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A15 で垣間見えた Apple の戦略と台所事情

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皆さんもご承知の通り、先月AppleからiPhone13が無事発表されました。

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ただ、今回の発表は少し「地味」だったようです。昨年大きな話題になった5Gのような新しいテクノロジーへの対応というような話題が今年は無かったこともありますが、毎年注目を集めるApple独自のAシリーズプロセッサの性能向上にも陰りが見えるのでは?ということが言われています。

iPhone 13のA15チップはCPUの進歩がやや鈍化しているのか?

Aシリーズプロセッサは元々Armベースですが、近年では回路設計が100%Appleによるものになっており、グラフィック処理やAI処理など、他社を凌駕する性能を見せつけてきました。しかし、今年はそれほどの性能向上がされていないのでは、と言うのです。

smartphone_jidori_selfy_man.pngその理由に、毎年Aシリーズの最新プロセッサの発表時には、ひとつ前の世代との比較が示され、「前年比○○%増」といった表現がなされる筈なのに、今年は「他社との比較」や3世代前のA12との比較しか示されなかったためだというのです。記事によると、今年のAppleの発表は「A15 BionicのCPUパフォーマンスはA12 Bionic比で40%高速になった」というものでしたが、実はA14の時にも「A12と比べて40%高速」と言っていた、というのです。そのため、

「A15 BionicとA14 BionicはCPU的には同等なのでは?」という疑惑が浮上

したのだそうです。記事ではさらに、「2019年に半導体部門幹部3名らがAppleを去った一件が響いているのでは?」という見方を紹介しています。この会社、NUVIAについては以前このブログでも紹介しましたが、今ではAppleのライバル企業であるQualcommの傘下に収っています。

「鈍化」は予定通り?

ただ、よく見れば、ちゃんと進化もしているのです。SoCの性能の指標となるコア数では、A15ではCPU6コア、GPU5コア、Neural Engine16コアなどとなっており、A14の6コア、4コア、16コアと比べるとGPUの1コアくらいしか増えていないように見えます。しかし、CPUは上がっていないのかも知れませんが、後述するようにGPUやNeural Engineなどは30%程度の高速化は達成しています。30%を十分とみるか、足りないとみるかは人それぞれですが、M1の時のように、いきなり何倍も速くなるような技術革新は、そうそう起こるものではありません。今回の性能向上は、地味ながらも正当な進化、ということではないでしょうか。

それよりも注目したいのは、Appleが増えたトランジスタをどこに投資したのか、ということです。

半導体というのは1年経つと技術がかなり進歩するため、プロセスが成熟するだけでも集積度や歩留まり(=コスト)が向上します。昨年発表されたA14は、初めてTSMCの5nmプロセスを採用し、118億トランジスタを集積しました。Appleとしては初の100億超えです。それが、A15は同じ5nmプロセスながら150億トランジスタと、27%も増えています。

そしてこれは、Appleにしてみれば予定通りだと言うのです。

Appleデバイスの次の心臓となるSoC「Apple A14」

これは昨年の記事ですが、後藤さんは以下の様に書いています。

今回は、5nmノード世代への移行の最初のチップなので、ダイサイズを抑えているはずだ。この手法は、毎年SoCを進化させなければならないためのトランジスタ予算の制御であり、また、製造コストが高騰している先端プロセスを経済的に使うための手法でもあり、チップ全体の消費電力を抑えるためでもある。プロセスの成熟によって、1年後には歩留まりがさらに上がり、ダイを大きくしやすくなる。

つまりAppleはAシリーズのトランジスタ数を毎年一定の割合で増やすよう「計画」しているということなのです。A12は69億、A13が85億で約23%増、A14が113億で33%増、そして今回が27%増というわけです。

Appleの戦略

こうして増えたトランジスタを何に使うか、というのがAppleの戦略を示す部分なわけですが、A14の時は、A13から増えたトランジスタを投入したのはNeural Engineでした。A13で8コアだったNeural Engineを16コアに倍増させたのです。エッジデバイスでのAI処理を強化することが目的でしょう。これにより、A14では毎秒11兆回の演算が可能になりました。A15では同じ16コアで、演算性能は15.8兆回とさらに40%以上高速化されていますが、コア数は変わっていません。回路設計を変えて高速化を図ったのでしょうが、トランジスタ数に大きな影響を与えたということはなさそうです。

では、A15で増えたトランジスタはどこに投資されたのかということですが、すぐに思い浮かぶのはGPUです。A13では4コア、A14でも4コア(性能は30%高速化)だったGPUは、A15では5つに拡張されました。上述のようにA14との比較は示されていませんが、増えたトランジスタの多くがGPUに回されたのは確かでしょう。しかし、それだけで増えた分すべてというわけではないでしょうから、Neural EngineやCPUの高速化や機能強化にも振り向けられたのでは無いかと思います。

ここまで考えると、ここ数年、Appleは一環してグラフィックスとAI処理のためにトランジスタを割り振ってきた、ということが言えるのです。そしてこの一連の動きは、これからの大きなブレイクスルーへの布石なのではないでしょうか。それは何か?

ついにVRが来るのか?

私はそれは、VR(あるいはAR/MR/XR)ではないかと思っています。その頃には5Gも一通り普及し、インフラ面でもその準備が整っている筈です。先日書いたように、今年はガートナーのハイプサイクルから幻滅期以降の表示が消えてしまいました。そこで昨年のハイプサイクルを見てみると、MRがピークの前、ARは順調に(?)幻滅期への道を歩んでいます。ということは、あと1-2年でこれらが「啓発期」に出てくる可能性は十分にあるわけです。幻滅期を脱すれば、一般に普及するテクノロジーになれるわけです。Appleの買収リストを見ても、昨年あたりにVR/ARの会社を一気に買っていますし、VRゴーグルの話もあちこちに出てきています。そろそろVRを投入できる時期に来ていると言うことでは無いでしょうか。

AppleがVRを市場に投入したとき、それまでのiPhoneでVRが使えないのでは、一気に市場を席巻することは難しくなります。そのため、VR投入時には世の中のほとんどのiPhoneがVR対応になっていることが望ましいのです。そのために、何年も前からその機能を組み込んでいる、ということなのではないでしょうか。

【10/11修正】

初出時、集積トランジスタ数の単位が「万」でしたが、「億」の間違いです。修正しました。

 

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