名前が付くと改革が進まなくなる現象 ~DXの功罪~
今年の新語・流行語大賞は「ONE TEAM(ワンチーム)」でしたが、IT業界では去年に続いて「デジタルトランスフォーメーション(DX)」花盛りでした。あちこちの企業で「DX推進室」「DX企画部」ができたと聞いています。しかし一方で、「どこから手を付けたら良いのかわからない」など、どうもピリっとしない話もよく聞きます。「DXなんとか」という部署ができるのは、経営者が自ら全社的課題として取り組むべきDXを部下に丸投げしているという構図でしょう。そしてその原因は、ひょっとするとDXという「便利な」言葉にあるのかも知れません。
前のブログでも紹介した日経コンピュータの木村さんも、新しいエントリーで嘆いています。
この中で、
DXは全社的な変革であるにもかかわらず、多くの経営者が我が事と思わず、DXの取り組みを現場に丸投げしている
と書いています。
先月、ITソリューション塾で戦略スタッフサービスの戸田さんに講義していただきました。いつも通り迫力に満ち、示唆に富む内容でしたが、その中にも「DXは経営者が変わることだ。」というコメントがありました。
DXは経営者が自ら取り組むべき課題
本来DXは全社的なビジネス構造を根底から見直してデジタル対応させ、ビジネス速度を極限まで高めることが目的ですから、それができるのは経営者です。組織から業務プロセス、人事評価までを総合的に見直し、デジタルテクノロジーを駆使して最適化するわけで、多岐にわたる複雑な問題に取り組まなければなりません。既存の部門を一旦すべて廃棄して作り直すくらいの作業になるわけです。それを丸投げするのであれば、少なくとも経営者と同じ思想・目線と権限を持つ組織でなければならず、経営陣はそこからの提言は必ず受け入れ、確実に実行することが約束されていなければなりません。そうでなければ誰も真面目に取り組みませんし、他部署も真面目に取り合わないでしょう。失敗は目に見えています。
しかし「DX」という言葉が生まれたことで、なんとなくすべての問題がそこに集約されたような錯覚に陥り、それを解決すれば良いのでは、という勘違いが発生し、それを「じゃあ誰かこれ、やってくれ」といった感じで誰かに丸投げするという事態に至ったのでは無いでしょうか。なんとなく「やばい」と思っていた諸々の案件の集合体をまとめて指す「言葉」が生まれたことで、ワンセットで手軽に取扱えるようになり、簡単に誰かに丸投げすることができる、という流れでしょうか。「xxとooと**についてやってくれ」というよりは「DXな」というほうが簡単です。しかし、DXという言葉の中に含まれるものは相変わらず微妙で繊細な問題を多数孕んでおり、どこまでがDXに含まれるのかも曖昧なままで、頼む方と頼まれる方で同じ意味を共有していません。(というか、できない)しかし経営者は「これで一安心」となり、最後には「やったけど駄目だったな」で終る、ということでしょうか。これでは何も変わりません。
こちらの記事でも、
徳力さんが
日本の大企業のデジタル変革とかソーシャルメディア活用とかって、経営者が自分はよく分からないからと分かりそうな人で部署作って、でも権限は渡さない、というパターンが多い印象。
と書いています。DXが既存の業務プロセスを破壊して新しく構築し、企業内の様々な部署間の利害を調整する作業の先にあるものであるのだとすれば、それはにわか造りの(しかも権限の無い)プロジェクトチームの手には負えないでしょう。
DXだけではない
しかしこの構図、DXだけではなく、ITについてはいろいろ思い当たる節があります。「xx推進部」とか「OO企画部」とかいうやつですね。xxとかOOに入る言葉が見つかれば、すぐにできてしまいます。そこからなにか変革が起きたり、画期的な新規事業が生まれたりすることは、まず無いのではないでしょうか。(厳密に調べたわけではありませんが)
以前もこのブログで書いていますが、経営者のITリテラシー不足は深刻と考えられています。経産省は民間の尻を叩いていますが、一方ではIT担当相が『はんこ議連』会長だという、冗談のような話がまかり通っていますし、官公庁にもあまり期待はできません。経営者が自ら変わるか、ITのわかる世代への交代を促す他ありません。
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