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DXは「完了」するのか?

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2ヶ月ほど前の記事ですが、電通デジタルが行った「日本における企業のデジタルトランスフォーメーション調査(2019年度)」の結果が公開されています。結構大規模な調査で、日本のDXの現状がわかります。ただ、ちょっと「おかしいな」と感じた部分がありました。

「70%が着手」と本格化進む日本企業のDX成果
創出のカギは経営トップのコミットメント

タイトルにある「創出のカギは経営トップのコミットメント」というのには賛成なのですが、違和感を感じたのは、最初のグラフにある「完了済み」という言葉です。

DXの定義とは?

記事の冒頭にある「DXの取り組み状況」について聞いたこのグラフですが、

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出所:電通デジタル

DXに着手している企業が70%と、昨年よりも増えたとしていますが、これはまあそんなものでしょう。DXはバズワードとなっていますし、様々な企業が取り組みを行っていることは肌感覚としても感じます。私も少し前にこんなエントリを書きました。問題は一番下の「完了済み」という回答(選択肢)です。

そもそも、「完了済み」が9%から8%に減っていることがおかしいのではないかと思うのですが、サンプル数の問題かも知れませんのでそれは置いておきましょう。

第一に、「DXが完了した」と言っている会社が全体の8%「も」あることが驚きです。経産省が危機感を持って警鐘を鳴らしているように、日本企業がそこまで進んでいるとは思えません。こちらにあるように、

世界の95%の企業がDXに失敗、調査で判明した衝撃的な事実と7つの過ち

世界でも95%が失敗している中、8%が「完了」というのは高すぎるように思います。「完了」って、「DXに成功した」っていうことですよね?

恐らくこれは、先々週も書いたように、DXの定義が広く共有されていないことが原因なのではないかと思います。レポートの全体もダウンロードしてみましたが、質問にあたってDXの定義を確認しているのかどうか、わかりませんでした。「本来のDX」とは言いにくいRPAなどが相当数含まれているのでは無いでしょうか。(もちろんRPAが適している場面もありますし、使い処もメリットもあるとは思いますが、私としては上のエントリにあるように、RPAをDXに入れることには疑問があります)

仮にRPAをDXと考えているのであれば、RPAを導入して一定の成果が出たところでDXが「完了した」といえるでしょう。しかし、本来のDXである「組織、プロセス、企業文化の変革」を達成するのは容易ではありません。1年や2年で達成できるようなものでは無いでしょう。その意味では、DXの定義が曖昧なままにこの種の調査を行うのは問題が多いといえます。

DXの「完了」は、完了しないプロセスの始まりを意味する

第二の違和感は、「DXは完了するものなのか?」ということです。

DXを「組織、プロセス、企業文化の変革」と捉えるならば、「変革が完了した」と言える時点はあるでしょう。DXを定義し、目標を達成すれば「完了」です。しかし、DXは「変革して終わり」ではなく、変革の後にこそ終わりの無いプロセスが待っているのです。これも定義の問題ですが、DXについて考えるときには、変革後も含めるべきでは無いでしょうか。

DXを達成した「DX後の企業」は、アジャイル/DevOpsの基本的な考え方である「継続的改善」を身につけている筈です。常に変化に対応し、変革を続けなければなりません。そこには「完了」という概念は無いはずなのです。であれば、DXにDX後のプロセスを含めてしまい、「DXには完了は無い」と言ってしまっても良いのではないでしょうか?

DXを「完了」したと言ってしまえることには、「要件を定義してプロジェクトを遂行し、完成したら納品して完了」というウォーターフォール的な感覚を感じます。これで一丁上がり、次は5年後のシステム更新のときによろしく、ということです。

そうでは無いのです。「本来の」DXを達成した企業において、5年毎のシステム更新などというものは存在しません(まあ、一部は残るのかも知れませんが)。システムはクラウド上に構築され、常に最新の技術を取り込み、ビジネス環境の変化に対応して日々業務プロセスを改善し、それをまたシステムにフィードバック(あるいはその逆)させていくのです。このプロセスは組織が存続する限り続き、終わりはありません。

DXという「変革」の完了は、即座に「終わりの無い改善のプロセスの始まり」を意味するのです。そうであれば、「DXに完了は無い」という意識を持つことが大切なのではないでしょうか。

 

「?」をそのままにしておかないために

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