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QualcommのM1対抗チップはAppleに勝てるのか?

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モバイル通信技術の開発で世界最先端に立ち、Androidスマホなど用のプロセッサで高いシェアを持つSnapdragonの開発元でもあるQualcommが、Apple M1の対抗製品を開発中とのことです。

クアルコムCEO、アップルM1チップに勝てると発言

Qualcommは今年1月に元Appleのエンジニアが設立した半導体設計会社「NUVIA」を買収しており、その技術を元にM1を越えるモバイルPC用チップを開発するというのです。NUVIAの幹部はiPhone/iPadで使われ、M1の元にもなったAシリーズプロセッサの開発に携わったエンジニアで、退社時に何かのトラブルがあったようで、Appleはこの幹部を提訴しています。穏やかでないですが、それだけ優秀なエンジニアということなのかも知れません。

Qualcommはさまざまな移動体通信の技術を持っており、特に5G関連ではAppleにもチップを供給しているほどの企業です。AppleとQualcommは特許関連の紛争をしていましたが、2019年に和解しました。これは、Qualcommから5G関連チップの共有を受けるためだったとも言われています。QualcommがM1を凌駕するチップを開発すれば、通信技術と相まって鬼に金棒ということになるでしょう。

oni_jigoku_kama.pngこれまでのチップと何が違う?

ただ、Qualcommの新チップの噂は、今年1月にもリークされています。

クアルコム、アップルM1対抗チップ「Snapdragon SC8280」開発中の噂

この記事が出たのが1月18日です。この記事に先立つ1月14日、QualcommがNuviaを買収するとの報道があったのです。

クアルコム、米半導体「NUVIA」を約14億ドルで買収へ

これはなかなか微妙なタイミングです。これには2つの見方ができると思うのですが、

  • QualcommがM1対抗のチップを開発していたが、うまく進まないので急遽実績のある会社を買収した
  • QualcommはM1対抗チップ設計のためNUVIAの買収を検討していたが、その計画が漏れてしまった

どちらなのでしょうか。時系列を追って、少し詳しく見て行きましょう。

1月16日に別の記事が出ています。

「Windows on ARM」用新チップ「SC8280」をQualcommが開発中

この記事では、新しいチップはSnapdragon 8cxの後継で、すでにラップトップに搭載されてテストが行われていると書かれています。Snapdragon 8cxは2020年9月4日に発表されたArmベースのPC用チップです。

WindowsもARM対応加速? Qualcommがラップトップ用新型プロセッサ発表

このとき、Apple M1の噂はありましたが、正式発表は11月でしたから、M1を見てからプロジェクトをスタートさせたというわけでは無さそうですね。このチップを搭載したタブレットPCがそろそろ出回るはずなのですが、

日本HP、Snapdragon 8cx Gen2採用の13.5型2in1「Elite Folio」

あまり話題になっていないのは、それほどの性能は出ていないということなのでしょう。

その前から、QualcommはMicrosoftと協力してWoA向けのプロセッサを開発しており、Surfaceに搭載された「Microsoft製」とされるチップ「SQ1」「SQ2」もSnapdragon 8cxがベースになっています。

Surface Pro Xに搭載されたMicrosoft SQ2 CPUの正体を実機で探る

しかしこれらのチップを搭載したSurfaceもラップトップも、M1のようなセンセーションを巻き起こしたわけではありません。どちらかといえば「普通の」Armプロセッサで、Windows on Arm(WoA)用に最適化されている、という程度のもののようです。その最適化も、M1のレベルには達していないということでしょう。

Qualcomm単独での開発を断念

結局のところ、Qualcommは自社でArmベースのPC用チップを設計し、Microsoftと協力してWoAへの最適化も行ったが、AppleのM1に匹敵する性能は出せなかったため、急遽元Appleの設計エンジニアが設立したNUVIAの買収を決めた、と見るのが最も無理が無さそうです。3月に出た記事では

QualcommのApple M1対抗チップ「SC8280XP」は性能重視?

型番がSC8280XPへと変わっています。Gold+コアが4つとGoldコアが4つ(どちらも省電力コアではない)、そしてNPUを搭載するなど、情報が具体的になっています。時期的にも、これはNUVIAが関与した設計となっていると考えられます。

それでは、NUVIAの力を借りれば、M1を凌駕するチップが作れるのでしょうか?

M1は以前も書いたとおり、ソフトウェアと密接に連携した設計が行われている可能性があります。そのM1に対抗するためには、ソフトウェア側との連携がどれくらいできるのかが重要でしょう。Microsoftが自社チップを開発中との噂もある中、どこまで連携ができるのか、注目されます。また、QualcommのチップはWindows専用というわけではないでしょうから、AndroidやLinuxなど、他のOSとの組み合わせでも高速性を発揮できれば、Apple以外の選択肢としての価値は高まるでしょう。

 

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