オルタナティブ・ブログ > Mostly Harmless >

IT技術についてのトレンドや、ベンダーの戦略についての考察などを書いていきます。

Microsoft が自社ブラウザを提供し続ける理由

»

先月はMicrosoft Ignite 2020が開催され、さまざまな新製品/サービスが発表されました。マルチクラウド/マルチプラットフォーム関連の話題多数ですが、その中から今日はこちらの話題です。

Microsoft EdgeのLinux版プレビューが10月登場

以前書いたように、今のEdgeはGoogleが中心になって開発しているOSSのChromiumをエンジンに使っています。

ChromiumベースのEdge ~自前主義からの脱却を進めるMicrosoft

これでWindows 7、8、10、macOS、iOS、Androidに加えてLinux用が揃うことになり、主要なプラットフォームをカバーできるようになりました。

もともとMicrosoftはMosaicのエンジンを使ってInternet Explorerを開発し、その後は自社開発のエンジンに変えて作り続けてきました。HTML5対応に遅れたことでIEはシェアを落とし、Chromeの台頭を許しましたが、Windows10と共にリリースされたEdge(当初は自社製エンジン)で巻き返しを図りました。

しかしChromeとの差はなかなか縮まらず、ついにエンジンを自社製からChromiumに切り替えるという決断を行ったのです。インターネットの黎明期から自社製を貫いてきたMicrosoftですが、この決断は極めて合理的なものだったと思います。まず、どれだけ仕様を守って作っても、ブラウザエンジンの数だけ違う挙動が生まれる可能性があること、そしてエンジンを各社が別々に作ることは開発リソースがかかる割に、今となってはメリットが少ないことが挙げられます。それであればシェアNo1のChromeのエンジンをそのまま使い、自社独自の付加価値を与える方が良いと考えたのでしょう。エンジンの違いで差別化する時代は終ったということでしょう。

computer_search_kensaku.png

互換性問題を根本から解決

ブラウザの実装によって挙動が大きく変わってしまうHTML4の反省を踏まえ、HTML5は異なるブラウザ間でも表示/動作の差が生まれないよう開発された「はず」でした。しかし、過渡期だからかも知れませんが、今でもたまに「あれっ?」と思うこともあり、ブラウザ間の挙動の差はまだ残っています。これは仕様上の限界もありますが、各社が他社と差別化を行おうとして生まれてしまう部分もあるでしょうし、完全に無くすことは難しいのかもしれません。

そのような中、ブラウザのシェアとしてNo1になったのがChromeです。各社がエンジンを別々に開発していては、いつまで経っても互換性問題は解決せず、そんなところにベンダーもユーザーも労力をかけるのは合理的ではありません。そのような背景から、MicrosoftはChromeのエンジンのOSS版であるChromiumへの切り替えを決断したのではないでしょうか。

Microsoftが自社製ブラウザに拘る理由

しかし、Chromiumを使ってわざわざ自社ブランドのブラウザを作るくらいなら、ChromeをそのままWindowsの標準ブラウザにしてしまうという選択肢もあります。(事実上今はそうなっていますし)Chromeは放っておいてもGoogleが開発を続けてくれるでしょうし、費用もかかりません。(ライセンスとなれば話は別かも知れませんが)

しかしそれでも、Microsoftは自社製のブラウザを残すという選択をしました。ブラウザに長年関わってきたという自負もあるでしょうが、何よりも、自社がコントロールできるブラウザを持っておきたかったのではないでしょうか。

その理由は、たとえば独自機能の搭載です。IEモードが良い例ですが、既存顧客のためにMicrosoftでなければ提供できない(Microsoft以外は提供してくれそうにない)機能を提供していかなければなりません。プラグインでもできることはあるでしょうが、自由度は失われます。

あるいは、AzureやMicrosoftの管理ツールと統合できる機能をつけ加えることで、ブラウザをソリューションの一部として活用することもできます。以下の記事でも、Edgeを「Endpoint Data Loss Prevention」から管理できることに触れられています。

[速報]マイクロソフト、Linux対応の「Micorosft Edge on Linux」、来月プレビュー公開へ。Ignite 2020

デジタルマーケティングでも

他には、今話題となっているCookieの問題もあります。今、モダンブラウザ各社はサードパーティCookieを排除する方向で足並みを揃えています。

Google、サードパーティー製CookieのChromeでのサポートを2年以内に終了へ

記事中にあるように、FirefoxとSafariは既にデフォルト設定でサードパーティー製Cookieをブロックしています。しかし、Microsoftは今のところこの動きに対して目立った動きをしていません。(と思います。。知る限りでは)

Cookieはセッション情報やアクセス履歴などをブラウザ側に持たせる機能で、アクセス履歴に基づいたサイトのパーソナライズやWebのアクセス解析、ECサイトでのレコメンデーションなどに使われる重要な機能ですが、これが第三者に広く共有されるとプライバシー上の問題になる、と危険視されているのです。

いまさら聞けない「サードパーティCookie排除」の問題点--グーグルとアップルの違いも解説

ただ、Cookieには有効な点も多く、すぐにすべてをブロックすると大きな問題を引き起こしかねません。そのため、Googleなどは「2年以内に」とした上で代替技術の開発を急いでいます。この辺は恐らく各社のビジネスモデルにも関連しているのでしょう。Googleの収益のほとんどは検索広告ですから、EXサイトなどの売上に影響する変更には慎重にならざるを得ないということが考えられます。Microsoftも、変更はさまざまな分野への影響が大きいことはわかっているからこそ、慎重なのではないかと思います。これが、他社のブラウザに頼っていると、こうしたコントロールを効かせるのは難しくなります。

 

「?」をそのままにしておかないために

figure_question.png時代の変化は速く、特にITの分野での技術革新、環境変化は激しく、時代のトレンドに取り残されることは企業にとって大きなリスクとなります。しかし、一歩引いて様々な技術革新を見ていくと、「まったく未知の技術」など、そうそうありません。ほとんどの技術は過去の技術の延長線上にあり、異分野の技術と組み合わせることで新しい技術となっていることが多いのです。

アプライド・マーケティングでは、ITの技術トレンドを技術間の関係性と歴史の視点から俯瞰し、技術の本質を理解し、これからのトレンドを予測するためのセミナーや勉強会を開催しています。是非、お気軽にお問い合わせ下さい。

「講演依頼.com」の「2018年上半期 講演依頼ランキング」で、3位にランクされました!

Comment(0)