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IBM が Red Hat を買収した本当の狙いとは

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昨年のIT業界のトップニュースと言えば、IBMのRed Hat買収が上位に入ることは間違いないでしょう。

IBM、Red Hatを買収、クラウド業界を一変させ、世界1位のハイブリッドクラウド・プロバイダーに

TechCrunchによると、「テクノロジー企業のM&Aとしては史上最大級となる」のだそうです。その歴史的な買収が、先月完了しました。

IBM、Red Hatを340億ドルで買収完了

買収完了を受けて、IBMが早速新戦略の発表を行いました。

IBM、クラウド移行を支援する「Cloud Paks」を提供--「Red Hat OpenShift」に最適化

baisyu_m_and_a.pngわりと「フツー」の内容?

昨年の発表は、Red Hatを買収することで「ハイブリッド・マルチクラウド・プロバイダー」を目指すというものでした。今回、そのための具体策として発表されたのがKubernetesをベースとするRed Hat OpenShiftをマルチクラウドで運用可能にし、その上で「Cloud Paks」を提供するというものです。IBMのリリースによると、以下の5種類が提供されます。

  • Cloud Pak for Data
  • Cloud Pak for Applications
  • Cloud Pak for Integration
  • Cloud Pak for Automation
  • Cloud Pak for Multicloud Management

Red Hatが持つKubernetes技術を活かして、マルチクラウド環境でアプリケーションを動作させるということです。ただ、これを見ても、オーソドックスというか、びっくりするような内容を含むものでもないかな、と感じました。

以前も書きましたが、

マルチクラウドで先行し始めた Microsoft

マルチクラウドは別に目新しい話でも無く、IBMが買収の承認を待っている間に他のクラウドベンダーは次々に新しいサービスを発表しています。IBMのサービスは広範で包括的であり、さすがの底力を感じさせますが、メニューとしては普通かな、と思っていました。

真の狙いは他に?

しかし、こんな記事を見つけて、IBMの本当の狙いがわかった気がします。IBMには、もうひとつ強力な差別化をできるサービスがありましたね。Watsonです。

IBM Makes Watson Available Across Amazon, Microsoft, and Google Clouds

今年2月の記事ですが、「IBMは長年Watsonを提供してきたが、それはIBMのクラウドでなければ使えなかった。」という文章から始まります。つまり、IBMがマルチクラウドを目指すことで、様々なクラウドサービスからWatsonを使うことができるようになるのです。

これを見てからIBMのリリースをもう一度見てみたら、確かにWatsonの話も出ていました。「Cloud Pak for Data」の中に「AIのためにデータを可視化」とあります。でも、これだけでは何のことかわかりませんし、扱いも小さくて目立ちません。

AIで先行していた「はず」のIBM

AIは今、最もホットな話題ですが、なんといってもIBMには歴史があります。GAFAなどまだ存在していない頃からAIの研究を行っていますし、その集大成たる「Watson」は早くから実際のビジネスでも使われ、豊富な実績も持っています。GoogleやMicrosoftが提供しているAI関連ツールやサービスは、どちらかというとAIのための「素材」という感じが強く、それらを使って何かを作るのはユーザーです。Watsonは「ヘルプデスクサポート」や「医療画像処理」など、具体的なアプリケーションに向けて特化させたサービスを提供しているところが他と違うと感じます。他社もこれらを「サービス」として提供する試みを始めていますが、その辺はIBMの方が経験を積んでいるという印象です。

業界を挙げてAIへの取り組みが進む中、IBMもここ数年はWatson+クラウドを戦略の中心に据えてきました。しかし、IBMの期待とは裏腹に、IBM CloudのシェアはAWS、Azureに続く3位にとどまり、Watsonの需要もあまり盛り上がらなかったようです。IBMにつきまとう「ベンダーロックイン」のイメージへの警戒があったのかも知れませんし、IBMが当初WatsonをAIとは呼ばずに「コグニティブ」と呼んでいたことも、わかりにくさを助長してしまったのかもしれません。

いずれにせよRed Hatの買収によって、それらを解決できると考えたのでしょう。単なる「IBMはハイブリッド・マルチクラウドを目指す」では、差別化という意味において物足りなく思えますが、「IBMはマルチクラウドによりWatsonを軸としたビジネスを強化する」だったのであれば、340億ドルの価値はあるでしょう。

でも、そうならそう言えば良いのに、なんで言わないんでしょうね。。買収完了の発表で今のところ株価が持ち直しているので、ネタを温存しているのか、それとも何か別の理由があるのでしょうか。今後の発表が楽しみです。

 

「?」をそのままにしておかないために

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