マイクロプロセッサは自社開発の時代へ
新年早々、立て続けに驚きのニュースが飛び込んできました。Appleの半導体設計者をMicrosoftとIntelが引き抜いた、との報道が相次いだのです。先週の報道がこちらで、
その1週間前にあった報道がこちらです。
このタイミングでIT大手がAppleから半導体設計者を引き抜いた背景には、もはや汎用プロセッサが最先端の地位を維持できなくなっているという状況があります。
とはいえ、IntelとMicrosoftの狙いは違うものでしょう。Microsoftは、先日も書きましたが、Azure用のサーバープロセッサを開発するのが目的と考えられます。Microsoftは半導体設計の会社をまるごと買収するような派手なマネはしていませんが、長年にわたって研究を続けていると考えられますので、それなりのノウハウは社内に蓄積されているということでしょう。今回、大物エンジニアを引き抜いたということは、ついに自社開発に舵を切ったということかもしれません。
一方のIntelですが、外部から設計者など雇わなくても、CPUそのものの開発については社内に超一流のエンジニアが沢山居るはずです。今回Intelへの移籍が報じられたJeff Wilcox氏の新しい肩書は「フェロー・デザインエンジニアグループCEO・クライアントSoCアーキテクチャ」というものだそうです。つまり、プロセッサそのものを設計するわけでは無く、SoC(System on Chip)アーキテクチャの担当ということです。SoCはひとつのチップにCPU以外の様々な機能を実装するもので、CPUだけが速ければ良いものでは無く、用途によってはグラフィックスを強化したり、全体のデータ転送を高速化したりして最適化を行わなければなりません。
Intelはこれまで高速なCPUを開発して製造することで他社を凌駕してきました。マイクロアーキテクチャを最適化し、マルチスレッド化を進め、さらにはひとつのチップ上に複数のコアを搭載するなどして汎用プロセッサとしての能力を追求してきたのですが、こうした特性はサーバー用途などには向いていますが、クライアントではそこまでの処理能力は必要とされなかったり(ワープロのためにそこまでの性能は要らないですよね)、一方でビデオや画像処理のような特定の処理については高速な方がウケが良いわけです。Intelもかつてはモバイル向けのAtomなどのSoCを開発していましたが、Armの牙城を崩せずに撤退した経緯があり、この分野はあまり得意で無いのかも知れません。
AppleのM1が真に画期的だったのは、現代のパソコンに求められる機能に特化してパフォーマンスを追求し、最適化したコンポーネントを高速なインターコネクトで接続するというアーキテクチャ上のブレイクスルーがあったことです。Intelはその発想とノウハウを欲したのでは無いでしょうか。
プロセッサは特定目的のために独自開発する時代へ
このほかにも、プラットフォーマーがプロセッサを自社開発する流れが強まっています。Googleはだいぶ前からAI用プロセッサ「TPU」の自社開発を行っていますし、AmazonもAI用やクラウド用のプロセッサを開発しています。つい先日も新しいバージョンを発表したばかりです。
これら、IT大手/プラットフォーマーがプロセッサの自社開発に取り組んでいるのは、特定の目的用の専用プロセッサのほうがパフォーマンスや電力効率が良いということが挙げられます。ムーアの法則が限界を迎えている中、汎用プロセッサの性能向上は頭打ちになっています。自社の用途に特化したプロセッサを作れる会社だけが、競争力を維持できるのです。温暖化が叫ばれる中、大電力で力任せに処理能力を上げることもできません。その可能性にいち早く目を付けたのがAppleで、M1やM1max/proなどはその集大成だったわけです。その効果を見せつけられて、QualcommやMicrosoftなども動かざるを得なくなった、ということでは無いでしょうか。
今後、この動きは広がっていくことになるでしょう。というか、昔は家電や自動車の制御用に自社でプロセッサを開発するということは広く行われていました。日本企業にもそのノウハウは蓄積されているはずです。これからの独自開発の時代には日本の出番もまた巡ってくるかも知れませんね。
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