ArmがIoT事業を分社化へ ~その背景とは
ArmがIoT事業を切り離すとのニュースが入ってきました。ただ、事業を外部へ売却するのではなく、ソフトバンクグループの直轄企業となるようです。
ただ、ちょっと変なのは、今回の組織変更が「Armから提案した」という形になっていることです。ソフトバンクグループ内の事業再編ですから、ソフトバンク本体が事前に知らないはずはありませんし、こんな重要な再編であれば、むしろ本体が主導するのが普通ではないでしょうか。何故Armが提案したことになっているのでしょうか? 現にArm Treasure Dataのブログでは、
本件については今後、各国での対応なども含め様々な協議を行い、取締役会による承認が行われた後に、2020年9月末までに譲渡が完了する予定となっております。
となっており、もう隅々まで話はついているようです。どうも、いろいろな事情がありそうです。
IoTをソフトバンクグループの中核として位置づけ
今回切り離すのはIoTプラットフォームとCDP(カスタマーデータプラットフォーム)事業ですが、これらはソフトバンクグループにとって大きな意味を持っています。ずいぶん前ですが、こんな記事を書きました。
IoTプラットフォームとCDPの組合わせにより、ソフトバンクは顧客に対してAmazonに対抗できるソリューションを提供できるようになるのです。これらはソフトバンクグループが描く戦略の中で、重要な位置を占めているはずです。その点では、この再編によって今後IoT/CDP事業がソフトバンクグループの直轄になるわけで、むしろそのほうがすっきりします。
そもそも、チップ開発を本業とするArmにIoTプラットフォーム、そしてさらにCDPまで持たせるというのは、ちょっと違和感がありました。最初はArmをチップからプラットフォームまでをカバーできる総合IoT企業にしたかったのかもしれませんが、無理があったということでしょう。Arm自身が「やっぱりこの仕組み、ちょっとおかしいかも」となり、親会社に「提案」するという形になったのではないでしょうか。
ビジネス環境も変化しています。最初の記事のタイトルには、「IoT事業が大成功中」とありますが、WSJではネガティブな報道も出ています。
IoT市場の拡大が、ソフトバンクの当初の想定よりも遅れているというのです。
さらにArmはアメリカと中国の貿易戦争に巻き込まれるなど、中国でのビジネスに不透明感が漂ってきました。中国は今後RISC/Vへ向かう可能性があり、そうなればIoT用プロセッサの勢力図はかなり変わってきます。IoTでの優位を保つため、プラットフォーム事業を切り離してチップ開発に専念しなければまずい、という事情もあるでしょう。
Arm再上場への布石か?
一方で、今回の分社化は、かねてよりソフトバンクが計画しているArm再上場のための準備という側面もありそうです。
2018年に「5年程度」と言ったということですから、2023年あたり。あと3年ですね。再上場を目指すのであれば、そろそろ業績を安定させておきたいところです。
しかしArmの業績はソフトバンクに買収された後芳しくない状況が続いており、その原因がIoT事業への先行投資だと言われています。
売上も伸び悩んでいるのですが、利益が大幅に落ち込んでいます。ただこれは、ある程度はArm買収時に織り込み済みです。
ソフトバンクがArmを買収したのは2016年7月。そのときに孫さんはイノベーションのための投資を拡大し、5年のうちにArmの従業員を倍増すると言っています。厳しい開発競争に晒されていたArmをいったん株式市場のプレッシャーから開放し、短期の利益に惑わされず、じっくりとIoTビジネスを育てる環境に置く、ということでしょう。しかし、ビジネス環境の変化がそれを許さなかったのかも知れません。
他の事業が好調であれば、Armの再上場を急がなくても良かったのかも知れませんが、折悪しくコロナの影響もあってソフトバンクは投資事業で巨額の損失を出してしまいました。できれば予定通り再上場させたい、と考えたとしても不思議ではありません。
Armの再上場のためには、業績の足枷となっている事業を分離して身軽にしなければなりません。今回の事業再編の裏には、さまざまな事情が絡んでいそうです。
【2020.7.14追記】今朝書いたばっかりだったのに、WSJでこんな記事が出ていました。有料会員限定なので、詳細はわかりませんが。。
「?」をそのままにしておかないために
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