていきます。 ・・・などとマジメなことを言いながら、フザけたこともけっこう書きます。

【就活のオモテとウラ その2】 中小企業ってどんなトコロ?

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就職氷河期の今、マスコミや国は「大企業でなく、中小企業を目指せ!」と叫んでいる。メディアが報じる企業・経済情報が大企業に偏っているため、知らぬ間に"日本は大企業大国"と錯覚しがちだが、実は大企業の割合は1%にも満たない。日本は圧倒的な『中小企業の国』、だから中小を目指せというのは一理あるのだが・・・。

【お金では買えないブランド】を求めて・・・

学生が大企業に抱くイメージといえば「安定」「高収入」といったメリットが並び、それがそのまま"総大企業志向"を形成している。つぶれるかもしれない、給料が安いであろう中小企業よりは、確実な道を選択するという発想は、決して間違いでない。長引く不況のあおりを受けた学生はより保守的傾向を強めており、安定志向に拍車がかかっている。

しかし、大企業を目指す真意は、本当に安定志向からなのだろうか? 

日本人の"ブランド好き"は有名な話で、一昔前、海外のブティックでブランド物を買い漁る姿は世界中の嘲笑の的になっていた。中国人を笑っている場合ではない。ブランド好きな性向はそう簡単に消えるものでなく、そして、それはモノに限らない。こうした国民性がもっとも顕著に現れるのが、就職という人生最大のステージなのだ。

自分が属する企業名・肩書などはヘタをしたら一生ついてまわることになる。ビジネスでプライベートで、自分を証明するIDとして頻繁に登場することとなり、大企業であればあるほど様々なシーンにおいて有利に働くのが日本社会である。大企業に就職したとなれば親や親戚は鼻高々となり、友人たちは羨み、自分はプライドと自信を持って生きていける"最強のお守り"みたいなものなのだ。

大企業は狭き門、1%にも満たないからこそ所属すること自体がステータスとなる。高級バッグや腕時計と異なり【お金では買えないブランド】であるがゆえに、どうにかして手に入れたいと願う・・・。

これが学生の大企業志向のホンネだろう。こんな俗っぽいコトは親も子も大きな声では言えないから、安定や高収入という分かりやすい言葉に置き換えているだけなのだ。

少子化にもかかわらずブーム化に拍車がかかる中学受験を想起すれば、いかに日本人が【お金では買えないブランド】を欲しているのか理解できよう。受験率が30%を超えていると言われる東京、「有名中学は勉強を安心して任せられるから・・・」に隠されたホンネ、あるいは先に見据えるのは、やはり「一流大学=大企業就職」という黄金ルート。就活対策はかなり早期化・長期化している実態が窺える。

大企業と中小企業は何が異なる?

マスコミや国は中小企業なら入りやすいぞとアピールする。これはごもっとも、データにも現れている。2011年3月卒業予定の大卒の求人倍率は、従業員数5000人以上の大企業では0.47倍、対して300人未満の企業では4倍を超える。 (リクルートワークス研究所)。この数字を見る限り、氷河期とはいえ、中小なら確かに入りやすいことは事実である。こうしたミスマッチを事例に挙げながら「中小企業へ行け」と言う論法なのだが、ここが問題。

ひとつは「宣伝するマスコミや国の伝え方」。中小企業なら入りやすいよ! というシンプルな訴求は分かりやすいが、どこか中小をバカにしてはいないだろうか? 大企業が無理なら・・・という大前提に立っており、そこには"大企業優位"という崩れぬスタンスが見え隠れしている。

識者のこんなコメントもしばしば耳にする。「中小企業には隠れた良い会社も沢山あるからね」と。探せばあるよという発言は、裏を返せば、中小企業全般のレベルが低いような物言いである。語っている本人が大企業なり高所得なのだから、何とも説得力に乏しい。同じく「中小企業の方が若いうちから大きな仕事を任せてもらえる」という、根拠のない組織論も根強いが、これは社員数が少ないから当然。

マスコミや国はどうにか中小に目を向けさせようとする。でも、学生本人が大企業に行きたい! というココロは変えられない。行きたいのだから仕方ない。ガンガン受ければ良いのだ。

しかし、ふと感じる。大企業と中小企業は必ず"分けて"語られるのだが、そもそも何が違うのか? 従業員数、売り上げといった企業規模をベースに置かないで、純粋に、何が異なるのだろうか? 中小は狙い目、優秀な中小は沢山あると聞かされても、学生にはその実態がさっぱり分からない。そこでコンサルタントの目から見た両者の違いを、おおまかに述べてみると・・・。

細分化された「職種」が大企業の強み

大企業は従業員数が多い。このため「営業」「経理」「人事」「エンジニア」「広報」「マーケティング」といった、経営に必要な"仕事の種類"が抱負に揃っている。社員はおのおの専門性に特化した業務に携わり、自分のフィールドで最大限努力する。各分野にスペシャリストを配置し、その集合体として、企業能力を最大化しようというのが大企業。非常に合理的なシステムと言える。

一方の中小企業ではこうはいかない。働く人間の数が少ないため、仮に必要な職種があったとしてもそれを設けることができない。少人数で最低限という発想で陣容を組むため、営業や経理といった売り上げ・経営に直結する人員は必ず置くが、広報やマーケなど"売り上げに直結しない"部署までは手が回らないのが実情。

急がば回れ・・・本来は知名度に劣る中小企業こそマーケティングに注力すべなのだが、そうはいかないところが多い。従業員の絶対数が少ないという物理的事情に加え、マーケ業務を担える人材がそもそも社内に存在しないケースが大半なのだ。

中小企業は仕事を若いうちから任せてもらえる?

職種が少ないのでひとりの社員が担当する仕事は多岐に渡ることが多く、中小はジェネラリスト社員の養成に向いている組織形態という印象が強い。営業しながらSPやMDを考えたり、経理が人事を兼ねたり、若いうちから仕事を任されるのでビジネス力アップへの近道と思われがちである。しかし、企業によってかなり差が激しいので、注意が必要だ。

「人手が足りないから他の仕事をやらせる」ことと、「社員教育の一環としてチャレンジさせる」では、その後のキャリア形成に大きな差が出る。まずここをしっかり意識した方が良い。

前者では単なる"使い走り"で終わる可能性が高い。いろいろやってみたが何の専門性も得ることができず、その結果はどうなるだろうか? 転職を考えた時にアピールすべきポイントがなくなってしまい、踏んだり蹴ったりである。若手の離職率が高い企業でこのような傾向が見られることがあるので、入社3年未満の離職率くらいは事前にチェック、もしくは面接時に確認した方が無難である。

後者ではチャレンジさせる"仕事の質と先生"がモノを言う。先ほど述べた通り、人員が圧倒的に少ないのが中小たる所以、専門性を持たない、つまり非スペシャリストな先輩や上司が指導にあたることも少なくない。新入社員が我流の教育や理論を受けて育ったなら? こちらも転職時に不利になることは、想像に易い。

中小企業は経営者次第!

組織が小さい分、コミュニケーションはスムースで意思決定が早いのが中小のメリットである。力があれば、若手でもがんがん経営者にモノを申せる環境にある。がしかし、ここが肝心。すべての経営者が優れているわけではない。本当に魅力的で優れた経営者がいる一方で、「これで本当に会社やってんの?」と、驚愕するような人物がいるのもまた、中小ならではの特性かもしれない。

以前、笑うに笑えない経営者に遭遇したことがある。「私はビジネスパートナーは"占い"で決めることにしています」と・・・。あたりはずれが大きいのだ。いかにアタリを発見するか? 99%の中小企業から優れた経営者を発見するか? それには幾つかの方法がある。これは学生にとってのメリットも大きい。

優れた中小企業を見つけるための方策

<HPを仔細に読み込む>

志望する業界や気になる業界があるのなら、まずは企業のHPを仔細にチェックすることでおおまかな雰囲気は掴める。マスコミ情報とは異なり、企業自ら発信する"生の情報"には、多くのヒントが隠されている。深読みすればその企業が目指すべき方向性や戦略なども読み取れるに相違ない。

<新聞をよく読む>

ビジネスマンとしては当たり前、就活中の学生も読むべきというのは、今も昔も変わらないスタイル。ここで気をつけたいのは【興味のない記事もすべて目を通す】ということ。気になる記事ばかり読んでも関心は拡がらないばかりか、視野を狭めてしまう。最初は読んでも理解できないことだらけ、分からなければ調べる。調べてまた読む。これを地道に繰り返していくうちに世の中の経済トレンドが見えてくる。ひいては、興味のなかった業界や職種に、バッタリ出会うこともある。

私は15年間、毎日、主要な新聞を7~8紙購読している。朝日・日経というクオリティーペーパー2紙だけで済ませてしまうビジネスマンや経営者もいるが、各紙特徴があり、読み比べてみて初めて分かる事実もあるので、私はいわゆる主要紙はすべて目を通すことにしている。かなり徹底しているスタイルだが、ここまでやらないと、不安になってしまうのだ。みなが2大クオリティペーパーに依存していたなら、考え方が朝日的・日経的になってしまう・・・。

私は『アラキレポート』というマーケティングレポートを長年書いている。主要な新聞8紙を読み込めば、自然とこれから流行るテーマ、ライフスタイル、ビジネストレンドなどを早めに把握・分析することができる。"メディアの議題設定機能"もマクロな視点で鮮明に理解できる。このアラキレポートをもとに「経営戦略」「新規ビジネス」「マーケティングプラン」などに落とし込むことで≪経営者の理論武装≫を手伝ってきた。

業務上膨大な新聞を読んでいるのだが、やはり気になる中小企業や伸びるであろう企業は必然的に目に留まるもので、そのたびに研究対象としている。私が数年前から注目しているのは「インストアメディア」「カフェカンパニー」といった"異色のカフェ企業"たち。カフェという親しみやすい"媒体装置"を巧みに利用しながら、外部企業とコラボしたりカフェ以外の事業で収益を上げている。ともにサロン化を目指している点でも、これからの消費シーンにマッチした秀逸な業態であると思う・・・。

・・・このような感じで、学生も自分なりのスタンスで記事を見つけ、探るのだ。全紙を読むのはさすがに無理だが、少なくとも日経だけは読んでおきたい。情報量が圧倒的に違う。ベタ記事もしっかりチェックすべき。ベタ記事こそ情報の宝の山であり、見逃しやすい。

<動く>

実際に見にいける企業であるなら、自分の目で確かめに行く。ダイレクトに社員にアプローチする手だってある。まっとうな手法(=通常の就職ルート)ばかりを辿っていては、道は開けない。真剣な学生なら、きっと相手をしてくれるはずだ。

中小企業の面接は10分で決める

気になる中小を見つけたら、そこにストレートにアタックすべきだ。大企業の就活システムと異なり、最初から中堅社員が出てくる可能性もあるし、最終的には経営者が面接官になることも多い。仮に新卒募集をかけていなかったとしても、コンタクトを取れば案外と受け入れてくれるのも、中小の良いところ。

さて前回は「就職は3秒で決まる」と書いた。主に大企業では人事が"第一印象"で学生をふるいにかけており、それは有効な手段である。しかし中小では状況が異なる。求人倍率から明らかなように、中小では人材が不足している。またもともとの従業員が少ないため、学生ひとりあたりに対する期待値は必然的に高まる。このような背景から、丁寧な面接・時間をかけた面接が期待できる。学生が臨むべき賢明な態度は?

経営者が出てきたなら、10分くらいじっくりと話すことをオススメする。肝心なのは、面接されているというよりは【学生が経営者を面接する】感じがベスト。中小は経営者いかんによって企業体質がガラリと変わるというか、経営者の思想そのものを体現しているような企業が多い。経営者が優秀か否か、これが中小の生命線。あたりはずれは学生がしっかり判断すべきである。10分もあれば十分。

注意点としては経営者でも人事でもない面接官の場合。中小では新卒採用に特化した人材に乏しく、営業部長だったり経理だったり、人事とは無関係の社員しか出てこないこともざらである。面接のプロでないため3秒で学生を判断することはしないが、その代わり、人物の判断基準も正直よく分からない。ただのオバチャンだったりする場合もある。こういう場合は・・・諦めよう。

就活に成功し、就職に失敗する

40歳になろうかという現在なら、コンサルタントとしていろいろな企業を見てきたから、大企業と中小企業のシステムや思想の違いも理解できる。しかし学生時代はまず無理だった。15年前、氷河期第一世代に私は大企業に入社し、わずか半年で辞めた・・・。ゴールを決めた途端、あら、何をしたかったんだっけ? となり、在籍する意味を見失った。就活に成功し、就職に失敗した典型的なケースである。こんな人間はけっこういる。

その後、自分のビジネス適性と手掛けたい仕事をよくよく考え、フリーランスという道を選択して『荒木News Consulting』という個人事務所をつくり、独立した。その動機は「中小企業にはマーケティングのノウハウと人材が圧倒的に不足している」という事実。もうちょっとこうすれば良くなるのに・・・という企業が非常に多い。そして、その"問題点自体に気づていない経営者"が、これまた実に多い。そのような経営者をバックアップしていくのはきっと面白いだろうと考えたのだ。実際、面白い。

何せ日本は『中小企業の国』である。99%が中小、マーケットの可能性はほぼ無限大に拡がっている。

学生も同じこと。消極的に中小を選択するのでなく、積極的に探してみてはいかがだろうかと、切実に思う。中小は本当に楽しい企業がたくさんある。発見できるかできないか、その目利きは、自分次第なのだが・・・。 

(荒木NEWS CONSULTING 荒木亨二)

日本人が使いやすいマーケティング戦略をオーダーメードで提供ーー。マーケティングを立て直す専門のコンサルティングです。詳しくは下記Webサイトをご覧ください。

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