Oracle Cloudのリージョン増強の背景とは
先週はOracle Open Worldが開催され、様々な発表が行われました。中でも大きな注目を集めたのはOracle Cloudを無期限で無料で使える「Always Free」のようですが、今日はその話ではなく、こちらについて考えてみたいと思います。
Oracleは最近クラウドへの投資を急ピッチで進めており、これもその一環であることは間違いないのですが、Oracleがリージョンの数に拘るのは、Oracle(というかデータベース)にとって他のベンダーよりもリージョン数が持つ意味が大きいからでは無いかと思うのです。
データベースの性能を左右する「レイテンシ」とは
それは、「レイテンシ(遅延)」の問題です。
レイテンシというのは、電気信号が伝わるまでの時間(遅延)のことです。クラウドにおいては、PCやモバイルデバイスなどのクライアントからクラウド上のサーバーへ、あるいはその逆にデータが送信されるまでの時間を意味します。
電気信号は光と同じ速さで伝わるというイメージが強いのですが、実際には様々な条件があり、光速よりも遅くなります。さらにインターネットでは、途中に介在するルーターなどでの処理による遅延も重なり、これは当然ながら距離が長くなると顕著になります。以下のブログでは、実際のレイテンシを計測し、東京リージョン内では数十ミリ秒、東京と海外では数百ミリ秒の遅延が発生すると書いています。
そしてこのレイテンシは、データベースのトランザクション処理に大きな影響を与えます。
この中で、
当社でOracle Cloudとオンプレミスの性能比較テストをしたところ、実はクラウドの方が速かったんです。しかし、実際にはネットワークの部分でレイテンシ(遅延)が発生するため、トータルで見ると「クラウドの方が遅い」となってしまう。
とコメントされています。クラウドの処理能力は高いのに、レイテンシのせいで遅くなっているというのです。さらに、
Oracle Cloudの"お試し"の時にWebサーバーを自社のネットワーク上に置いてテストしたところ、非常に遅くてこれはだめだとなりました。
とも書かれています。処理内容にもよるでしょうが、片道数百ミリ秒もかかっていては、実際には使い物にならない処理は多いと思われます。このことから、データベース処理にはクラウドのレイテンシが非常に大きな要素となっていることがわかります。
レイテンシを抑える→サーバーまでの距離を短くする→リージョンを増やす
ということは、データベースを主な差別化要因(≑Oracle Cloud)としたクラウドサービスは、他のサービスよりもレイテンシを抑える必要性が高いということができます。(もちろん他社のサービスでもレイテンシは重要な要素ですが、相対的な重要性という意味で)そのためには、遅延の少ない高価なルーターを使うということもあるでしょうが、何しろ物理現象ですから、ユーザーとサーバーの物理的距離を近くするのが一番簡単で確実なわけです。
ということで、レイテンシを重視するのであれば、世界中のユーザーの近くにデータセンター(リージョン)を配備する必要があるということになります。当然、リージョン数は増えざるを得ません。Oracleがリージョン数の増強を急ぐのは、AWSに数の上で勝つためではなく、クラウドサービスの顧客満足度を上げるために必須だから、ということが言えるのではないでしょうか。
データベースのクラウド移行を阻んでいるのはレイテンシの問題だけではありませんが、主要な懸念事項のひとつであることは確かです。Oracleが今年東京リージョンを解説し、年内に大阪を追加するのも、日本のOracleユーザーをクラウドに誘導するために必須の条件だったと考えられます。
ということは、Oracleは自社の強み(データベース)を活かすために今後もデータセンターの規模だけではなく、数も増やして行かざるを得ない状況にあるわけで、これはAWSやAzureに対して設備投資場不利な状況と考えることもできますが、その結果として低レイテンシのクラウドインフラを構築できることで、他社との差別化に繋がるのかも知れません。
「?」をそのままにしておかないために
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